第2話 地獄の片鱗
数日後。
叔父の工房の裏でいつも通り仕事をしていると、表で接客していた叔父に呼ばれた。
あまり人前に出たくない。
それを知っている叔父が呼ぶとは、珍しい。
仕方なく、表に出て行った。
そこには、数日前に出会った、彼がいた。
確か、アキラって言ってたっけ??
違う世界の人間だから、忘れかけてた。
「アキラさんは、この街を仕切っているお方だ。ご指名だ。挨拶しろ」
叔父に促されて、会釈をする。
お店の名前は教えたが、なぜ来たのか。
不思議に思って、顔を見つめた。
「この店の素晴らしい整備のされた単発式拳銃を見た。これの整備をお願いしたい」
そういうと、一丁の少し円筒の長い銃がカウンターに置かれた。
遠目に見てもわかる、かなり良いものだ。
しかし、整備が甘く、銃の性能を生かし切れていないのがわかった。
叔父は、じっくりと拳銃を確認しながら、
「三日、いただいても?」
「あぁ、かまわない」
そういうと彼は立ち去って行った。
(私の家でみた拳銃の整備が気に入ってお店に来たのか)
それなら納得出来る。
(会いに来てくれたのかと思った)
自然とそんな言葉が脳裏に浮かんで、驚いた。
訳がわからない。忘れかけていた人だし。
取り合えず、叔父に渡されたので拳銃の整備を始めることにした。
(アキラside)
それから何度か、お店に足を運ぶようにした。
あの日から、何故かヒナのことを時々思い出して、心が震えるから。
少しでも繋がりを持っていたくて。
数度目に思い切って「次の休みはいつか」と聞いてみた。
「一応、5日後の予定」
最近ヒナも笑いかけてくれるようになり、笑顔で答えてくれた。
「その日、俺も休みだし、いつも古い服着てるから、買い物でも連れて行ってやる」
今までしたことのない、【デートのお誘い】というものをしてみた。
ヒナは一瞬困惑したあと、「よろしくお願いします」と笑顔のまま答えてくれた。
5日後
ヒナの家に向かっていると
「アキラさん、本来仕事なのに、勝手に約束して遊びに行くのはどうかと思いますよ」
秘書兼悪友のヒカルが、笑顔で話しかけてきた。目の奥は勿論笑っていない。
「明日明後日その分仕事するから今日くらい、いいだろ」
横を歩くヒカルに文句を言う。
俺は今日という日をどれだけ楽しみにしていたか。
もう自覚していた。俺はヒナにすごく興味がある。
見た目は性的興味はないし、何なら女にすら見えない。
しかし、あの日見た、男を躊躇いなく切った顔を思い出すとゾクゾクしてどうしようもなくなる。
「はいはい、二人を邪魔するのもなんですし、今日はあなたの代わりに仕事しますから、明日以降は3倍は働いてくださいね」
あと少しでヒナの家、というところでヒカルと別れた。
ヒナのアパートに着いた。
2階から怒鳴り声が聞こえる。
嫌な予感がして、階段を登った。
鉄製のドアが凹み、開けられているのが見える。
「お前を連れて行かないとカズヤ様に殺されんだよ」
「いやだ、触るな」
数人の怒鳴り声とヒナの声が聞こえた。
俺は急いでヒナの部屋に入った。
そこには、ヒナを押さえつけて馬乗りになっている男と、頭から流血してピクリとも動かない男、両足を押さえつけている男がいた。
瞬時に足を抑えている男を蹴り飛ばして、馬乗りになっている男の脊髄を殴り、気絶させる。
喉を絞められていたのだろう。
苦しそうに肩で息をしているヒナを連れて家から出て行った。
(ヒナside)
お出かけの準備をしていると、アパートに乱暴に入ってくる数人の気配がした。
嫌な予感がする。
枕の下に隠していた拳銃に手を伸ばす。
そして、部屋の前にたどり着いた男達は乱暴にドアを叩く。
錠が壊れた音がした。
(折角わくわくしてたのにな)
私は、やはり人生を少しでも楽しむ価値はないらしい。
狭い廊下を男たちが歩いてくるのがわかる。
三人か。
一人を殺れても、残り二人は不利だ。
恐らく兄の差し金だろう。強者なはず。
取り合えず、一人目の男の姿が見えたので、眉間の間の急所に銃を撃つ。
何が起こったのかわからない、驚愕の表情で先頭の男が倒れた。
二人目も打ち抜こうと銃を構えた瞬間、こちらの銃が先に打たれた。
私の体質を知っているようだ。体には当てて来ない。
そのまま、馬乗りになられて、首を絞められた。
「俺らも命が惜しいんだよ。大人しく着いてこい」
必死に首を絞める手を握りしめて押し返し、何とか意識を保つ。
その時、視界の端に、彼の姿が見えた。
一瞬で足を抑えていた力と、首を絞めていた圧迫感がなくなる。
「おい、行くぞ」
アキラに起こされ、肩を抱かれながら部屋を後にした。
地獄と絶望の中で生きてきた毒娘 @hinagikumomoka
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