最終話題

最後の対話の残り時間はまだ30分以上ある。


安定のAコースか、チャレンジのBコースかをこの場で選べというのか。

せめて妻には相談したい。


Aは顔を上げて背の高い方に

「一旦、妻にそうだ」

話の途中でぶった切られる。

「ダメです。今から5分以内に自分自身で決断してください」


メガネから発されるカタカタ音も今は聞こえない。


静寂が部屋を包み込む

ぐっと目に力を入れチャレンジコースを選択した。その瞬間だった!


コングラチュレーション!!




部屋が明るくなり、壁に掛けられていた大型モニターのスイッチが入り、妻と子供が映し出された。

笑顔で大きな拍手をしている。妻子の他にも後ろに複数名いる。

背の高い方も満面の笑みでAの肩を叩いてきた。


Aは驚きで声が出なかった。

Aは自分の選択がなぜコングラチュレーションなのか理解できていない。

どちらを選んでも正解のはずだからだ。。

「Aの箱を開けてみな」

言われて箱を開けると、1枚の書類が入っていた。

内容は辛辣なものだった。

異動先が書かれており、来年には大幅な人員削減が行われること。チャンスは再び巡ってこないこと。


Aはそれ以上は読めずに、Bの箱を開けようと駆け寄った。


Bの箱はどんなに力を入れても開かなかった。


なぜ開かない??どうして開かないんだ???


気持ちが焦り、箱をがちゃがちゃいじっていると、モニター越しに妻から大きな声で自分の名前を呼ばれた。


振り返ると満面の笑みで親指を立てていた。

開かなくていい理由がわかった。


メガネの手元からこれまでで一番大きなキーボードの叩く音がした。

「いい脚本が書けた。このシリーズは人気があるんだよ。」


おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「当事者研究」他人事ではないメンタル不調、会社や組織の支援等のなかで何を選択していくのか。 H川 @hkawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る