第2話 不穏
しばらくの沈黙の後、背の高い方が先に口を開いた。
「本プログラムは第一段階として、あなたが抱えている症状をご自分で研究、すなわち構造的に理解してもらうことから始めます。
構造の理解は対話して共に見つけていきましょう。研究して理解すると、あなたの精神はしだいに回復していきます。この同意書に署名捺印をお願いいたします。」
Aはいきなり病気扱いされたことに驚きを隠せず、疑問をぶつけた。
「あの、私は自分を病気とは思っていなくて、3日程仕事を休んだのも、身体がだるかっただけですし、きちんと上司にも連絡してます。
そもそもこの研究は断ることはできるのですか?」
背の高い方は少し驚いた顔をして
「できませんよ、何を言ってるのですか?会社はあなたを回復させなければなりませんので、この研究は義務です。あなたは義務を遂行しなければなりません。」
この台詞はAの頭に怒りの感情を沸かせたが、とりつく島がなさそうなので、諦めて同意書を手に取り内容を眺めた。
おおよそ文章として成立するであろうぎりぎりまで小さいフォントを用いている。
その上、これを読み上げる場合、相当な時間を要するにちがいない。
Aはうんざりした心持ちで同意書に署名捺印した。
この間、メガネは一言も話さず無言でキーボードを叩いている。
背の高い方は同意書を受け取り内容を確認した後、濃厚なヒアリングが始まった。
それは以外と昔に遡り、Aの名前の由来から始まり嫁との出会い、3日間休んで何をして、どう思ってたのか、、
背の高い方の独特の雰囲気なのか、メガネがキーボードを打つ一定のリズムのせいなのか、Aは質問に対して嘘や誇大表現はできず、ほとんど全てに正直に答えていった。
ヒアリングは友好的な雰囲気ではないものの、Aは質疑応答しているうちに、自分の現在の問題(症状といわれるのには違和感がある)について、客観的かつ構造的な理解が進んできたことは実感できていた。
90分はあっという間に経ち、背の高い方から
「本日はここまでにしましょう。このまま誰にも会わずに、真っ直ぐにご自宅にお帰りください。
また、ここでの話は決して誰にも話さないようにしてください。
では、また明日同じ時間にこちらにお越しください。次回は今後のあなたの回復と再建について、どのように進めていくか具体的に対話しましょう」
Aは少し話すのが億劫になっていたので、無言で頷き腰を上げ、ドアの方に向かって行った。
メガネはまだキーボードを叩いている。
そういえば、メガネは一度も文字を間違えることなくキーボードを叩き続けている。
続く
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