「当事者研究」他人事ではないメンタル不調、会社や組織の支援等のなかで何を選択していくのか。

H川

第1話 呼び出し


毎朝、始業開始の1時間前に出社していた男が今日も来ていない。昨日も来ていなかった。

欠勤については上司に直接連絡しているようで、特に誰も気にすることもなく、いつも通り時間が過ぎていく。


彼が3日間休んだ翌日から、奇妙なうわさが出回った。

「私今日Aさんのこと、10階で例の部屋に入っていくところ見たの」

「まさかあの役員室の隣の部屋??」

無言になったことから、Aは例の部屋に入ったようだ。


10階の例の部屋はビルメンテナンス会社の清掃作業も入らせていない。

入れるのは総務部の部長だけで、彼が毎朝掃除を欠かさないのだ。


そして今、Aはその10階の例の部屋の前にいる。

今朝4日振りに出勤したら、直属の上司にすぐにここに行くように指示を受けたのだ。

この部屋で何をするのかは、上司も知らないようだった。

Aは新卒で20年もこの会社に居るため、この部屋の噂は聞いている。


いろんな噂があるが、まとめると

・社長でも入室を認められていない。

・3日間連続で入室したものは、人が変わったようになる。

・作られた目的がわからない。謎の部屋である。


Aは気持ちを落ち着かせて扉をノックする。

中から「どうぞ」と、何も特徴のない声を確認してから心を落ち着かせて入室した。

2人の男が立って待っていた。


部屋は思ったよりも広かったが、恐ろしく殺風景で家具は中央に丸いベージュのテーブルがあり椅子は三脚のみで、右隅には60センチ角位のブラインドもなく、開くかどうかもわからない窓があった。


噂の部屋はたったそれだけだった。

ホワイトボードもなく、モニターもない。

時計も連絡用の固定電話もない。

これで卓上ライトがあればまるで取調室みたいだ。

もちろんAには取り調べを受けた過去などない。


二人はAが部屋を観察しているのを黙ってみていた。


「おかけください」

Aがいかにも堅そうで、肌触りはごわごわしてそうな椅子に腰かけるのを見届けてから、2人は同時にAが座っている椅子と兄弟のような椅子に座った。

僕らは丸いテーブルを囲むように座った。


二人のうちどちらかが、よっこいしょと言うかなと思ったが無言だった。

「それでは第一回目を始めます」背が高くてひょろりとしている方が言った。


もう一人のメガネは、まだ一言も発していない。


続く。


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