第9話 金魚を亡くした話
3月ごろに金魚を飼い始めてから5ヶ月。
たった5ヶ月で、私は金魚を1匹亡くした。
赤い頭と白くて美しいヒレを持つ「丹頂」という種類の金魚だった。
60㎝と小さな金魚を飼うには少し大きな水槽の中で、名前をつけて2匹飼っていた。2匹は温厚で、元気に泳ぎ、餌もよく食べていた。だからこそ、前日まであそこまで元気だった金魚が亡くなったのか、いまだに分からないと感じている。
ある日ふと水槽を覗くと、1匹が底でじっと動かなかった。
時折動いたりしているが、今までのように元気に水面まで上がってこない。これはおかしいと感じた私は、サテライト(稚魚や病気になった魚を隔離する小さな水槽のこと)に金魚を隔離した。
ネットで調べたところ、松かさ病の可能性が高いことが分かった。代表的な症状としては鱗が逆方向に逆立つ、末期の場合は平衡感覚の喪失などがあり、私が飼っている金魚は末期だった。
つまり私が気づかないうちに、松かさ病を放置してしまったのである。これは完全に私の落ち度だと思いつつも、やれることはすべてやった。
塩水浴を行い、慣れてきたら薬も投入する予定だったが、結局翌朝サテライトを見たら金魚はすでに死んでいた。何度呼びかけてもえらや口呼吸をしておらず、動かなかったため、私は「ああ、死んでしまったのか」と冷静に考えながらサテライトから金魚を取り出し、水で少し洗ってキッチンペーパーに包み、ビニール袋に入れる。
死んでしまった金魚の亡骸は、燃えるゴミとして出した。
(金魚の亡骸を土葬した場合、環境汚染や動物が土を掘って面倒くさいことになるらしいため却下、土葬できるようなプランターもなかったため、結果として燃えるゴミとして出したのである)
丹頂という金魚は非常に繊細な生き物で、少し触れたり、長く見つめるだけでストレスを感じてしまうらしい。それがダメだったのだろうか。
それとも、フィルターの掃除をしなかったから?
水替えの頻度が足りなかったから?
窓から指す日光が嫌だったのか?
ライトがダメだったのか?
そもそも早い段階で塩水浴や薬剤を投入しておけばよかったのでは?
色々と考えても、結局死んでしまった金魚は戻らない。同じく熱帯魚を飼っている旦那曰く「松かさ病は人間でいうところのがんみたいなもので、末期だったらどれだけ手を尽くしても無理だったから仕方ない」とのことだったが、私にとっては「はじめて飼った金魚を死なせてしまった」という後悔と事実だけが頭の中に残っていた。
水槽の中にいるころから、手で触れあいたいなと思っていたけれど、まさか死体をすくいあげて触れることになるとは。
なんとも皮肉だなと、心の中で呟く。
もう一つ皮肉なのは、病気がちなもう片方が今も元気に泳いでいることだ。
転覆病になりやすい体質の子で定期的に観察をしているが、最近は相方がいなくなった水槽の中でひたすら元気に泳いでるように見える。
松かさ病になっていないか念のためチェックをしたが、今のところ異常はない。
とりあえず一度、水替えをして、フィルターも一緒に掃除をしよう。フィルターの掃除に関しては旦那の方が得意だから、熱帯魚たちの水替えのついでにやってもらおう。
とりあえず今回のことで決心したのが、「もう1匹の金魚が死んだらしばらく金魚は飼わない」だ。もう1匹が死なないように全力で対応したいが、死は突然やってくるのでこれをもって私はペットを飼うのをやめることにしよう。
金魚の水槽の前をぼんやり眺めながら、そう誓った。
しがない私ですが もちころ @lunaluna1
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