第3話 手先が不器用すぎて死ねなかった話

今日、私は首吊りを決行しようとした。

だが、その目論見は手先の不器用さと知識のなさが原因で一瞬で無駄となる。


ここまで脳内に「死のう」という決意で覆いつくされたのは、人生で二度目だ。

真っ青な空と温かい日差し、少し強い風の中、私は公園から帰る途中からその決意に満ち満ちていた。


一般的な感覚で言うと、「買い忘れた調味料があるから急いで買いにいかなきゃ」というものに近い。私の死は、そんなごくごく当たり前のことをやりとげようとする感覚とほぼ同じだった。


自宅に帰り、近くにあった手ぬぐいタオルで首吊り用の疑似ロープを作り、それをドアノブに引っかけて死のう。これが私の思い描いていたプランだ。

だがしかし、その時の私は死にとらわれすぎるあまり気づいていなかった、自分の手先が死ぬほど不器用であることを。


3枚ぐらいのタオルを手に取り、ロープのようにつなげようとするがこれがなかなかうまくいかない。結んではほつれ、ほつれては結びを繰り返す。これほどまでに自分の手先の不器用さを呪ったことはない。


ならばいっそのこと、一枚のタオルで首を絞めようと画策するのも失敗した。

そう、圧倒的に長さが足りない。ドアノブに引っかける長さと自分の首を絞めるぐらいの長さではなかったのだ。

短すぎる。圧倒的に短すぎる。


これでは拉致があかないと思い、何か手頃で長さもあって不器用な私でもすぐに首吊りできそうなものはないかと部屋の中を血眼で探し回った。

見つけたのは、百均で売っているビニール紐。これは長さも調節できるし、ぐるぐる巻きにすればタオルよりも簡単にいけるのではないかと考えたが、これもまた一瞬で撃沈した。


私のやり方が間違っていたのか、まったくと言っていいほどドアノブに引っかからない。ならばいっそのこと手を使ってビニール紐で無理やり首を絞めようと思っても、食い込む。喉仏に当たった時はさすがに痛いと感じた。


タオルは確実に頸椎を落とせそうだが、長さが足りない。

ビニール紐は長さはあるものの、そもそも調整の仕方が分からない。


かくして、私の首吊り計画は手先の不器用さによって失敗した。

この後夫の眠る寝室へいき、実家にも電話をかけ、壮大に泣き喚いたのは言うまでもない。


手先の不器用さについてはこれまでの人生でさんざん笑われたり、同情を買っていたのに、まさか思いがけないところで私の命をつなぎとめてくれるとは思いもしなかった。これを書いている今は落ち着いており、多少この世への未練も出てきたので自分から死ぬことはおそらくないだろう。


ただ…どうしようもない現実に打ちひしがれ死を覚悟したその時に、私の手先の不器用さが邪魔をするかどうか、それはその時になってみないと分からないが。

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