第8話 クレジットカード

 カード一枚で支払いができる。使いようによっては身を滅ぼすが、基本的には便利な支払いツール。そう、クレジットカードである。

 私はクレジットカードを2枚所持している。どう使い分けているかというと、1枚は普段の持ち歩き・ジムの引き落としなど基本的な支払いをする用。2枚目は1枚目よりも限度額を多くし、大きな支払いをする時もしくは不測の事態があり得る旅行用にしている。3枚も4枚もカードを作っても、私の口座にはそれを賄えるほどの財産があるわけないので2枚くらいでちょうどいいのである。

 と言っても、私はこの2枚目のカードを使ったことが無い。いや、使えなかったと言う方が正しい。これがなんとも間抜けなエピソードなので、今回のテーマをクレジットカードにしたのだ。

 大学4年の終わり、国試も無事終了した後のことである。私は卒業旅行と称して、国内で3回・海外で3カ国の旅行を計画していた。国内では金沢、某有名ランド、大分を中心にその周辺を合わせて観光した。金沢では海鮮丼を始めとしてレンタルした着物を着て茶屋街で食べ歩きをするなど大いに楽しんだし(外国人に一緒に写真を撮ってくれと頼まれとても良い気持ちになった)、某有名ランドでは友人とおそろいのカチューシャをつけ5人で手分けして並びながら何度もアトラクションに臨んだ(金沢の時はラベンダーグレーだった髪色が良い感じに色落ちして、ミルクティーベージュになっていたのでこの時の写真が1番気に入っている)。大分では水族館、地獄めぐりなど定番の観光スポットを回りつつ周辺の長崎にも足を運んだ。(ちなみにこの時の髪色は紺である。)国内での卒業旅行は大成功であった。

 問題は、海外へ進出した際のことである。パスポートも更新し、大学4年間バ畜を極めたお陰で学生としてはたんまり貯めたお金を元手にヨーロッパ3カ国を旅した。現金の持ち歩きは10万円程度に納め、あとはカードで決済すれば安全だろうと鷹を括っていた。普段使っている1枚目のカードではなく、2枚目の旅行用カードをこのために作ったのだからと2枚目のみ旅のお供とした。これが間違いであった。

 最初の1カ国目、ロンドンに到着した時のことである。ロンドンのヒースロー空港から中心街へ行くのには地下鉄を利用する必要があった。ロンドンの地下鉄に乗る際は、日本でいうSuicaのような便利なカードがあるので、これを空港で作ればロンドン旅行中は困らないだろうと考えた。しかし、いざ空港で販売機を見たらキャッシュでの決済ができなかったのである。まあまあ。クレジットカードを持っているしそれで買おうとなるわけなのだが、私は1つ失念していた。クレジットカードの暗証番号がわからなかったのである。

 どの4桁の数字を使ったのかはわかるのだが、その順番を覚えていなかった。空港で大パニックである。何回か試すも、3〜5回目でこれ以上試せませんとエラー。ロックがかかった。すごすごと空港職員を捕まえ、キャッシュで買えないのか!とカタコト英語で訴えたところ、キャッシュオンリーの販売機があると言う。何人もの人に聞きながら、やっと辿り着いた。幸先の悪い話であった。まあ12時間後にはロックも解除されるとネットに書いてあったし、幸いなことに旅行中大きな支出もなくクレジットカードは出番を無くしたのだが。

 私のお間抜けなエピソードはこの空港大事件から始まったのである。

 卒業旅行から3年後、私は静岡に来ていた。箱根旅行のついでにアウトレットパークで買い物をしようと意気込んだのだ。普段使っているカードは置いておき、2枚目のカードを持っていった。もちろん、暗証番号もバッチリである。私は抜けたところの多い人間でミスだらけだが、基本的に2度も同じ間違いをするほど愚かでは無い(たぶん)。地元には無い大きなアウトレットパークに行くと言うのだから、少しくらい普段は買わないブランドのマフラーでも見てみようかと心躍っていた。

 大学生の時は、とうとう手に入らなかったブランド(地元にはセレクトショップしかなく、しかも入荷したらすぐ売り切れていた)のショップを見つけマフラーを見ていると、当然のことながら店員が営業トークをし始めた。ちょっと好みのタイプのイケメンだったし、言葉選びが上手く、一緒にいた友達にもどんどん乗せられて「買います」と言ってしまった。、、、お気づきの人もいるかもしれないが、事件はこの後の会計で起こった。

 クレジットカードが読み取りエラーになるのである。この旅行前に、ロマンスカーのチケットなどをこのカードで決済したのに急に使えないとは何事だろうかと大いに焦った。何回試しても読み取りできなかった。このマフラーの値段は4万円であったが、私の所持金は1万円しかなかった。もうショッパーにも入れてもらったのに、やめますと言うしか無いのか。恥ずかしくて顔から火が出そうだ、と思った瞬間。神の声が聞こえた。

 「3万円貸すよ、絶対返してくれるのわかってるし」と友人が声をかけてくれたのである。(後にこのお金はホストクラブは行くためのものだったと知り、大変複雑な気持ちになった)友人の好意に感謝し、その場は収まった。旅行後、しっかり返金も行った。

 ただ、何故カードは使えなかったのであろうか。もしかして、あのロンドンでのロックが解除されてないのでは。店頭で使うのはあれ以来なかったと思い、帰宅後すぐさまサポートセンターへ連絡した。案の定、あのロンドンの件で暗証番号を使ったカードの利用ができなくなっていたのである。3年後に知ったというのがなんとも間抜けである。

 カードの作り直しをしなければならないということで、すぐ申請し、今ではちゃんと使えるカードを持っている。あの時の苦い思いを胸に、もう2度と同じ過ちは犯さないと心に決めて。

 クレジットカードを持っている方々はぜひ気をつけてほしい。一度間違うと、それが数年後まで尾を引くこともあるのだから。

 


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