真昼の月

入江 涼子

第1話

 聖月みづきは飼い猫であるルナを抱き抱えながら、公園を散策していた。


 黒の柔らかな毛並みに綺麗な淡い蒼の瞳の雌だ。年は今年で、五歳になる。


「……ルナ、空にお月様があるね」


「ニャア」


 話しかけると、ルナは返事をするように鳴く。結構、穏やかで人懐っこい性格だ。聖月はそんなルナを両腕で抱えながら、真昼の空に控えめに浮かぶ月を眺めた。白く、太陽に隠れるように見えるが。何故か、聖月は真昼の月を見るのが好きだった。

 ふと、今付き合っている彼氏の冬夜とうやを思い出した。冬夜は日本人には珍しいアルビノに近い色彩を持つ。確か、父方の祖父がイギリス系だとは聞いた。遺伝のせいか、冬夜は銀に近い金髪に淡い藍色の瞳を持つ。

 背も高く、体格も良い冬夜は学生時代も浮いていたとは本人が言っていた。

 聖月が彼と知り合ったのは今の職場でだが。同じ会社に勤めており、冬夜は聖月より三歳上で先輩になる。

 まあ、今日は土曜日で休みだから、ルナとのんびり散策出来ているわけだが。

 今見ている真昼の月は冬夜が持つ色彩を連想させる。そんな事を考えながら、聖月は帰路についた。


 帰宅すると、ルナをケージに入れる。聖月はコートを脱ぎ、マフラーを外す。洗面所に行き、軽く石鹸で手を洗う。タオルで拭いたら、台所に向かった。

 冷蔵庫から、お肉や野菜などを出す。とりあえず、小鍋を用意したら。お味噌汁や野菜炒めを手早く作る。お茶碗にご飯をよそい、お味噌汁もお椀に入れて。野菜炒めをお皿に盛り付けた。


「いただきます」


 一人で両手を合わせ、昼食を済ませる。流し台に空いた容器を持って行き、軽く洗う。終わるとルナにもキャットフードを与え、浴室に向かおうとした。

 テーブルの上に置いていたスマホが鳴る。液晶画面を見たら、冬夜からだ。聖月は慌ててスマホを手に取った。ちなみに、電話だが。


『……もしもし、聖月?』


「もしもし」


『いや、唐突だけどさ。聖月ん家に今から行っても良いか?』


「うーん、良いけど」


『分かった、じゃあ。ルナのおやつとかも持って行くわ』


 冬夜は手短に言うと、電話を切った。聖月は慌てて、リビングを片付けるのだった。


 一時間くらいして、本当に冬夜がやって来た。高い背丈に色彩に負けない綺麗な顔立ち、聖月はあまりのキラキラしさに目をつい細めてしまう。


「よ、聖月。ルナ用のおやつとおもちゃ、お前にはスイーツを買って来た」


「うん、いらっしゃい。わざわざ、ありがとう」


「どういたしまして」


 冬夜は笑いながら頷く。聖月はリビングに再び、戻ろうとした。


「……なあ、聖月。俺ら、付き合い出して何年になる?」


「そうだなあ、今年で二年目に入ったっけ」


「ん、ならさ。そろそろ、結婚も視野に入れても良いと思ったんだよな」


「え」


「聖月、その。急で悪いけど」


 冬夜はちょっと躊躇う。聖月はあまりの急展開に頭が追いつかない。


「……俺と結婚してください」


「……い、いや。あの冬夜さん?」


「何?」


「私、もう今年で三十路よ?冬夜よりは老けて見られやすいし」


「俺は気にしねえよ」


 私はまだ、事態を理解出来ないでいた。けど、冬夜は辛抱強く返事を待ち続ける。


「……分かった、私さ。冬夜とは釣り合わないって思ってた、背はちっちゃいし。顔はブスだし、スタイルも貧相だしさ」


「んーむ、俺の方が釣り合わないだろ。聖月とは身長差がエグいくらいあるからさ、正直ハグする時とか。力入れ過ぎたらどうしよとは毎回、ヒヤヒヤしてた」


「はあ」


 確かにとは思う。聖月は身長が百六十センチもない。顔立ちも平均的な日本人顔だ。胸はまな板だし、スットントンな体型なのはさすがに自覚していた。反対に、冬夜は百八十近い身長に日本人離れした顔立ち、屈強と言える体格で。スタイルも良いとなったら、世の女性方が放って置くはずがない。


「ま、聖月が返事をくれたからさ。来月にはお役所で婚姻届出して、式も挙げる。そのつもりでいてくれ


「……はい」


 逃げたい気持ちになったが、冬夜は手放す気はさらさらないようだ。頷く聖月だった。

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真昼の月 入江 涼子 @irie05

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