ある日からATMは紙幣ではなく昆布を吐くようになった。
いや。
その日から人間の思考もなんかおかしくなってしまってないですか、これ。
本作はタイトルのとおり、ATMから昆布が出るようになってしまった世界線のお話。
どんな場所に置かれたかも分からない紙幣がいた場所にあった昆布だぞ、不潔では?
とか、
いや、そもそもこれは食って問題ないのか。新手のテロでは。
みたいな思考に至る人間はひとりもおらず、出てきた昆布でおでんを作ったり、昆布がめでたいと拝み始めたり。この世界線なら、顆粒出汁に負けつつある昆布出汁の味噌汁が復活するかもしれません。
という横道はいったん置いておき、ATMから出てきた昆布に驚きはあっても恐怖はなく人々は昆布を日常に受け入れていきます。しかもだんだん、まるでネタ切れを起こした芸人のように、昆布の中でもこれは何々昆布、あれは何々昆布と昆布の種類まで着目するようになる。しかもなぜか、バズる。
いったい何が起こっているのか?昆布星人の侵略なのか?
結論は語られず、どころか最後の最後に謎を海に流してくる。
不思議を不思議のまま受け入れ、不思議に終わる。不思議な読了感です。
お勧めです。
タイトルにインパクトがあり、面白そうだなというのが第一印象。
しかしこの物語からはいろんなことを考えさせられます。
少し変わったことが起きれば人間界はそれ一色になる。それが日本特有のものなのか世界的にそうなのか分からないけれど。
人は変化や話題に飢えているのだろうか?
それとも、流行に乗ることで自分がその中の一員と感じられて安心できるのか。もしくは承認欲求を得られる機会の一つなのか。
皆が経験していることは共感性も高いし、知らない相手とでも気軽に盛り上がれるだろう。人間は単純で愚かで面白い生き物だなと思った。
この物語では話題の中心が昆布というだけで、どんな話題でもこんな風になるよなあと思い、リアリティを持たせていると感じました。
それだけでなく、この主人公夫婦のやり取りからは平和だなという感想を抱きました。互いを大切にしていることが会話や主人公の心情によって伝わってきます。
この物語の中にはその後の展開もあって……面白いことが起きる予感を残している。ただ面白いというだけの物語ではありません。
あなたならこの物語を読んで何を感じますか?
是非お手に取られてみてくださいね。お奨めです。