第23話


一行はズヨカオ城上部の庭園へ降り立った。

権力誇示に特化されたズヨカオ城は異常に大きく、中でもパーティー会場を兼ねた巨大庭園は初ダイビングのクガですら狙いを外さず降りられるほどだ。

そのマウント取りの塊の中のさらにマウンティング用の場所を見下ろせるのが城最上部となる塔…ズヨカオのプライベート空間である。

貴族的であり悪魔的でもある構造は、ズヨカオの模範ぶりを顕著に示していた。

「高い…せっかく降りたのに…。

どうして地に足をつけて暮らさないんだ…」

「居心地悪いんでしょう。

万物の敵ですから」

接地を焦ったイヴァナカカは塔の屋根に降りてしまい、また魔王に背負われて合流した。


「ギヘカロバ…城の上から来るとは!!

しかもワタシの許可なく!!

どこまでも無礼な奴だなお前は!!」

一行が通された会議室に遅れて現れたズヨカオは、まず叱責した。

「申し訳ありません。

ところで無礼と言えばあなたは事実上上司である魔王との会談に1時間も遅れましたが…」

「急に来るお前が悪い!!」

「事前にお伝えしていた予定時刻を6分オーバーするのが急ですか。

まるで来ないと思っていたかのような反応ですね」

魔王の嫌味。

無許可の夜間ダイビングを敢行したのは暗殺防止のためである。

決してイヴァナカカを虐めるためではなく、それは行き掛けの駄賃に過ぎない。

「泥魔形(注∶地球における泥人形)如きが生意気な!!

言ったろう、お前を魔王とは絶対認めないと!!

名誉クソオス相手に時間を割いてもらえるだけありがたいと思え!!」

ズヨカオは話題をそらす事で嫌味を躱した。

躱さなくてはならなかった。

実際、来させないための手は打ってしまっていたからだ。

もし魔王一行がお行儀よく基地なり空港なりに降りていたら謎の事故で全員爆死していたろう。

ズヨカオが遅れたのは急遽中止命令を出し、疎かだった化粧を直していたためである。

「ではありがたく会談を始めさせてもらいましょうか」

「待て、待てい。

数が足りぬではないか。

男衆はどこへ行った?」

モムビマの疑問。

会議室に居るのはズヨカオ、魔王、モムビマ、ムバジャー、イヴァナカカ、撮影係の秘書だけだった。

城主が答える。

「ここはワタシの城だぞ。

本来クソオスが入る事は叶わぬ聖域だ。

殺さず隔離で済ます慈悲がわからんとはさすが名誉クソオスだな」

「…という訳のようです。

男たちの別室とは映像で繋げてもらえるそうなのでリモート参加の形になります。

まあ義理の息子が許されただけましと思いましょう」


〜別室〜

「何しに来たんスかね、オレら」

「いやいや、参加自体は可能なようですから、腐るほどの事はありますまい。

端役の控えにしても粗末な部屋ではありますが…」

「その分大掛かりな罠は無さそうでいい。

司令部に残ったネモヤよりは恵まれとるよ。

…わしらはいいとして…ぬしまでここにおる事はなかろうに」

「ふふふ…そういう妻ですから。

素晴らしいでしょう?」

クガ、サンシン、ジォガヘュ、そして二代目魔王シュワルツの4名は、備品倉庫でパイプ椅子に座っていた。

普段は別の場所で使われる文字通り取って付けた23インチモニターが男達に会議室を見せている。

画像は乱れがちで、液晶までもが男性嫌悪に蝕まれているかのようだった。


「では改めまして。

フェミニズムの是非について議論していきます。

女の生き方について、と言い換えてもよろしい。

非であると結論された場合、フェミニズム根絶のため魔界全土においてフェミニズム及びフェミニズム的主張を無効とします。

酔っ払いの寝言と見做す、という意味です。

まずはフェミニスト側の意見から聞きましょうか」

「フェミニズムが是か非か?

これほどの愚問がこの世にあるとは。

いいだろう答えよう。

今はそういう時代じゃない。

はい論破!!

是に決まってるだろう!!

問う行為そのものが時代遅れだ!!

お前も自立した立派な女性になりたければ古い考えは捨て時代に乗れ!!」

「いつの話をしているんですか?

今はもう改革の時代ですよ。

私が始めた時代のほうが新しいので、古い考えは捨て時代に乗ってください」

「なっ…ばっ、馬鹿か!?

古いのはお前だ!!」

「んん…?

何か勘違いしているようですが、魔界の時間軸だと後から始めたほうが新しいんですよ。

ですので、新しいのは産めよ増やせよ。

古いのはフェミニズムです。

子を生してこそ一丁前が過去行われていようと、改めて始まったので新しいです。

さあ従いましょうね」

「ふざ…ふざけるなよ!!

そんな強引に決められていいわけがない!!

時代と関係なくフェミニズムは素晴らしいんだ!!

悪あがきするな!!」

「これは失礼しました。

そうですよね、

『自分のほうが新しいから従わない奴は間違ってる』なんて新しい以外何の説明も無いただの力押しですよね。

理屈抜きに自分を肯定させたい馬鹿の暴力ですよね。

時代などという力で強引に作れる流れと関係ない素晴らしさが大事ですよね。

どう素晴らしい是であるかの説明が無いなら素晴らしいと認められるはずないですし、説明した上で非であると看破されたら悪あがきせず退くべきですよね。

私が間違ってました。

では無関係な話は止めにして、フェミニズムの是非に戻しましょうか。

さあ説明をどうぞ」

「グギィィイー!!」


「うわっなに今の音!

誰かイス壊した!?」

「ズヨカオの歯ぎしりだよ。

いつ聞いても惚れ惚れする」

「…あの…この方二代目さんっスよね?

昔テレビで見た事あるっス。

こんな感じでしたっけ?」

「ええ。

いい役者ですよ彼は」


「ああ気持ち悪い!!

フェミニズムは絶対に必要だ!!

歴史を見ろ!!

社会を見ろ!!

家庭を見ろ!!

虐げられる女性がそこにいる!!

クソオスと手下の名誉クソオスどもに踏みつけにされている!!

女性はその支配から社会上、政治上、法律上解放されなければならない!!

絶対正義たる男女平等のために!!

絶対正義の実現を目指すフェミニズムが非などという事はありえないあってはならない!!」

「先に確認しておきたいのですが、名誉クソオスとはなんですか?」

「自分で調べろ!!」

「あなた」

秘書が端末で調べる…が。

「特に定義は無いみたいだね…ズヨカオ様の造語だし」

「ズヨカオ…あなたが造った言葉の意味はあなたが教えなければわかりようがありませんよ」

「わかれ!!」

「わかりました。

今後あなたの言葉はこちらで翻訳させていただきます。

クソオスは糞+雄で男への侮蔑表現。

名誉クソオスは

『市が特定の悪魔の功績を表彰するため贈る称呼』という意味の名誉市民になぞらえた

『男に褒められる女、男の味方をする女』とします。

とすると、全ての女は名誉クソオスであるべきだと言えます。

なぜなら男女は同じ社会で暮らす仲間だからです。

仲間の味方であろうとし仲間に褒められる事をするのは当然だからです」

「男女が仲間!?

キモッそんなわけあるか!!

虐げる者と虐げられる者が仲間なわけあるか!!

女性は黙ってチンポしゃぶってろと言ってるのと同じだ差別主義者めが!!

お前のような下品な裏切り者がいるから女性は生きづらくなるんだ!!

恥を知れ!!」

「言葉足らずだったのは認めます。

男側の性犯罪その他不合理を女側が受け入れるべきという話では全くありません。

女側の被害妄想その他不合理を男側に受け入れさせてはならないという話です」

「被害妄想だと!?

事実だ!!

虐げられているのは事実だ!!」

「具体例を挙げてください」

「ジェンダーギャップ!!

政治においては大臣、議員!!

会社においては管理職!!

これらの女性比率は未だに低い!!

家庭においては専業主婦の割合が未だに高い!!

即ち女性の社会進出が遅れているという事だ!!

クソオスの卑劣な陰謀によるガラスの天井が女性の活躍を阻んでいる!!

これを打破し、女性比率5割以上を達成し、男女平等を実現しなくてはならない!!

だって社会の半分は女性なんだぞ!?

社会の決定権も半々で分けられてなきゃおかしいだろ!!」

「いいえ全く。

社会とは共同生活です。

共同生活であるが故に維持発展が前提となり、維持発展のために競争による優劣の選別が必要となり、優劣の選別のためには男女性による選別を禁じなければなりません。

社会は公園の遊具ではありませんので、

『男ばっかり使うのはずるい!

かわりばんこに遊べなきゃおかしい!』という遊び場の理論は成立しないという事です。

社会の決定権はより優れた者が専有して然るべきものですので、公平な競争の結果であるなら男が専有しても問題ありません。

社会を遊び場の理論で動かそうとするのがフェミニズムであるなら、フェミニズムは社会の敵と言わざるを得ません」

「馬鹿言ってんじゃないよ!!

優劣の選別っていうならなおさら女性を増やさなきゃだろうに!!

お前の言ってるのはただの男尊女卑だバーカ!!

性差別するな!!」

「ああ、私も性差別には反対ですよ。

性差別に反対だから『女性を』増やすのに反対しているんです。

『男の代わりに女を増やせば改善される!

なぜなら女だから!』は女なら男にできなかった仕事でもこなせるという女尊、男は女の知恵抜きではまともに働けぬという男卑で、能力を無視した性別による不当な冷遇つまり性差別です。

男尊女卑が駄目なら平等に女尊男卑もやめましょう。

性差別を無くしたいならフェミニズムを捨てましょう」

「ギギギ…!!

ダブスタ!!

そうだダブスタだ!!

おやおや変だぞ!?

男女は同じ社会で暮らす仲間のはずなのに権利の半分をもらえないのか!?」

「はい。

仲間だから適材適所で分担します。

仲間だから自分より共同生活の維持発展を優先しますし、共同生活が崩壊するような事はしません。

飛行機に喩えるなら、機長が操縦するのは技能によって適材を証明し資格を得たからであり、フライトの維持と目的地到達という発展と墜落防止のためです。

CAが操縦しないのは適材を証明せず資格を得ていないからであり、フライトの維持と目的地到達という発展と墜落防止のためです。

仲間だから、仲間を危険に晒してはならないから、決定権という重大な権利は最も適した資格者が持たなければならないのです。

共同生活の仲間だから共同生活のためのこの構造に納得できるのです。

つまり操縦を

『やりたいからやらせろ!』で誰でもできる権利だと思っているのがそもそも誤解なんですよ。

そんな権利は存在しませんので、仲間に与えないのはダブスタだという指摘は外れです。

そして

『お前ばっか決定権握ってずるいから操縦桿半分渡せ!

墜落したら半分お前の責任な!』などと言うフェミニストのCAは虐げられているのではありません。

誤解した無能な敵が共同生活を脅かしているのです。

このCAの拘束を虐待と呼ぶのなら、むしろ積極的に虐げるべきですね。

なにしろ敵なんですから」

「そんな事ない!!

女性ならクソオスと対等になる資格を生まれつき持ってる!!

これのどこが誤解だ!?

平等は神が定めた真理だぞ!!」

「詭弁ですね。

『対等になる資格を持ってる』と

『対等を証明する』は別の事です。

ですので、証明なしに資格者の権利を求めるのは誤解です。

付け加え、

『男が努力と才能で得た資格を女は女であるだけで得られて当然』という性で努力と才能を無視した平等は不公平です」

「ハッ!!

気持ち悪い。

やはり名誉クソオスだな。

クソオスと同じで都合の悪い事からは目を背ける!!

あの風刺画を見た事は無いのか!?

魔球場(注∶地球における野球場)の!!」

「ああ…フェンスより背の低い子供が大中小の3名居る絵ですか?

全員が同じ足場を同じ数得るのが平等、全員が試合を見られる高さに調節するのが公平、と」

「知っていたか。

知っていて無視したのか!!

卑怯すぎて吐き気がする!!

あれが公平なんだ!!

努力と才能を無視した平等こそが全員を幸せにする公平なんだよ!!

女性は下駄を履いてでもクソオスと並ばなきゃならないってわかれ!!」

「詭弁ですね。

あなたが例に挙げたのはサービスを受けるためにある娯楽施設の公平です。

社会は娯楽施設ではありませんので娯楽施設の公平が存在しないのは当たり前です。

社会は維持発展を前提とするが故に労力を必要とする仕事の場であり、仕事を完遂するため優劣を選別する競争の場です。

競争の公平は同じスタート地点に立つ事。

実力のみで挑む事。

同じゴールを目指す事。

何より不可欠なのは、勝った者が勝ち敗けた者が敗けるルールです。

勝者が敗者と同着になったら競争そのものが無意味になってしまう。

その不公平は維持発展の妨げであり、共同生活への敵対行為です。

よって不公平な平等の実現を目指すフェミニズムは社会の敵です。

社会への敵対行為を絶対正義と認識するフェミニストは社会のルールが通用しない異次元の怪物です。

魔界には異次元の都合に振り回されてやる義理も必要も全くありません。

ジェンダーギャップ?

大変結構。

敗けたら敗けなさい。

勝った者に勝たせなさい。

社会の敵になるより敗けた立場を務めるほうがずっと立派な社会的自立ですから」

「そんなのおかしい!!

まず機長とCAの喩えからズレてる!!

飛行機で言えば女性とクソオスは両翼なんだ!!

クソオス社会は片翼飛行!!

これは経済的問題でもあり、女性が活躍すればもっと豊かに安定して飛べるという事だ!!

社会のバランスを崩し飛行を不安定にするお前こそ敵だよバーカ!!」

「正直私は経済に明るくないのですが、わかってる範囲で言いますね。

雇用は有限なんですよ。

なぜなら悪魔が有限であるが故に需要が有限だからです。

クソオス社会なんですよね?

社会は男が主導してるんですよね?

男ばかりでさえ余ってリストラしてる所へ女が増えても余るだけでしょう。

面白い指摘ではありますが、働き手が増えれば良くなるというのは物理的に無理ですので男女を両翼とは見做せません。

また両翼としてもエンジン出力という資格に左右差があれば機は傾きます。

あなたの喩えは成立していません」

「あああも〜キモいキモいキモいキモい!!

そんな事ないそんなのおかしいって言ってんだろ無視するなよ聞こえないのか!?

お前は絶対間違ってる!!

ワタシは絶対正しい!!

フェミニズムが正しいからだ!!

女性差別を解消してきたフェミニズムは絶対正義であり、その使徒であるフェミニストもまた絶対正義!!

お前が魔王を僭称できてるのもフェミニズムのお蔭なのに邪魔するのか!?

恩知らずの裏切り者!!」

「がさつな馬鹿の詭弁ですね。

生活できるよう井戸を掘ってくれた者はありがたくても、魔界を穴ボコだらけにして生活できなくする者は敵です。

先達の恩を借る敵の分際で

『誰のおかげで水を飲めると思ってるんだ!』なんて、あなた風に言えば現実と矛盾する時代遅れですかね。

あなたはやり過ぎました。

消えなさいイレギュラー」

「キィエエエエうるせええーーーっ!!

ジェンダーギャップは悪いんだ!!

絶対絶対絶対絶対絶対絶っっっっ対間違いなんだ!!

社会の不完全性を現す埋めなきゃならない溝なんだ!!

なぜならワタシがそう感じてるからだ!!

この傷ついた被害者の心を無視する事は絶対誰にも許されない!!

わかったか!?

わかったら差別主義者の名誉クソオスは黙ってろ!!

邪魔だ!!」

「私が差別主義者?

ふぅっ…クヴォジといいあなたといい、どうしてそこまで正当性を強弁できるんですかねえ?

私が冷遇するのはあなたがガラスの高下駄履いた不審者だからですよシンデレラ。

競技場では公式の靴に履き替えてくださいね」

「ア゛ア゛ーーーーーーーーッ!!」


「会議室でカラス飼ってます?」

「ズヨカオの雄叫びだよ。

素敵だねえ」

「素で敵とは言われてたっスけど」

「小僧、お前はどう見る?」

「いや〜態度は怖いけど言ってる事はズヨカオ様のほうがわかるっスね。

そりゃ欲しいもんは欲しいし、よこせって言うのも自由でしょ?

そのほうが生きやすいっしょ?

それぞれの自由でいいのに、魔王様は余計な事してんな〜って」

「そうか…」


「ムバジャー。

何か言いたい事は?」

「今できた。

なぜムバに振る?」

「あなたは放っておいたら何も言わなさそうなので」

「ハンッ!!

400過ぎで自分を名前呼びする天然ブリっ子に何がわかる!!」

「私やあたしじゃわかりにくい。

名前呼びなら暗くても遮蔽物ごしでも早く誰かわかる。

早いは良い。

わかりやすいは良い。

天然ブリっ子がわかりやすいならムバのやり方は良い」

「クソオス受けがいいの間違いだろ肉便器。

その口調でどれだけ釣った?」

「やらないか、って誘ったらけっこうやれた。

えーと1、2、3…」

「ムバジャーそのへんで。

フェミニズムについては…」

「穢らわしい」

「はい、どうも」

「穢らわしいのはお前だ毛玉ンコ!!」

「イヴァナカカはどうですか?」

「そうだな!

我はズヨカオ殿と同意見だ!

フェミニズムといえば近代悪魔の基礎だからな!

楯突くほうがどうかしているというものだ!」

「ほほう?

新参は女性だったか。

あとはそのふざけた乳を削ぎ落とせば及第点だな」

「え゛っ!?」

「どうした?

楯突くな。

早く落とせ。

その石の剣は飾りか?」

「これは…いま封印してて…」

「言い訳するな!!

切り取るんだよ今すぐ!!

ワタシが切れと言ってるんだぞ!!

お前の乳は女性が性的存在であるかのような誤解のもとになる!!

クソオスによる性的消費を助長するな!!

不快に感じるワタシの気持ちを無視するな!!

切れ!!」

「イヴァナカカ…どうかしているものを基礎にするのはどうかしていると話してきたつもりだったのですが、まだ説明不足でしたか?

たった今補足されましたが、考えは変わりませんか?」

「あう…」

「何か言い返せ!!

フェミニズムの誇りにかけて!!」

「う…るぅ…ルッキズム!

女性を外見で判断するルッキズムはフェミニズムに反するのではないか!?

よいではないか大きくても!」

「はーっ、まあその乳じゃ無理もないか…結局は名誉クソオスだった。

お前は何もわかってない。

デカ乳生やしてクソオスの外見至上主義に媚びるお前の存在そのものがルッキズムなんだよ。

あーあお前のせいで性的消費に拍車がかかったぞ。

死んで詫びろ」

「良かったですねイヴァナカカ。

『男好きのする美女だ羨ましい』と褒められましたよ。

お礼を言っておきなさい」

「えっあっ、ど、どうも…」

「クッカッゲッグ…!!」


「これもしかしてオレらも呼ばれたら何か言わなきゃいけない流れっスか?

うへえ〜下っ端でよかったー!」

「はっはっは安心するのは些か早計ですかな。

クガ君はこの会談で最年少の男性ですから、新しい視点を求められるやもです」

「ズヨカオは聞く耳持つまいがな…だからこそギヘカロバは呼びかねん」

「めんどいからメシにしようぜ!

…ってのはダメっスかね…」


「そうそう、ルッキズムで思い出しました。

今後は改革の一環でミスコン、レースクイーン、美女キャラクターなど消されてきたエロを復活させていきますので。

何か反論あればどうぞ」

「なっ…お前という奴は…!!

本当に悪魔の形をした泥だな!!

脳味噌の代わりに汚泥が詰まってる!!

女性の全てを外見で決める外見至上主義を復活させると言ってるようなものだぞそれは!!

性的消費だ!!」

「私も外見至上主義には反対です。

多様性を許容範囲内で確保していきます」

「少しは言葉の意味を考えて喋れクズが!!

ミスコンなんて外見至上主義以外の何でもないだろ!!

多様とまるでかけ離れてる狂った思想だ!!」

「あなたは『月が綺麗ですね』と言われても

『衛星至上主義反対!!』と返すのでしょうね。

ミスコンは女性の全てを外見で決める大会ではありません。

各スポーツがスポーツという一部分の勝負をする大会でしかないように、将棋など各ゲームの大会がゲームという一部分の勝負をする大会でしかないように、ミスコンもまた外見という一部分の勝負をする大会に過ぎません。

大会中のリアクションで中身を判断される事はあっても、外見と中身を同一視する男や主催者が例外的に存在しても、本来勝とうが負けようが中身には一切関係ありません。

もちろんレースクイーンもゲームキャラクターも同様。

外見は外見、一部分です。

つまり真逆なんですよ。

外見が女の全てと思っているのはあなたの方です。

あなたが外見至上主義だから、たかが一部分の勝負を全ての決定と感じるんです。

外見至上主義だから外見を取るに足らぬと流せず聖域扱いするのです。

ええ、仰る通り狂ってます。

狂ったあなたのせいで

『外見勝負で生きていく事もできる』という選択肢、即ち多様の一部が損なわれてきたのです。

少しは物事の意味を考えて生きてください。

まあ、それができるならフェミニストになどならないのでしょうが」

「黙れ!!

お前がいくら戯言並べても真実は変わらない!!

女性の性的な外見を商売にするのは性的消費!!

性的消費は絶対悪!!

それだけ!!」

「なぜ?」

「性的消費だから!!」

「性的消費とはなんですか?

なぜそれは悪いんですか?」

「詰めようとするなキモい!!

わかれ!!

とにかく駄目なものは駄目なんだよ!!

無駄に屁理屈こねんな!!」

「『絶対悪って意味の言葉を作ったからこれを言われた側は絶対悪!』

『説明も根拠も無いけどとにかく敗けて欲しいんだから敗けろ!』と。

ふふ…子供たちとの魔形遊びを思い出しますね。

ですがズヨカオ、我々はあなたのママゴトに付き合うため来たのではないのですよ。

あなたが気持ちで決めたあなたの中の私的なルールは無関係です。

公的な社会の話をしているのですから。

あまり無駄に屁理屈こねるようならそれをフェミニズムの限界と判断します」

「キモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモ…!!」

「ラッシュの速さ比べですか?

ゼロはいくら重ねてもゼロですよ」

「ギュ゛エ゛ェ゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーッ!!」


「ふぁ〜あ。

今となっては別室で助かったっス。

ここなら寝れそう」

「少しは遠慮せんか。

この年寄りでも気張って目を開けとるんだぞ」

「みんなで寝たら魔王様も怒りにくくなるんじゃないっスかね」

「君は悪魔らしくていいねえ…羨ましい」


「子供たち…えっ、貴公…子持ちだったのか!?」

「そういえば私の家庭については話していませんでしたね。

はいこれ。

去年の家族写真です。

半分以上子らの配偶者と孫ですが」

魔王が端末を見せる。

そこには魔王と秘書を中心に100名近い集団が笑顔で映る写真があった。

悪魔の成長曲線は20歳まで人間とほぼ同じで、長い青年期を経て400歳あたりから緩やかに老化が始まる。

100歳のギヘカロバが頂点となる若者の集団は、家族と聞かされていなければ大学の陽キャサークルにしか見えなかった。

「ああ…」

イヴァナカカの心の折れる音が口から漏れ出た。

今までは魔王をどこか軽んじていられた。

所詮己でやりもしない事を他者に押し付けているだけだと。

だって自分だったらそうなるし…と。

だが魔王はやる事をきっちりやっていたのだった。

こんなにちゃんと生きた上で周りにちゃんとするよう求めるなんてずるいじゃないか…反論の余地を残してくれないなんて卑怯じゃないか…そう思わずにはいられなかった。

『完膚なきまでにやっつけないでほしかった』この思いを持つイヴァナカカは、確かにフェミニストの資質があった。

乳以外。

「イヴァナカカ?

わっちには聞かぬのかえ?」

「いっぱい産んでますよね?」

「いっぱい産んだぞ!」

「でしょうね」

「なぜわっちには敬語!?」

少しでも話題を逸らそうと出てきたモムビマを魔王が捕らえた。

「ようやく口を開きましたねモムビマ。

あなたは何か言いたい事は無いのですか?」

「無い。

わっちはもうこの女とは喋りとうない。

さっきから聞いてるだけで思い出し怒りが収まらぬわ」

「あなた含む魔候がその調子だから今日の腐敗に至ってるんですよ。

挽回してください」

「くむぅぅ〜、異次元の怪物と悟って放置しておいた先達に対し、目の前で怪物ぶりを見せつけた挙句またそれとコンタクトしろとは残酷すぎぬか?

もう結論したも同然じゃろ」

「この会談は国民に見せるためのものでもありますので。

確認は大事です。

一度はオンラインに流しておかねば説得力に差が出ます」

「むぅぅ…仕方ないのう」


「フンッ、次はいよいよ名誉クソオスの親玉か。

いいだろう…さっきの泥ドール同様、メチャクチャに論破してやる!!」

「はぁ〜っ…。

そうよなあ…そちから見れば、ここまでのやり取りはそちの全面勝利なのよなあ…。

本で異世界に浸るのは好きじゃが、いざ触れてみると目眩がするのお〜」

「なぜ目眩がするか教えてやる。

お前が家父長制の奴隷だからだ。

女性の権利を抑制する性差別制度に洗脳されているから絶対正義のフェミニズムを受け入れられんのだ。

悔い改めろ。

まず乳を切れ」

「乳が小さいと脳味噌まで小さくなるのか?

怖い怖い」

「ア゛ア゛ン゛!?」

「さてどこから手をつけたものか…ちょうど出た事だし家父長制にするか。

ギヘカロバよ、現在魔界では家長権は認められているか?」

「いいえ」

「家父長は存在しないので、同時に家父長制も存在を否定される。

奴隷うんぬんはそちの妄想。

以上終わり」

「制度は無くても悪習は消えてない!!

現実を見ろ!!

女性を蔑視し抑制した結果ジェンダーギャップがそこかしこに溢れ、家の中では専業主婦という奴隷がいるんだ!!」

「洗面台に立て。

そちが魔界住まいなら鏡くらいあるじゃろ。

なぜ女が抑制されるかの答えがそこにある」

「どういう意味だ?」

「さっき娘から散々力説されたろうに。

そちは社会の敵なのだと。

敵と見做されるほどワガママ放題やらかせば蔑まれ抑制されるに決まっとろうが。

正確には抑制されとるのは女性性ではない。

身勝手なワガママが封じられとるに過ぎぬ。

女が虐げられてるように見えるのはな、身勝手なワガママを吐かす大半が女性性の持ち主たちだというだけじゃ。

女盗賊の集団が一斉検挙される事を女性蔑視とは形容せぬわ。

ほんに恥ずかしうてならぬ」

「ハッ馬鹿馬鹿しい!!

女性の要求がワガママだと!?

なら管理職や政治家の女性比率が少ないのをどう説明する!?」

「実力差じゃろ」

「そんな事ない!!

絶対絶対そんな事はない!!

ありえない!!

差別は構造的なんだ!!」

「そりゃあ女の点数を下げて判定してた〜みたいな証拠証言でもあればけしからんがの〜。

あるのかえ?」

「どこにでもいくらでもある!!」

「なら出せ」

「その程度の事自分で探せない奴とは話にならんな!!」

「そちはいきなり逮捕されて

『犯人はお前だ!

犯行の証拠?自分で探せ!』と言われたら諾々と従うのか?

うん?

いや答えずともよい。

どうせ男なら従うべきとか言うのじゃろうしな。

どの道、腐敗した悪徳警官自身がどう思おうが感じようが、違法逮捕な事には何ら変わらぬわ。

確かに話にはならぬがそれは説明という話の根本を捨てたそちが原因じゃ。

ま、言っても無視じゃろうが」

「とにかく実力差は無い!!

それが事実!!」

「そちはジォガヘュと農作業勝負して並べるか?

芸能でサンシンと並べるか?

ネモヤのPCと同等のものを組めるか?

できぬであろう。

わっちにもできぬ。

ほとんどの女にはできぬであろう。

世の管理職の男とヒラの女を比べても同じ構図じゃろう。

それが事実じゃ」

「そんな事ないって言ってんだろ!!

話を聞け!!」

「なんじゃ?

そんな事ない証拠を出せと言ったら誤魔化したくせに、わっちは証拠を突きつけられた風に扱わねばならぬのか?

アホくさ。

そういうおんぎゃあおんぎゃあイヤじゃ〜イヤじゃ〜の泣き言を話とは呼ばぬのよ、大悪魔の間ではな。

そんなにママに甘えたいなら素直になれ。

わっちの中に入るか?

ん?」

中に入る。

これは彼女がスライム的な生態を持っているとか精神的比喩とかではなく、純然たる下ネタである。

入ると答えれば別室へ連れて行かれる。

中ってどこ?と問い返せば別室へ連れて行かれる。

「グギィィ…!!

そっちこそ!!

クソオスが勝ってる証拠を出してみろ!!」

「体格で勝る。

筋力体力で勝る。

知力も上の方は男が多いと聞くな。

生理が無い。

出産が無い。

あとホルモンの関係で闘争心競争心が比較的強い。

論拠はこんなところか」

「あーあもうほんっと洗脳怖いわー!!

生理出産が無いのが勝因だなんてもろにクソオスの都合じゃないか!!」

「そち働いた事無いじゃろ。

夢見る乙女の脳内には1時間で男の8時間分の成果上げるエリート女がわんさかおるかも知れぬが、そんな事が本当に可能ならとっくにやっとるわ。

労働力とは労働時間とほぼイコールなんじゃ。

男女に同じ時間で同じ成果を出せる対等な能力があるのだとしたら、労働時間を減らす生理出産はなおさら明確に劣る要素じゃ、労働力としてはな」

「ギギギ…だとしてもだ!!

クソオス側の都合である事に違いはない!!」

「違う。

鉈を振るほど薪が増える。

これは仕事の都合じゃ。

物理法則じゃ。

より多く働いたほうが勝るというのは男の都合に合わせた仕事だからではない。

男が仕事の都合に合わせた結果、多く働くようになったのじゃ。

仕事の都合に合わせられぬ者が仕事場でより軽んじられる流れに何の不思議がある?

無い。

ただの道理よ。

そして社会は仕事で成り立っておる。

という事はじゃ。

男が全てを取り仕切った結果社会が上手くいくのもまた道理。

それは社会の都合に合わせた社会のための構造となるからの」

「生きにくすぎる!!

そんなのいちいち気にしてたら女性活躍なんてできなくなるだろ!!」

「できぬ活躍を捏造するな。

まったく…変身ヒロインごっこの歳でもあるまいに。

そんなに活躍したいなら家で子を背負い夫の帰りを待て」

「わー出たよジェンダーバイアス!!

あのねーお嬢ちゃんジェンダーって知ってるぅ?

社会が勝手に決めた社会的性の事なのぉ。

セックスっていう生物的性とは別なのねぇ。

でねー、そういうクソオスの社会が勝手に決めて押し付ける性別役割分担はねー、絶対悪なのぉ!!

わかったぁ!?

わかれ!!」

「ジェンダーはセックスじゃ」

「は!?」

「そちは馬鹿だから何の意味も理由もなく好き嫌いで分担を決めるのじゃろうが、狩猟生活だった原始の悪魔にそんな遊ぶ余裕はあるまい。

個々の能力を見てシビア〜に担当を決めたはずじゃ。

強くて産めぬ性だから外で働く役割になった。

弱くて産める性だから家で補佐する役割になった。

そうやって生物的性に基づき決まったのが社会的性なのじゃ。

男は外!女は家!

これは男が決めたルールではない。

元々そういうルールに決まっていた生き物だから無理せずそれに合わせたまでよ。

無論、原初の分担の場を見てきたわけではないが、このように考えるのが自然じゃろ。

だって強くて産めぬと弱くて産めるは現代でも通用する事実だからのう」

「キモッ!!

弱くて産める!?

歪んだ女性らしさを押しつけるな!!」

「まあ一般論に過ぎぬのは間違いないが…性教育と体力測定を通った中学生でも知る事実が歪みとは。

まっことそちは自由じゃのお〜」

「当然だ。

自由に自分らしく!!

これは女性に生まれつき備わる権利なのだからな!!

お前は私の自由を尊重しなければならない!!」

「ならば言葉選びが違っておろう。

そちが言わんとしておるのは

『自由に歪めたらしさを押しつけさせろ!』じゃ。

世の中嘗めるのも大概にせいよ餓鬼が。

ジェンダーバイアスが完全無欠とは言わぬが、そちの自由でなんでも決まるフリーバイアスよりはよっぽど筋が通っとる。

それこそ踏みつけにできるほど高みにあるわ。

自由で事実は覆せぬ」

「どうでもいい!!

女性の権利は事実より重い!!

何があろうと性別の役割を押し付けてはならないんだ!!

女性は社会進出し、クソオスの支配から脱却せねばならないんだ!!」

「ではどうしても労働力としての女の劣等を認めぬと?」

「無論!!

女性が活躍できないのは古臭い男尊女卑に阻まれているからに過ぎん!!

他に考えられん!!」

「自分で言ってておかしいと思わぬのか?

古臭い男尊女卑じゃぞ。

なぜ男尊女卑が始まった?

女が敗けたからじゃろ。

外で競争して勝てなかったから家に入ったんじゃろ。

体力面でも知力面でも、その力関係を覆す力量がなかったからそのまま生きてきたんじゃろ。

本当に女が男より優れとるなら、原初の役割分担で女尊男卑が始まっとる。

勝負はとっくについておるのよ」

「違うっ!!

女性は優しいから譲ってきただけだ!!

譲ってきたものを取り返すために声を上げ続けなきゃならないんだ!!」

「どへぇ〜…言葉が異次元に吸い込まれる感触というのは、何度味わっても嫌なものじゃのお〜。

譲ってきただけなら譲るのを止めれば勝てるじゃろ。

さっさと勝つがよい。

『引っ張って並ばせてくれなきゃ泣き喚き続けるぞ!』などと幼児退行プレイしてないで、自力で実力で国作りせよ。

できぬか?

ならば何を言われるかはわかるな?

敗けよ。

敗けを無かった事にしてほしいと頼っておいて何が立派な自立じゃ浅ましい。

そちがフェミニストだとするなら、フェミニズムとはパパに上手におねだりできるかな大会じゃ。

そんな児戯に大悪魔を付き合わすな」

「ふざけるな!!

女性が奪われてきたものを取り返してやろうとしてるのに何だその言い草は!!

フェミニズムのおかげで魔候のイスに座れるとも知らずに!!

やはりお前も恩知らずの裏切り者だ!!

そんな事だから名誉クソオスなんだ!!」

「わっちの戦功を知らぬのか?

ギヘカロバの話に沿った表現をするなら、わっちは勝ったから勝っているのじゃ。

夫のコネで出世した無能と一緒にするでないわ。

それより譲ったのか奪われたのかどっちかにせい」

「奪われた!!」

「実力で取り返せ」

「譲った!!」

「実力で取り返せ」

「ア゛ア゛ーーーうるせーーーっ!!

うるせーうるせーうるせーうるせーうるせーうるせーうるせーうるせーうるせーうるせーうるせーえええええええ!!

家父長制の奴隷のくせに逆らうな!!

黙って言う事聞け!!

女性の社会進出に協力しろ!!」

「改めて聞くが、そちは女に社会で活躍してもらいたいのよな?」

「今さらなんだ!!」

「改めて言うぞ。

そんなに活躍したいなら家で子を背負い夫の帰りを待て。

ここまで家を守る立場が卑しいから男尊女卑とするそちの基準に付き合ってきてやったが、現実にはそもそも家は卑しくなぞないのよ。

家は社会の一部じゃ。

なぜなら外で働く夫を万全に整えるのは外での働きを効率化させる立派な社会貢献だからじゃ。

いずれどこかで妻となり夫となる子を育てるのは悪魔という悪魔社会の根幹を作る立派な社会貢献だからじゃ。

本気で活躍したいと思ってたらキャリアウーマンなぞ馬鹿馬鹿しくてやってられんぞ。

毎日一億稼いだとて、いずれ必ず子孫らの総計に抜かれるのじゃからのう。

仮に無敵の記録を打ち立てたとて、一代限りでは虚しかろ?

女にとって出産育児ほどの活躍は物理的に有り得ぬのよ。

その最強の活躍を忌み嫌う時点でそちの魂胆は見え透いとる。

ただ甘えたいだけなら素直に言うがよい。

母乳はまだ出る」

「黙れ!!

最強の活躍!?

嘘だね!!

専業主婦はクソオスの奴隷だ!!

無賃労働の家政婦だ!!」

「やれやれ…少し頭を使えばわかりそうなもんじゃがのお〜。

あのなあ、無賃なら飯を食えんじゃろ。

専業主婦は生涯断食して過ごすのか?」

「クソオスの稼ぎでエサをもらってるんだよ!!

少し考えればわかるだろ!!」

「そうじゃろ、夫が稼いできて家に入れた金で自分の分まで買うじゃろ。

それを無賃とは呼ばぬわたわけ。

夫が取引先から得た金は働き先の金。

夫が働き先から得た金は家の金。

家の金から各々使う分が実質的な各々の給料なんじゃよ。

だから別れる時には結婚してからの稼ぎの半分を貰える。

貰えぬゴタゴタがあるとしてもそれはゴタつく夫妻の問題であって、専業主婦が無賃労働だという意味にはならぬ。

専業主婦が月3万エステして夫が月1万しか使えぬとしたら、むしろ妻側のほうが高給取りと言えるな。

なんにせよ、専業主婦が奴隷だなどとは言いがかりも甚だしいぞ」

「違うっ…違う違う違うっ!!

家事だぞ!?

クソオスなんかのために!!

家事をやるんだぞ!?

育児もだ!!

誰かの世話で自分のキャリアを潰されるんだぞ!?

これが奴隷でなくてなんだ!?」

「仲間じゃろ」

「絶対違うっ!!

家事育児は24時間365日無休!!

そんな事をやらされるのは奴隷でしかない!!」

「ずいぶん遅れた考えじゃのお〜石器時代から来たのか?

電気にガスに上下水道に、洗濯機に掃除機に調理家電まで揃った時代で24時間かかるならそれこそ無能の証明であろう。

独身の学生でももっと手際よく夕方までに片付けて遊びに行って帰って勉強して8時間ぐっすり寝るぞ。

2〜3名家族が増えたとて、機械でまとめられる以上24時間かけるほうが逆に難しい」

「そんな事ない!!

忙しくて食事の時間も作れないのが現実!!

お前もそういう民の声を聞いた事くらいあるだろ!?」

「あるにはあるが…そちは真に受けたのか?

次から次へ新しい急ぎの注文が入る大衆食堂ならいざ知らず、毎日ほぼ同じ仕事を自分のペースでやるのに予定を組めないとしたら、そやつの頭の出来が悪いだけじゃろう。

これ以上女の無能を証明せんでくれ、こっちまで巻き添えを食う」

「グガガッ…育児ッ!!

子供からは目を離せない!!

夜泣きもする!!

これで24時間!!」

「そうじゃのう、0歳からの5年は何度繰り返しても大わらわじゃの〜0歳からの5年はの。

その5年を一生続くみたいに言うな恩着せがましい。

子供はそちと違って成長するんじゃよ。

無能な上に詐欺師ではいよいよどうしようもないぞ」

「とにかく駄目!!

家事育児は権利の侵害!!

女性の権利を踏みにじられる専業主婦は奴隷!!」

「逆に専業主婦が家事育児やめてみい。

家にいて遊び呆け、何の役にも立たずタダ飯食らって可愛がられるなんて、それこそ犬猫並のペットじゃろが。

夫の稼ぎを無労で一方的に使い潰すなど、それこそ奴隷をこき使う暴君じゃろが。

女にはペットとなり暴君となる権利があると言うのか?

あまりにみっともない」

「だから社会で活躍しなきゃいけないんだろ!?」

「同じ話をもう一度するかえ?」

「ググッギグゥゥ…!!

なんなんだ!?

なぜそこまで女性解放を阻む!?

なぜクソオスに媚びる!?」

「ふーーーーーーっ…。

解放しちゃいけないワガママを抑えろと、社会の都合に合わせた話をしてきたはずなんじゃがなあ…。

そちにかかれば全部男の悪事か。

まあよいわ、どうせこれで最後じゃろうしな!

わっちが男に媚びるのはな、男が好きだからじゃ!

これで満足か!?」

「ハハーーッ!!

ついに正体現したな女狐!!

チン媚びオナホから出る音になんか何の説得力も無いね!!

あー無駄な時間だった!!

やはりフェミニズムは正しい!!

フェミニズムは媚びたりしない自立した立派な女性を育てるからな!!」

「これ。

媚びるの意味を調べてくれ」

モムビマに言われ秘書が動く。

「①相手の歓心を買うために、なまめかしい態度をする。

色っぽく振る舞う。

②相手に迎合しておもねる。

へつらう」

「迎合も頼む」

「他者の意向を迎えてこれに合うようにすること。

他者の機嫌をとること」

「ズヨカオや。

魔界は社会じゃ。

社会とは複数の悪魔で成る他者の集まりじゃ。

社会で媚びぬという事はな、他者の集まりの中で他者に助けられながら他者の意向を迎えず、合わせず、機嫌をとりもしないという事なのじゃ。

それは自立ではない。

孤立じゃ。

単なる社会不適合者じゃ。

男も女も互いに媚びあい仲間をやらねば社会は回りはせぬ。

自らの由で望んで不適合になる敵なぞ誰も助けたくないからの。

実際、そちモテんじゃろ?

恋愛ばかりではない。

女にもまともに相手してもらえんじゃろ?」

「ハッ、クソオスに寄り付かれないのは確かだが、それが何か?

いっそ誇らしいね!!

強くてはっきり物を言う女性を怖がる腰抜けなぞこっちから願い下げだ!!」

「責任転嫁もここまでくると一種の曲芸じゃな。

いや、異次元ではこれが正常なのか。

虎はなにゆえ嫌われると思う?

もともと虎だからよ。

他者を食い物としか認識できぬ危険な獣に好かれる理由が無いからよ。

そちが嫌われるのは強いからでもはっきり物を言うからでもない。

現実の話が全く通じぬ上に他者を食い物としか認識できぬ異次元の獣だからよ。

異次元獣ズヨカオ、そちに現実で暮らせとは言わぬ。

できぬ活躍をせよとは言わぬ。

しかし悪魔たちを異次元へ引きずり込もうとするのは辞めよ。

孤独に死ね」

「お前が死ね!!」


「ああ…何百年ぶりですかなあ、この掛け合い。

懐かしいですなあ」

「魔候制度の発足当初はよくやり合ってたが、モムビマが呆れきってからはほとんど見なくなったものなあ。

これもズヨカオが罷免されれば見納めか。

少々寂しい気もするが、気のせいだな」


「もうこの辺で良かろ?

早う決をとってくれ」

「そうですね、頃合いでしょう」

「決?なんの決だ?」

「あなたの罷免とフェミニズムの根絶についての決です」

「なっ…この期に及んでまだそんな世迷い言を!!

完璧に論破されておいてよく言えるな!!」

「『お前が絶対間違ってる!』

『自分が絶対正しい!』

これらだけではタイトル詐欺ですよ。

中身が何かを完全に無視している。

あと本来言うまでも無い事ですが、

『うるさい黙れキモい死ね』も

『違うそんな事ない気持ちを無視するな』も反論ではありません。

反情です」

「中身なら山ほどあったろお前らが男尊女卑の差別主義者だという中身が!!」

「男尊女卑は正当な思想です」

「それ見たことか!!

やはりお前は差別主義者だ!!」

「なぜ正当かというと、あなたが存在するからです。

『自分のほうが新しいから従わない奴は間違ってる』

『やりたいからやらせろ』

『男が努力と才能で得た資格を女は女であるというだけで得られて当然』

『説明も根拠も無いけどとにかく敗けて欲しいんだから敗けろ』

『自由に歪めたらしさを押しつけさせろ』

『女性の権利は事実より重い』

『引っ張って並ばせてくれなきゃ泣き喚き続けるぞ』

こんな卑しい意味の言葉を生まれつき備わった権利として言う卑しい者が我こそ真の女なりと喧伝し、それを支持する女がそこそこの割合居る以上、女は卑しい存在だと言わざるを得ません。

魔界は歴史的に男尊女卑で動いてきましたが、それも納得です。

雌鳥歌えば家滅ぶ。

哲婦城を傾く。

女三界に家無し。

こんな語られ方をしてきたのも道理です。

あなたが特殊な例外でない真の女の一面だから、その一面に自制せず溺れるあなたみたいな女が歴史のあちこちで社会と敵対してきたから、男は支配し抑制する必要に迫られてきたんですよ。

社会を自分専用の遊具あふれる娯楽施設と信じ疑わぬ酔っ払いが一生醒めないで泣き続けるなんて、支配以外に解決策無いでしょう?

蔑まれるべき者が真の女として活動する限り、女を蔑む事に正当性が生じてしまうんです。

同じ女としてこの上ない迷惑です。

私は女だからこそフェミニズムを根絶します。

女を卑しさから解放するために」

「馬鹿な…!!

いま自分で言ったろ!!

歴史的に男尊女卑で動いてきたと!!

女性は一方的に虐げられてきたんだぞ!!

可哀想だと思わないのか!?

偏見やめろよ!!

同じ女性ならフェミニズムで守れよ!!

クソオスに肩入れしないで中立公正な立場に立てよ!!」

「中立公正な審判とは弱くて可哀想なほうに便宜をはかる審判ではありません。

全ての反則を取り締まる審判です。

強くて偉そうで正々堂々のAと弱くて可哀想で反則ばかりのBが戦うなら、Bを一方的に退場させるのが審判に求められる仕事です。

反則ばかりのフェミニズムに配慮し尊重し生きやすくする社会は、フェミニスト以外全員が可哀想な異次元の不公平社会です。

視野狭窄で自己中心だとどこで何をやっていても自分が中立に思えるようですが、あなたは敵性に偏った見方をする敵なんですよ。

偏見はやめて、社会性という客観を身につけてください」

「あーもう黙れ。

お前は何もわかってない。

わかってないならせめて黙れ」

「そも…」

「ア゛ア゛ーーーーーーーッ!!」

「そもそも…」

「ア゛ア゛ーーーーーーーッ!!」

「あの…」

「ア゛ア゛ア゛ーーーーーーーッ!!」「…………………」

「やっと黙ったか。

そうだ、それが論破されるという事だ。

このぐらい強く言わなきゃわからんとは、手間をかけさせてくれる」

「もう終わらせましょう。

私も疲れました。

そもそもの話、フェミニズムが守っているのは女ではありません。

むしろ真逆です。

男が性的に好む女性的な顔の排除。

巨乳や露出など女性性の強調の排除。

出産という女性固有の仕事、育児という弱くて母乳を持つ女性に向いた仕事の拒絶。

アファーマティブアクション推進による社会活動政治活動の実質的強制。

これらを行うフェミニズムは、社会上・政治上・法律上の女性の権利を抑制する性差別思想です。

雌性として雄性を好み労り、雄性から好まれ労られ、交わり、望んで子を生し育てる女らしい女をオナホだの奴隷だの被害者だのと攻撃するフェミニズムは女嫌思想です。

男を激しく非難しながら男の贋作を目指す嫉妬の正当化です。

女になりきれなかった女、社会不適合者を慰めるための妄想です。

妄想に守られようとするフェミニストは反知性の怪物です。

女性主義とは名ばかりのタイトル詐欺。

敵対主義…エネミズムとでも呼ぶべき害悪。

これの根絶に反対の者は挙手願います」


「あっマジで終わりそう。

楽は楽だったけど、これでよかったんスかね?」

「いいんだ。

これは女たちがどう生きるかの話し合いだ。

わしらに思う所や至らぬ点があるにせよ、それを語るのはここではない」

「おやクガ君、挙手しなくてよろしいのですか?

君はズヨカオさんを支持していたはずですが」

「まーそうなんスけど、オレ魔候じゃないんで。

つか、偉くても空気読みますって。

みんな賛成なのにオレだけ反対とかやだもん」


「反対はズヨカオのみ。

では賛成の者は挙手願います」

ズヨカオを除く全員が手を挙げた。

取って付けた23インチモニターに取って付けたカメラがジォガヘュ、サンシンの挙手を会議室へ伝える。

クガ、シュワルツ、秘書はどちらにも挙げなかったが、これは無資格者の立場を弁えただけだ。

「賛成多数により、フェミニズムの根絶を決定します。

同時にフェミニズムを拡散するズヨカオを不適格者として罷免します」


こうして会談は終わった。

『甘やかされたい!

甘やかされを立派な自立にしたい!』

『甘えるな』

『うるせー!』

『クビ』

この五行に要約できる会談だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る