第22話
「うっひょ高っけ〜!
怖え〜!
修学旅行以来だなー!」
会談当日。
魔王一行は空からズヨカオ領へ向かっていた。
爆撃兼兵員輸送兼空中給油機兼司令部の軍用機だ。
護衛の戦闘機20機、完全武装の兵士100名を乗せた輸送機2機、戦闘機発着用空母2隻、空母の護衛艦5隻、対地攻撃艦4隻伴っての実質的な軍事行動である。
イヴァナカカは魔王に突っかかった。
「対談しに行くのではなかったのか!?
こんな武力を見せつけては話し合いになどなるまい!
いたずらに緊張を煽ってどうする!?」
「若年痴呆ですか?
緊張させなければならないのです。
ヘリからミサイル撃たれたり寝込みに爆弾落とされたりしたくないなら
『手を出せば逆にやられる』と思わせる必要があるのです。
盗れるから盗っちゃおーっとの泥棒が相手なんですから。
あなたも見聞きしたでしょうクヴォジの思想を。
ズヨカオはあれの同類です。
泥棒と話し合えるのは泥棒が盗みを諦めている間だけです。
痴呆でないなら現実を見なさい。
良家の箱入り娘には信じ難いでしょうが、箱の外に広がるのもまた現実なのですよ」
「くうう〜…」
突っかかったが、すぐ黙らされた。
何でも言い返せるが言える事が無くなったという意味だ。
代わりにモムビマが話を繋ぐ。
「こればかりはギヘカロバの肩を持つ他ないのう。
あやつがああいう女でさえなければ、もーっとエッチッチな船旅でしっぽり過ごせたものを。
忌々しや」
ズヨカオの城は遠い。
他の魔侯は仕事柄自領の中でも魔王城に近い位置に城を建てているが、ズヨカオ城は魔王城を避けるが如く遠方。
単純に海外なのも合わせ最も遠い城だ。
今回軍用飛行機が採用された背景にはこのような距離問題も一応あるにはある。
〈あと15分で目的地上空に到達します〉
発進から10時間後の機内アナウンス。
仮眠などして各々過ごしていた一行は格納庫に集まった。
「なんで?」
クガの疑問。
出入用ハッチがグゴゴゴゴと答えた。
答えた跡には夜空が見える。
空の広大を計り知れぬ事が計れる高さで。
「どうぞ」
「はいクガ君も」
魔王がイヴァナカカに、秘書がクガにパラシュートを手渡す。
が、イヴァナカカは口を半開きにして呆ける事で現実を拒絶していた。
止むを得ず魔王が手ずからパラシュートを装着させてやる。
それでも呆けていると、目の前でムバジャーがさっと飛び降りていった。
「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだだやだやだやだやだやだやだやだやだやだあああああ!!!」
ようやく現実を受け入れたイヴァナカカが、今度は腰を抜かし仕事を拒絶した。
格納庫内を吹き荒れる風にすら怯えていた。
地上なら少々天気が崩れた程度の風も上空では全く意味が変わってくる。
ちょっとよろけちゃったで帰れぬ旅が始まるのだ。
下が見えるクヴォジ城の外壁とは次元が違った。
落ちたら永遠に落下し続けそうな夜空は、高所恐怖症にとって無限の無間地獄であった。
「はい、そろそろかなと思ったらここを強く引っ張ってくださいね。
早すぎると変な所まで流されます。
遅すぎると死にます。
行ってらっしゃい」
魔王は意に介さず背中を押す。
外聞も完全に忘れ泣いて暴れるイヴァナカカだったが、力の差は歴然だ。
「なあ…あまりに不憫なのだが…持て余すならわしが預かろうか?
初心者と飛んだ経験もあるし…」
「駄目です。
単独で飛ばす意味があります」
見かねたジォガヘュの申し出は即座に却下された。
「あのっ!
オレも初めてなんで、イヴ様と残りたいな〜なんて…」
「当機が降りるのはズヨカオの基地ですが、いきなり撃ちまくられてもいいならどうぞ」
「お先にーっス!
ひょおーーーーっ!!」
根明のクガは生存確率の高そうなほうにあっさり賭けた。
「あうあう…」
いかに恐怖しているとはいえ全力運動をそう長く続けていられるものではない。
ハッチの縁に立ったイヴァナカカは大分おとなしくなっていた。
「大丈夫ですよイヴァナカカ」
その耳へ魔王が優しく囁く。
何か安心させてくれるのだろうか?
「3000個に1つは開かないパラシュートがあるそうですから」
「何が大丈夫なん…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛」
ニヤニヤ笑うギヘカロバに蹴り出されたイヴァナカカは、予備パラシュートの話も自動開傘装置の話も知らぬまま肉雨になった。
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読まなくていい設定集
3、ネモヤの眼光
盗賊時代に培われた。
整形でもしない限り直らない。
仕えて長い部下たちは別に怒っているわけではないと理解している。
だが中身も普通に怖いので親しまれてはいない。
4、サンシンの刀
戦乱期に生まれた一種のロストテクノロジーで、現代の機械技術では再現できない。
でも特に妖刀だったりはせず、普通にすごく切れる普通の業物。
最近ネットの都市伝説板は軍事ドローンを真っ二つにするジェントルマンの噂で持ち切り。
5、ムバジャーの髪
背後から見た長さは膝裏まで。
横幅は肩が完全に隠れるまで。
しゃがんだり座ったりすると超巨大なダンゴムシに見えるので虫嫌いはびっくりする。
欲しい時に伸ばすのは無理だが要らない時に切る事はできる、との理由で戦闘補助用に伸ばしてある。
6、モムビマの着物
合法な半裸。
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