第11話


「ギャアアアアアアアア!!」

イヴァナカカはたまらず絶叫した。

年下で配下のクガが引いて落ち着くほど早く強い絶叫だった。

パトカーの前から横から後ろから陸戦ドローンが現れるたび、ドローンから捕獲アームやガトリング砲が伸びるたび、被弾したパトカーが火花散らすたびギャアヒャアと喉を酷使した。

「なるべく安全に行きますからね〜」

絶叫には運転席の秘書が1440°のスピンをかました後でサラッと言ったりする事への抗議も含まれている。

「あ」

ついにフロント部分をアームで掴まれた時秘書が発した

『あっごはん粒落としちゃった』くらいの『あ』を聞いた時、イヴァナカカは今までで1番魔侯になった事を後悔した。

「…………。

ふん!!

…あ、しまった…今のやつ誰も囚われとらんかったろうな?」

ジォガヘュが無言で出ていき、無言で腕力でアームを外し、ひと蹴りで戦車まがいのドローンを横転させて戻ってきた時、1番が早くも更新された。

なぜ自分がこんな連中と一緒くたにされなければならないのか…と。


「う〜んもうダメですね」

秘書へ抗議していたのはイヴァナカカだけではない。

本来なら車生全てを合算しても浴びるはずのない量の弾幕を抜けてきたパトカーも泣き叫び続けていた。

一応防弾仕様ではあったのだが、城まで300メートルほどの地点で力尽きてしまう。

「充分です。

行きましょう」

魔王の合図で全員が降りる。

イヴァナカカとクガは逃走の機を窺ったが、読んでいた魔王が最後方で微笑んでいたので前進するしかなかった。


「さーてどう攻めたものかな」

城へとのしのし歩きつつ悩むジォガヘュ。

一見無防備に映る姿でも狙撃や奇襲への警戒は緩めていない。

見える範囲ならどうとでもなる。

その自信あっての悠然だ。

その彼をしても悩まずにはいられないのが城攻めだった。

どこに行けばいいかわからない中で何をされるかわからない、という不利は歴戦の勇士だからこそ避けたい愚である。

と、城へ一歩一歩近づいていると、空から黒毛の塊が落ちてきた。

「ギャア!!」

「おわあ!!」

恐れたイヴァナカカとクガが同時に叫ぶも、誰も気に留めない。

黒毛はムバジャーの髪だった。

「早く行け」

ムバジャーは降りてくるなり素っ気なく言った。

「早くったって…わしゃドリルか。

少しは考えさせろ」

「外行け」

「外壁…すると空のドローンは片づいたのか」

「暇だったから」

ムバジャーが首を縦に振る。

パトカーで接近する最中も歩きで行く道すがらも城近くの空は爆発が続いており、状況からドローンとムバジャーだろうと見当はついていた。

「ふむ…なら、中よりは楽か。

しかし肝心の奴がどこかわからぬではなあ」

「最上階」

「なぜわかる?」

「さっき会ってきた」

「なに?」


〜1分前〜

「もう無いのか」

「このガキ…!

ドローンはお前のオモチャじゃないんだぞ!」

「強いの出せ」

「…下の格納庫で待て」

「ん」


「だってさ」

あっけらかんと言うムバジャー。

彼女の無頓着ぶりに詳しいジォガヘュでも頭を抱える奇行だった。

「まあいい…ぬしが行ける程度に無防備だというのは朗報だ。

おい情報担当。

作戦は無いのか?」

手との対比で特注の小型に見える携帯端末へ問うと、即座にチンピラ声が返ってきた。

「爆撃しろ。

同じ事をやり返されるんだ、あちらも文句ねえだろう。

いや、今のあのジジイならキレるか」

ジォガヘュはどうする?と問うように魔王を見た。

「現段階で処刑の対象はクヴォジ1名。

大臣以下の職員は安全を確保したいですし、地下には拉致された者たちもいるはず。

爆撃は却下します」

「ま、相手もそのつもりだから籠城なんだろうな。

ったく、敵にまで甘えるかねえ。

化学兵器部隊なら1時間で送れるが待つか?」

催眠ガスの類なら職員を傷つけず大部分の無力化を期待できる。

しかし期待の範疇は出なかった。

現時点で確認されたクヴォジ側の戦力は全て自律ドローンだ。

主が命じるか敵が叩き潰すか以外停める方法は考えられない。

何より魔王は時間を惜しんだ。

「地下が気がかりです。

拉致された悪魔たちの安否はもちろん、ここにきて突然始めた理由も何のためかも不明。

よって外壁から最上階を目指し、一刻も早くクヴォジの処刑を行います」

魔王の決定にジォガヘュと秘書は頷き、イヴァナカカとクガはこの世の終わりみたいな顔になった。

その横で、地下格納庫から全高15メートルの魔獣がせり上がってきた。

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