第9話

一行はついにクヴォジ城の外へ。

その直後。

「我はこの辺で失礼する!」

イヴァナカカが強く言った。

彼女はこの1日で魔王相手に黙っている事の愚を学んでいた。

何をさせられるかわからないのだ。

ならば離れればよい。

そう、イヴァナカカは魔侯…魔王と対等に話せる立場なのだから。

離れたいから離れる!

「駄目です」

「ふんぐっ…」

即止められた。

「なぜ!?」

「あなたは魔侯でしょう。

魔王に協力するのも仕事のうち。

クヴォジとは近日中、遅くとも1週間以内に再び会うのですから、離れてこちらの予定を崩されては困るんですよ」

「我が居なくとも進行に障りなかろう!?」

「あなたが無能だから居なくとも障りない形に進行させたんです。

次までに何を語るべきか考えておいてください」

「考える!

考えるから一旦距離を置かせてもらいたい!

そう!我は客なのだからクヴォジ殿の城へ泊めてもらおうと思う!」

魔王から離れたい一心で雑なプランを立てると、ジォガヘュが呆れて言った。

「正気か?

いくらコップばかり眺めていたとはいえ、奴の様子くらいわかったろう。

魔王側で参加したぬしがあの城のベッドで寝たら、二度と目を覚ませないかもしれんぞ」

「オレ魔王様についていきまーす」

「おい!」

クガが魔王側につき、イヴァナカカは進退窮まった。

クヴォジが暗殺を図るならクヴォジ領のどこに泊まっても危険に変わりはない。

魔王らの戦力をあてにできる同行のほうがまだ安全だろう。

でも魔王とはなるべく関わりたくない…。

イヴァナカカは命と天秤にかけるほど仕事を嫌がっていた。

その悩みをよそに魔王が話を進める。

「やはり狙ってきますか?」

「元より戦わずして勝つが信条の男だ。

どこまで思い切るかは読めんがな…」

「まあいいでしょう。

私も元より穏便にいくとは考えていません。

城下街に魔王グループ系列のホテルを貸し切ってあるので、そこに泊まります。

スタッフは身辺調査済み。

周辺の警備はムバジャーが手配してくれています。

まあ残念ながらこのホテルは4名用になるみたいですがね。

クガ、イヴァナカカが殺されたらあなたが魔侯になりますか?」

「えっいいんスかやったー!!」

「おいい!」

「何か文句でも?

一旦距離を置かせてというあなたの意思を尊重したのですが?」

「ぐうう…」

「温泉もありますよ」

「………………」


「はふぅ…」

1時間後、露天風呂に乳を浮かばすイヴァナカカの姿があった。

体を暖める温めの湯と、頭を優しく冷ます夕暮れの風。

彼女が本日初めて味わう労りだった。

眼下に見えるビル群と遠くにたたずむ高層城が運ぶ成功者の空気も心地よい。

「揉ませてくれませんか?」

空気は直突きを受けて死んだ。

「貴公…女性同士でもセクハラは成立するのだぞ」

「そのうち条件を緩めますから大丈夫」

「我は大丈夫じゃない!」

「ならば交渉です。

次の会談で意見を述べるか、揉まれて見物するか選びなさい」

「パワハラ!」

「揉ませてくださいよ〜」

「んんん…何が貴公をそこまで駆り立てるのだ…」

「猫を見たら触らせてくれとお願いするものでしょう」

「知らんし、猫じゃないし。

だいたい自前のがあるだろう!」

「見てのとおり小さいので。

大は小よりプルンプルン。

柔よく剛を制す」

「制された宣言されても」

「まあ、どうしても嫌なら諦めますが」

「…エロくするなよ」

イヴァナカカが魔王側へ向き直ると、魔王は少女の笑みを見せた。

そのまま優しく100センチの巨砲を味わう。

人間などとは比すべくもない強靱な乳腺が魔王の手を跳ね返した。

「おお〜」

魔王は嫌味なく愉しんでいる。

小柄なのも手伝って、傍から見ればお姉さんが子供にじゃれつかれていると映るかもしれない。

だがイヴァナカカの印象は真逆だった。

直視できない。

マリアベールのように豪奢な白銀髪。

それと互いに強調しあうミルクココア色の肌。

小柄に合ったサイズながら完成された丸みを持つ、間違いなく何度も授乳しているであろう乳。

小柄なくせに雌を全力で主張する骨盤と尻肉の膨張。

この全てが汗と湯でぬらぬら輝く時、魔王は小さいからこその矛盾を孕んだ色気を放っていた。

イヴァナカカはお姉さんに絡みつかれた少年みたく目を逸らし硬直している。

見続ければ自分の中に点在する雄が団結し勢力化しそうな危うさを感じていた。

「んっ…んん」

「おお〜」

「んンっ…んっ…」

「おお〜」

「いつまで揉んでる!」

「はっ…すみません。

あなたは命の恩魔かもしれません。

危うく揉み死ぬところでした」

お前が死ぬのか…とツッコミたかったが、それよりも魔王を正面から外す事を優先するイヴァナカカ。

ビル群に視線を戻した時、やっと湯の労りが帰ってきた。

「しかし貴公、ずいぶん態度が違うじゃないか。

いつもそうなら周りも和らぐであろうに」

「公私の使い分けは社会の基本ですよ。

基本を捨てるのが基本になってしまっている今は異端なのでしょうが…」


「うおっ秘書さんでけえ!」

「君もなかなかだよ」

「うははっ!!

清々しいやつらよ!!」


「…まあ、早く公を捨てられる日が来ればいいとは思ってます。

あっち側みたいにね」

それはギヘカロバも公務を望んでいるわけではなさそうな口ぶりで、私事の態度と重ねて意外であった。

「ところで…この後の宴席は強制参加ですのでよろしく」

「え゛゛っ゛゛!!」

「やはり外す気でしたか」

「話が違う!

食事時などプライベート中のプライベートだろう!

仕事以外で関わらないでくれ!」

「私はプライベートを不可侵化していいなんて話はしてませんよ。

時々で切り替えろと言ったまで。

そして宴席では仕事の一環としてプライベートで関わりなさい。

我々は今後も共に働く仲間なんですから、仲間との付き合いをし付き合い方を学び無理やりにでも絆を深めなさい。

仕事で関わるために」

「ぐっ…仕事なら給料は…?」

「生徒にお金を払う塾がありますか?

あなたが教えてもらうんですから時間くらい払いなさい。

まあ私も魔王になって浅いですから、新米同士でお爺ちゃんから学びましょう」

「…せめて今は公私の私であってほしい…」

「何か夢中になれるものがあればいいんですが」

「ぐぐぐ…ほら!」

「おお〜」


結局宴席はジォガヘュも秘書もコンプライアンス的マナーに気を配っていたし、賑やかし慣れてるクガも見事に弁えていた。

カラオケで音痴がバレて凹みはしたが、イヴァナカカでもそこそこ楽しめるものだった。


そうして夜も更け…一行が寝静まった頃、大爆発がホテルを消し飛ばした。

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