鞦韆(ふらここ)から飛んで
東上蒼輔
黒紫、壺菫色、藤色、白菫色
私は今、何処かへ向かっている。歩いている様な、浮いている様な、何か得も言われぬ感覚を覚えていた。が、其程疑問を呈する事なく移動を続けていた。薄暗い、と言うよりも、薄明るいと言った具合の場所へ着いた。
此処は屋外であると思っていたが、室内の様な雰囲気も感じる。遊具が沢山配置されている。木で作られた其れは、とても興味を唆られる。つい我を忘れて、駆け出した。段差を飛び越え、身を屈めて狭い筒を通り抜ける。身体の調子はすこぶる快調で、次々と突破していく。愉快、痛快、爽快である。久々に心が躍る。仲間達が付いて来ない。私は引き返して仲間の下に戻る。仲間の気配を感じると、私は仲間を急き立た後、再び先へと前進した。
どんどん進んで行くと、僅かに明るい場所へ出た。とても縄の長いブランコを発見した。紫色の板に細い光が当り、藤色に輝いている様に見えた。惹き付けられる様にして、飛び乗った。足を上げて力一杯漕ぐ、漕ぐ、漕いでいると、かなりの高さまで振り上がっていた。ほぼ地面と水平になった所迄上がると、爽快さよりも恐怖感が強い。縄が長いだけに、余計に振られた時に掛かる力が強い。動きを止め、反対に速度を落とすように動き始めた。暗い中で、途轍もない程に勢いの付いたブランコに乗るのは、恐ろしいのだと知る事となった。
勢いを殺してブランコを止めて、降りようとしたが、何かおかしい。足が付かないのである。私の足が短いのかと思ったが、全身使っても地面に辿り着かない。覗き込んで見ると、何処までも光が吸い込まれていくような暗さで、底が見えない。当に、暗黒である。此処で漸く異変を把握した私は、戻ろうとした。しかし、仲間達が木製の足場に群がっており、戻れない。声を掛け、足場を空ける様に言うが、聞こえていないのか全く動く気配がない。私はかなり焦りを感じていたが、努めて穏やかな口調で、再度要請した。其れでも私の言葉を理解していないかの様な態度をしている。 足場はブランコの横に在るが、人で埋まっている。長いブランコの可動域には足場がなく、高く、更に二米位の距離がある。足場の板は弛んでおり、いつ折れるとも限らない。ブランコは隣にいくらかある。乗ろうとする人間は居ない。足場にはブランコの支柱が刺さっており、此方も巻き添えを喰らわぬとは限らぬ。ブランコの天柱の高さにある足場に乗る外には、助かりようがない様だ。
私は覚悟を決め、思い切り漕ぎ始めた。必死に必死に漕いで、漕いで、漕いていると天柱の高さを越える程の高さに迄なった。此処迄は、何て事は無い。此処から、距離にして二米程飛ばなければならぬのだ。この機を外せば、もう希望はないだろう。「飛べるのか、飛ばなくてはならない。時間は無い。早く飛べ。慎重に機を測れ。」様々な思考が巡る。焦燥感、緊張感、不安感と言った物に苛まれながら私は飛んだ。
届け、届け、届け。「駄目だ。届かない。」ほんの数秒の事だが、濃い時間である。目の前の断崖絶壁に内心諦めつつ、絶望的な状況ながらも精一杯手を伸ばした。
ガシッ。手に、腕に、肩に、とんでもない力が掛かる。一瞬、手を離してしまいそうになったが、どうにか持ち堪える。見上げると、手が足場に掛かっている。暖かい光に身を包まれる。最後の力を振り絞り、体を持ち上げる。足を掛け、重心を床に移動させ、上がり切った。私の危機を救った手に礼を告げ、見てみれば、とても白くなっていた。
鞦韆(ふらここ)から飛んで 東上蒼輔 @HGSNUE
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