第23話 目覚め

 目を覚ますと薄暗い色をした見慣れない天井が目に入った。まだ夜が明けておらず、聞こえるのは風で何かが揺れる音と鳥のさえずりだけ。あたりを見回すと、私以外誰もいなかった。

 病院にいると気づいたのは、自分が病院服を着ていたから。左腕から延びる管をたどると、点滴につながっていた。

 思い出した。私は自分も、そして大切な兄でさえ、守れなかった。ただ相手のされるがままに何度か暴力を受け、情けないことに意識を失った。

側頭部がガンガンと痛む。頭に手を当てると、包帯が巻かれていることが分かった。こんなにも、体がボロボロだなんて。

何も能力が使えない自分に嫌気が差す。

強くなれないなら、自分も、大切な人も守れないなら、こんな能力いらない。他人をあっと言わせるような魔法が使えたら。

激しい悔しさと、少しの不安が押し寄せた。そして涙が出た。止めどなくあふれた。嗚咽をするときにお腹がとてつもなく痛むことに気が付いた。

そうだ、蹴られたんだ。そうするともっと悔しさがこみあげてきて、さらに涙が出た。


次に目を覚ました時、窓の傍のカーテンが開けられ、冬の陽光が室内を照らしていた。

そして窓とは反対側、病室の扉の近くに兄が座っていた。

「お、にい」

久しぶりに出た声はひどくしゃがれていて、自分の声だとは思えなかった。

その声を聞いた兄が驚いた様子で近づいてきて、私の頭に手を添えた。

「碧、大丈夫か」

私は頷く

「おにい、だいじょうぶ?」

「俺は大丈夫だ」

「よかった」

すぐにアラタさんとお医者様が来て、私に色んな説明をした。

 右腕には少しだけ痣が、右膝には擦過傷が残っている事。蹴られたお腹は内臓は傷ついてはいないものの、肋骨の骨が折れている事。側頭部はひどい打撲で腫れているが検査の結果、脳に影響はなかった事。右頬も強くぶたれたのか、少し腫れている事など、私の身体の損料具合を淡々と述べた。

 その日は消化に良い食べ物を口にして、眠りについた。


 

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ラムネソーダに溶かした夏 伊野千景 @ino-3

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