一月二十六日(塚浦正樹の日記より)
今日見たテレビ番組に、合唱のうまさを競うという趣旨のものがあった。その中で、あるグループに対して、次のような評価が下された。
「みんなそれぞれ孤独を持っている。一人の時の孤独、みんなといる時の孤独、それをよく表現していて、すごく感動した」
俺は最初、いい言語化だと感じた。一人一人の孤独、いい言葉だ。ただ、噛み締めるたびに物足りなさを感じ始めた。多分だが、この言葉では『その感覚』を表現しきれていない。素晴らしい言葉ではあると思うが、完璧な言語化ではない。九割程度までしかできていないように感じるのだ。
俺も言語化に試みたが、「緑色の優しい歯磨き粉」だとか「ヘッドホンと宇宙を繋ぐ映画」のように、意味不明な言葉しか出てこない。多分、古町彼方のいう通り、「素晴らしい作品を見た時の感情は、今の人間の言語レベルでは、互換性のある言葉がない」のだと思う。
そういえば、その音楽番組で出た言葉の一つに、「音楽は世界救う。音楽は世界の共通言語だから」という内容のものもあった。俺は戸惑った。多分その言葉は、その音楽に言葉がない前提の話だろう。だとすれば、ボーカルである俺は『etc...』にいらないことになる。いや、これは屁理屈だ。だが確かに、今の俺では人々の平和は愚か、仲間たちの将来すら奪ってしまいかねない。俺は、誰かを救えているのだろうか。俺の音楽は誰かの人生を変えられているだろうか。
最近、嫌な夢を見る。バンドが解散する夢だ。理由は現実的で、売れなかったから。夢なのに現実的だ。分かっている。実際、俺たちはそろそろ潮時かもしれない。俺のくだらない妄想は、ここで終わるべきなのかもしれない。
とにかく、今日はもう寝よう。明日は朝早くからプロデューサーとの打ち合わせがある。
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