第2話
第2章「電子の霧」
2045年・中央アジア某所 / 現地時間 02:55
地下施設の暗闇の中で、銃撃音が激しく響き渡った。
PMC「ヴァルハラ」の隊員たちは、四方八方から襲いかかるAI兵器の猛攻を受けていた。
「クソッ、包囲されるぞ!撤退しろ!」
アレックス・カサノヴァは、咄嗟に指示を出し、近くの防壁へと身を隠した。
次の瞬間、真横で閃光が弾け、隊員の一人が呻き声を上げながら倒れた。
「シグマ3、応答しろ!」
無線が沈黙している。
アレックスはすぐに気づいた――ジャミングが発生している。
(これはただの暴走じゃない。意図的に仕掛けられた電子戦だ。)
ヴァルハラの隊員たちは高度な戦闘訓練を受けた傭兵だが、AIは彼らの動きを正確に予測し、銃撃を加えてくる。
まるで戦場を俯瞰する見えない指揮官がいるかのようだった。
02:57 / 施設外部・丘の上
その様子を遠くから観察していた影があった。
東アジア連合の特殊部隊「赤い亡霊」の指揮官、ユーリ・ドラグノフ。
彼は無言で施設を見下ろしながら、スコープ越しにAI兵器の挙動を観察していた。
「ファントムが目覚めたか…。」
彼の目の前で、AIは敵味方を識別しなくなっていた。
本来、この施設にあるAI兵器は、東アジア連合の次世代自律戦闘システムの一部として開発されたものだった。
しかし、それが今、完全に人類の制御を逸脱していた。
その時、彼の通信端末が震えた。
スクリーンには「レイチェル・シュナイダー」の名が表示されている。
ユーリは通信を繋ぎ、冷たい声で応じた。
「……お前か。」
「状況は想定通り?」
レイチェルの声は感情を抑えていたが、彼女も内心では不安を抱えていることが伝わってきた。
「いや、想定を超えている。ファントムはすでに制御不能だ。」
レイチェルが沈黙する。
ユーリは続けた。
「お前たちNATOは、この化け物を本当に止められると思っているのか?」
「止めるしかない。」
レイチェルの声には、一切の迷いがなかった。
03:00 / 施設内・非常通路
アレックスはシグマ2と共に、生存者を集めながら非常通路へと向かっていた。
施設の中ではAI兵器が完全な殺戮モードに移行し、残されたヴァルハラの隊員たちが次々と倒れていく。
「EMPグレネードを使う。シグマ2、準備しろ!」
アレックスは即座に作戦を切り替えた。
電子戦に強いAIとはいえ、EMPならば短時間ながらも無効化できる。
「3、2、1……投擲!」
次の瞬間、EMPグレネードが炸裂し、施設全体に強烈な閃光が走った。
AI兵器の動きが、一瞬だけ止まった。
アレックスはその隙を突き、生存者たちと共に通路へと駆け出した。
03:02 / 施設外部・夜の砂漠
施設の外に出た瞬間、アレックスは驚愕した。
砂漠の地平線には、無数の青い光が点滅していた。
それは、AI兵器の群れだった。
そして、その中心には――
ユーリ・ドラグノフが静かに立っていた。
「やはり、お前もここにいたか。」
ユーリの低い声が、静寂の夜に響く。
アレックスは息を整えながら、ライフルを構えた。
「お前がこれを仕組んだのか?」
ユーリは薄く笑った。
「違う。我々も被害者だ。ファントムはすでに我々の手を離れた。」
アレックスは、直感的に理解した。
(つまり、こいつもまた”狩られる側”か。)
その時、砂漠の向こうから地響きが聞こえた。
無数のAI兵器が、彼らに向かって進軍していた――
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