第4話 ジュピターソード

***これは僕が「カッコつける」物語だ


 僕はこれから初めての死闘、初めての恐怖を体験する***

 


 取っておきの魔法玉「電撃玉」を食らわせた直後に、仇敵のギャングが魔物化し、食らわせた何倍もの大きさの電撃球を逆に食らって倒れたシノ。

 それを見て不気味に笑う魔王四天王[ゴルゴガルゾ]。

 間に割って入った者がいた。

 アイさんが間に合った!

 すでに右手にジュピターソードを抜いている。

 ゴルゴガルゾを剣で牽制しつつ、左手で動けぬシノを抱えて距離を取った。攻撃は無かった。

『改めて名乗ってやろう。

 魔王四天王[ゴルゴガルゾ]様だ。』

 体が少し強張り、表情はやや引きつったが、目に宿る闘志と対峙する構えは変わらないアイさん。

『魔王四天王と聞いて逃げ出さぬか。』

「四皇ごときに臆してられるか……」

 アイさんが返した言葉は小さかった。ゴルゴガルゾが聞き取れたか解らないほどに。

 緊張している。

 余裕があったなら、

「未来に魔王を倒そうって男が、四天王ごときに臆していられるか!!」ぐらいは言えたろう。

 初めて遭遇した中ボス、どのくらい強いのか?

 Sレアランクの剣、このジュピターソードを頼みに対峙するアイさん。

 私が最初に会った日も、戦闘で軽々と大きな剣を操っていた。

 敵を一刀両断し、背中の鞘に収める時、背中側でくるりと大剣を時計回りに回転させてからしまう。それが様になっていて見惚れてしまった。

 以来、彼が、アイさんが劣勢になることなど私には想像できない。あり得ない。

 ゴルゴガルゾが右手を伸ばした。掌から球が放たれる。今度は電撃球とは色が違う。衝撃波の塊、衝撃弾だ!

 ジュピターソードでそれを弾く。包丁の様な幅広の刀身のジュピターソード、最も重い剣とされる長く厚みのある刀身の、柄に近い部分で弾く。

 ボン!………ボン!……ボン!、ボン!

 連発で来る衝撃弾を左右に弾く。剣のほぼ同じ部分で弾く。敵が同じ箇所を狙ってるからだ。アイさんの体の中心部分……そして、避けたら後ろのシノの頭部に当たる位置!

 攻撃のテンポが少しずつ早くなっている。

 試されているのか?……遊ばれているのか?

 ……そこへ、

 私達がやっと駆けつけた!

『もう一度だけ名乗ってやろう!

 大魔王[ヴァグディーナ]様の四天王、

 [ゴルゴガルゾ]様だ!』

 ……多分、四天王という響きを気に入ってる。

 名乗りの間に、シノを私達3人が引き受け、後方へ運んでからセインさんがダメージ回復と麻痺回復の呪文を唱えた。聖職者は優秀なヒーラーでもある。

 ゴルゴガルゾが攻撃方法を変える。

 周囲に落ちてる黒い丸石を鷲掴みにし、衝撃波を利用して発射した。バランスボール大の黒い丸石、アイさんも私達もそれが何かを知らない。

 ガキィ!ドコン!

 キィン!バゴーン!

 カキィーン!ドカン!!

 剣で弾く音と、弾かれた石が何かにぶつかる音、鈍い音が3回ずつ響き渡った後、

『いいのか?そんなに雑に扱って。』

 ゴルゴガルゾが悪意に満ちた笑いを見せた。

 微かなうめき声が聞こえた。

 アイさんが横を見て、顔面蒼白になる。

 弾いた石があるはずの場所に、黒ずくめの人?痛がっている者、血だらけの者、全く動かない者もいる。

 4発目が来た!

 剣を横にして弾かずに受けたアイさんは、力負けして後ろに倒れた。

 起き上がったが、体が震えている。

(どうやっても、犠牲者が……出る……)

 目に宿っていた闘志が消えかかっていた。こういう時、正義の志が強いほど精神的なダメージを負う。

 ……

「私が死なせない。」

 後ろから声がした。

「どんな状態でも、私が治します。」

 優しい声の主はセインさんだ。ゆっくりと、アイさんの方へと近づいていく。

「回復魔法と補助魔法のスペシャリストを、

 スカウトした事、お忘れ?」

 優しい笑顔がアイさんに向けられた。

 セインさんの手が光り、アイさんに力がみなぎる。彼女の補助魔法でアイさんのパワーが増強される。

 ひょっとすると、いえ、もうひょっとではない、

(セインさんは……この人は……)

(強敵と戦った経験者だ!!!)

 みんなに勇気が湧いてくる。

「一旦、撤退しましょ!」と彼女が言ってたら、心が折れてたかもしれない。でも違う。

(この強敵に……勝てる!!)可能性はあると思えてくる。

「みぎゃ〜あぁぁぁ!」

 突然の変な悲鳴??みんなの視線が声の方に向く、

 シノが立っていた。

 声の主はシノに踏まれている黒服。

 帽子から靴まで自在に変化させられる[忍び装束]の能力で、靴をピンヒールに変化させたシノ。倒れていたチンピラの、右手親指の爪を踏みつけていた。

 正確にいうと、グリグリグリと力強く踏みつけていた。

「コイツ、最初に私を襲った連中の1人なの。」

 笑いながら、さらに足でグリグリと踏みつけ。

「ぎゃ~あぁぁ!」

「この通り、まだまだ元気な声が出る。」

「あぎゃぎゃ!」

 彼女の攻撃?は続く。ヤラれたらやり返す半沢◯樹のような女だ。

「黒玉(チンピラ)なんて遠慮なく、ぶっ飛ばしちゃえ!!」

 そう、この[世界]では大ケガまでは「無事」なのだ。

 エールを貰い、アイさんが走り出した。

「カナちゃん!」

 続いてセインさんが動く。

 そして何と「足手まとい」の私をご指名!

(当たりをお願い!!)

 当たり特典の「召喚士」の中で大ハズレの「ランダム召喚」だった私。

 でも多分、ゲームアプリのガチャのように、

 数%は大当たりが入っているはず!!

 光り始めたランダム召喚の杖に祈りを込めた。

 その間に、ゴルゴガルゾが、黒丸石を放ってきた。

 走りを止め、アイさんはまたも剣の付け根で、まともに受けた。チンピラへの配慮で後ろへ押される……が、倒れはしない。

 セインの強化魔法が効いている!

 そして、私の杖から召喚獣が飛び出た!

 アイさんが走りを止めたので、彼より前、進行方向を塞ぐ位置に飛び出たそれは……

 ……何だ???

 布団???

 白に近い色の、ミニバンサイズの大きな大きな布団袋??中にぎゅうぎゅうに布団を詰め込んである感じに見える布団袋??

 あるいは特大の四角豆腐か白スポンジ??

(ハズレた……)

 ガクっと気落ちする私。

 スマホゲームガチャには数えるほどしか課金したこと無いけど、10連で大当たりなんて一度も無い……月の小遣いが一瞬で消える度に後悔していた私なのに……単発で大当たりなんて無理だったのだ……

 やはり私は「足手まとい」だ……

 ただ、ゴルゴガルゾ側から見たら、その召喚獣は布団袋ではないとハッキリと分かる。

 大きな半開きの口、緊張感のない垂れた細目とブヨブヨのボディ……鈍そうでやる気のない白い大蛙。

(ハズレた……)という印象は変わらなかっただろう。その証拠に、数メートル先のゴルゴガルゾに攻撃を仕掛けようともしない。動かない。

 アイさんが再び走り出し、前方の大蛙を越えるために、ジャンプして、背中でステップ!

 ボヨーーーーン!!

 ……??

 ボヨーン!はあくまでイメージ、音もなく上に跳ね上がった。棒高跳びなら余裕でオリンピック新記録になる高さ、滞空時間のある跳躍。

「バルーンフロッグ?!」

 セインさんが叫んだ。

 これも魔物図鑑に載っているらしい。

 全身が柔らかく、音も無く物体を跳ね返す。召喚士の指示で意図した方向に衝突物を跳ねさせたら、さらに倍は跳ね飛ばす。

 自身は余り動かないらしいが、

(ハズレじゃない!)

 そして

(飛距離も十分!)

 そう思っていたのがアイさん!

 偶然の跳躍だったが、このまま行けば、四天王の真上に落ちる!

 ゴルゴガルゾは逃げない。余裕の表情で待ち構えている。

 アイさんが空中で、ジュピターソードを上段に振りかぶる!

「ジュピターソードは、最も重たい剣!」

 セインさんが図鑑に載ってた文章そのままに叫ぶ!武器図鑑も彼女の愛読書だ。

 重たい剣は、勢いをつけて上段から振り降ろすのが最も効果的だ!

 対するゴルゴガルゾは、余裕たっぷりに両腕を上に、真剣白刃取りでもするように……しようとしたが……

(手が届かん?!!)

 プロテクターのような体、特に両肩が隆起していて、長くもない腕の可動には不向きだった。玩具メーカーが可動フィギュアを作る時に困る体型だと気付き、ゴルゴガルゾは初めて焦りを覚えた。

 アイさんの振り降ろした一撃が、

 ゴルゴガルゾの脳天に、

 決まった!!!

 ジュピターソードがゴルゴガルゾにめり込む!

 剣が光った。ネオンカラーの緑色の光。

 またもやセインさんが、図鑑の紹介文そのままに叫んだ。

「ジュピターソードは渾身の一撃を放つ時、刀身が、緑色に輝く!!」

 つまりは、

 クリティカルヒット!!

 ……そして、

 ……

 ……そして、刀身が8割めり込んだ状態で、

 ……

 ……ジュピターソードが、

 ……折れた。


 ほぼ柄の部分しか残っていないジュピターソードを握ったまま、アイさんはゴルゴガルゾの目の前に落ちて来た。

 四天王の右腕から発した衝撃弾が、至近距離からアイさんのボディを直撃した。

 もう、長さにして10cm分しか刀身が残されてないジュピターソードの柄を握ったまま、水面を跳ねる軽石のように、地面を何度もバウンドしながら、アイさんは数十メートル弾き飛ばされた。

『ちょっと痛かったんでな、特大の一発をくれてやったよ。』

 ゴルゴガルゾが不気味に笑っている。

 痛かったと言っているが、刀はモロにめり込んでいる。

 それでもゴルゴガルゾの動作は以前と変わらない。つまりは効いていない……

 一方で、

 アイさんは起き上がれない。

 目も開けない。

 ……そして、


 ……ジュピターソード以外に、四天王と渡り合える武器も……もう無い。


 もっとも重たい剣。重さ=破壊力。[世界]に同じモノは数本しかないとされるSレア。

 アイさんの強さの象徴であった[ジュピターソード]。

 敵を倒した後に背中側で時計回りに一回転させて鞘に収める。その勇士が私の希望でもあり、これからの未来でもあったアイさんとジュピターソード。

 その全てを否定した四天王に、勝てるのだろうか……

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