第5話 「残念」の応酬

***これは僕が「カッコつける」物語だが、


 改めて言う

 今回僕はカッコつけられなかった

 これは僕の仲間たちがカッコつけた物語だ***



『ああ、そうそう、言い忘れていた。』

 頭部に折れたジュピターソードをめり込ませたまま、四天王ゴルゴガルゾが不気味に笑った。

『俺様には[魔法]は効かないぞ。』

 絶望とも思える一言を吐いた。

 もう、魔法玉ぐらいしか対抗武器はないのに。


 唯一の前衛、アイくんが倒された。

 レア剣より頑丈ならお姉ちゃんのナイフも無理だ。カナのランダム召喚で当たりを出すのは、残りのMPを考えると確率ゼロに近い。魔法アイテムくらいしか残ってない、絶望的な私達……


「作戦タイムを下さい!」

 まるで学校で、小学生が先生に答えるかのように、背筋をピンと伸ばしてセインさんが手を挙げている。

(こんな時に……ボケ?)

(それとも……天然?)

 お姉ちゃんも私も、カナも流石に唖然とした。

『死ぬ順番を決めるのなら、少し時間をやろう』

 意外にも、あっさり要求は通った。


 集まったのは、(元)公園の砂場。アイくんが飛ばされて倒れてる場所だ。他の4人はまだ動けるので、必然的にここになった。

 プレイヤーが死ぬ時は、全身から淡い光を発してから、体がどんどん半透明になり透けていき、最期は昇華するように消える。

 アイくんはまだ消えていない。意識もあるようだった。

 アイくんの回復をしつつ、セインさんを中心に、作戦会議が始まった。


 一方のゴルゴガルゾにも、ちょっとやりたい事があった。

 足元に残った最後の1つ、元手下だった黒い丸石。それに背を向けて、しゃがみ始めた。

 頭の中央に深く刺さった折れた幅広の剣、20cmほどめり込み、5cmほどはまだ上に突き出している。縦はそんな感じ、さほど気にならないが……前後が長い。

 ジュピターソードの刀身ほぼ全てが頭上に残っている。前の出っ張りは10cm、後ろは自分で見えないが1mくらい?

 ……邪魔なのだ。

 かといって、部下を呼び出して「取れ」と言いたくない。

 部下や他の四天王などには絶対見られたくない。

 さらに言うと、心臓下にある左目からはまだいいが、右肩付近にある右目の真横に出っ張りがあり、必ず視界に入ってうっとおしい!

 前の部分を両手で挟んで取ろうとしたが……届かない!頭上だけでなく、前にも手が回らなかった。

 そこで後ろ、長い後ろの出っ張りを黒丸石に乗せて、しゃがみつつ上に押せば……

 極太の屈強な脚は、しゃがむのに向かなかった。玩具メーカーが可動フィギュアを……はもう前回誰か言ったか……

『役立たずめ!』

 元子分の黒丸石を、遠くに蹴り飛ばしてしまった。八つ当たりだ。もう周囲には何も無い。

 15m程先に、

「ゲコッ」

 締まりのない顔の大蛙がいる。

 作戦会議から2分経過、

「ゲコッ」

 2分半経過、

「ゲコッ」

『ええぃ!もう待てぬ!とっとと順番に、殺されに来い!』

  痺れを切らす四天王に、

「はい!」

 元気な返事で走って近づく者がいた。

 戦闘力がゼロに近い私だ。

 今から私の最大の見せ場となる。

「刮目せよ!!」

 ……なーんてね。

 小走りだが遅い!お姉ちゃんと違って私は運動は得意ではない。

 度胸もない。

 焦らされた四天王が

「もう殺してやろうか」と衝撃波を撃とうとしているのにも気付かない。

 正直全く余裕がない。

「[バンブー作戦]行きます!」

 何とか間に合った。狙いの位置まで来れた。

 何やら始まったので、ゴルゴガルゾは待ってくれたようだ。

(人間を完全に見下しているから、下手に出れば隙きを見せる可能性があるわ。)セインさんの助言通りだった。

 彼女はそうして狙い通り、賭けだったが作戦会議の時間も勝ち取った。

 次の賭け「バンブー作戦」の開始!

「とお!」

 魔法が効かないはずなのに、私が投げたのは魔法玉?10メートルの距離だ。テニスボールくらいの玉だ、そのくらいなら届く。

 そしてゴルゴガルゾの手前で玉は開き、中から視界が塞がるほどに拡散したのは……砂?

 ……砂と白煙で一面覆ったが、視界不良となったのは一瞬、すぐに払われてしまった。

『何だ、コレは?』

「雷属性には地属性かと思って、その、砂場の砂を……」

 本当に、煙玉に砂を混ぜただけ。

 四天王が睨んでいる。

「睨むなら発案者にして下さい!!」と言いたいけどビビって言葉が出ない。

『死ね!』

 呆れるより先に(殺そう!)と思ったゴルゴガルゾが、衝撃弾を放とうと左手を伸ばした時、

「残念ね、私は囮よ!」

 ジョジョ立ちをしながら、思い切り「カッコつけ」て言い放った私。

 そう、これが私の役目。

 そしてこれが私の最高潮。

 今の気持ちを声にするなら、

「もう無理です!!助けてーー!!」です。

 ……一瞬の記憶の整理。

 ゴルゴガルゾがためらってくれた。

 剣士(アイ)を右手で吹っ飛ばした時、ほぼ真っ直ぐだったが、やや右よりに飛んで砂場に着地した。

 そこで人間共は全員集まって相談し、時間切れを宣告すると、一番ザコっぽい奴(私)が、正面やや右よりから走って来てしょーもない煙幕攻撃を……煙幕を正面やや右よりから投げた後、煙が晴れたら俺様の左半身側に??

 だから俺様は無意識に左手で殺そうと……?!

 ゴルゴガルゾが一瞬考えているその時、

 何かが、

 奴の右側の目に向かって来る!

「行っけぇ!!」

 カナの叫び声!

 迫ってくるのは、バルーンフロッグの舌!

 カメレオンが離れたエサを一瞬で捕らえるように、勢いよく伸びてくる!

 それが、どのくらいのダメージを与えられるのかは解らなかったが『バンブー作戦』の要となるその召喚獣の攻撃は、

 ゴルゴガルゾに届く直前で、消えた……

 カナのMPが尽きた為に……大蛙ごと消えた。

「げえっ?!」

 一番驚いていたのは私!

 この「げえっ?!」はマジの「げえっ?!」だった。蛙の代わりでは断じてない。

 再び照準を一番近い私に戻すゴルゴガルゾ。

『残念だったな。』

 不気味に笑うゴルゴガルゾに、涙目でコクコクと2回頷く私。

(作戦失敗しました。お願いです。見逃して下さい!!)

 目で訴えかけたが、愛くるしいチワワのようには行かなかった。命乞いは、失敗した。

「!!」

 物凄い衝撃音がして、何かがゴルゴガルゾの右目に突き刺さった!

 超スピードの物体、そんな攻撃ができる者は、

 できる者は??

 チームには残っていないはず??

 ……でも、

 自分もチームの一員だと思っているモノがまだ居たのだ!

 衝突直前の叫び声で、それが誰か解った。

「ピィィィーー!!」

 ミサイルハヤブサのピィちゃん!

 一度サンドイッチをあげただけなのに、町まで付いてきていたのだ。

 今、そのサンドイッチが、何万倍にもなって返って来た!!

 鉄の盾を貫通するというミサイルハヤブサの攻撃力でも、ゴルゴガルゾの右目を潰しただけに終わった……貫通はしていない。

 そして、頭上や眉間に届かない手も、右目のある肩までは届いた。

 突き刺さった状態のピィちゃんを鷲掴みにして引っこ抜き、力任せに地面に叩きつけた。

「ピィちゃん!!!」

 バリンという音を立て、ピィちゃんの片翼がもげ、胴体にも大きな亀裂が走った。

 ピィちゃんはもう動かない。最初の犠牲者が出た……

 そこへ!

 上から、アイくんが降ってきた!!

 まだ完治してないはずのアイくんが、戦える武器はもう無いはずのアイくんが、手にしているのは、強烈な一撃で跳ね飛ばされても手放さなかった、ジュピターソードの……柄?

 もはや剣とは呼べないモノを真下に構え、ゴルゴガルゾの頭上に迫る。右目を潰された魔物は気づいていない!

 だが、刀身部分は、横に測れば25cmほど残っていたが、縦に測れば10cmにも満たない。それを下に向けたら、刃先が当たらない。

(刃先は、真下にある!!)

 激突の瞬間、折れた剣の断面と、四天王に刺さったままやや飛び出ていた刀身の峰の部分が、見事に重なった!

「うおおおぉぉぉお!!」

 残った力を振り絞っているのか、痛みをこらえているのか、あるいはその両方か、だが、激突した後もアイくんは柄を手放さない。

 折れて刺さっているジュピターソードの刀身が、緑色に光り始めた。

(ジュピターソードは渾身の一撃を放つ時、刀身が、緑色に輝く!!!)

 1回目より、輝きが強い!

 メリメリと、刺さった刀身が、さらに深く沈んでいく。

「ドサっ」

 音を立てて地面に倒れたのは、アイくんだった。

 遂に、剣の柄から手が離れ、地面に転がった。

 力尽きたように、足を立っている魔物の方へ向け、仰向けに大の字に倒れたアイくん。

 一方のゴルゴガルゾは、さらに15cm以上深く沈んだ刀身、代わりに頭部に、ジュピターソードの柄も増えて(くっついた)、一緒に繋がっている刀身の残りの一部が出っ張っている状態、前より不格好になった。

『残念だったな。』

 何回目かの、ゴルゴガルゾの不気味な笑い。

 クサビを打ち込んだように、パックリと割れているのに、上から見れば15cm以上も割れ目が開いているのに、平然としている!!!

 刺さった刀身が、今度は心臓下の左目の視界に入ってうっとおしい。余計なモノを更に足されて不快、その程度にしか思っていない。

 こんなにめり込んでもまだ、浅いのか?!

 竹を縦に割く場合、ある程度刃物が入れば、そこから力を加えれば一気に真っ二つになる、それが『バンブー作戦』……のはずだった。

 上体が割れている魔物がまずやったのは、体を左右に振ること。しかし、新たに加わった剣の残骸が、前のと強力接着剤で付けたように剥がれないと解ると、すぐに諦めた。

 今はこっち、浅い傷より処刑が先だと。

『あのまま倒れてりゃ、死ぬのは一番最後だったのに。非力な身の程を知るべきだったな。』

 アイくんに最後の言葉と、不気味な笑いを贈る。

 非力……そう、力が足りないのは解っていた。

 ……だから、落下を利用した。

「……残念だった……な」

 アイくんも笑って応えた。

「俺も、囮だ!」

 ……上空でバタバタと音がする。

 何かが、いや、もう1人降って来る!

 顔は見えない。バタバタと振動している無数の白い紙が邪魔している。

 大きめの短冊を沢山付けて、下から強風で煽っているような感じ、落下の加速のせいだ。

 白い紙は……白い諭吉、[魔法紙]だ。

 文字を書いて体に貼り付けると呪文が発動する アイテム。呪文名じゃなくても、呪文効果を意味する言葉でもいい。漢字、仮名、英語もOKのスグレモノ。一度貼り付けたら、呪文の効果が切れるまで絶対に剥がれない!

 書いてある文字はバラバラ、筆跡もバラバラ、でも、内容は同じ!

「重い」「ちょーおも」「ゲキ重」「ヤバおも」「heavy」etc……

 それらが忍び装束に貼り付いている。

 そう!

 降って来るのは!

「ブロッソンさんの……仇ィィィィっ!!!」

 急降下してくるお姉ちゃんの手に、武器はない。

 武器はすでに、

 足下にあるのだから!

「ガキィィィーーーン!!」

 激しい音がした。

 アイくんが新たに足したジュピターソードの金属部分に着地、いや、

 強烈な一撃を与えた!

 重い、ちょーおもな、ゲキ重の、ヤバおもで、heavyな一撃が決まった!

 ゴルゴガルゾに刺さっているジュピターソードの刀身が、三たび光った。


 今度の輝きは、今までで、断トツに一番強い!

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