第3話 遭遇

***これは僕が「カッコつける」物語だが、


 今回僕は、カッコつけられずに終わる

 「強敵」との遭遇。

 僕が目指す「魔王」の強大さを

 改めて思い知ることになる物語だ***



 円形に近い巨大な大陸。そのほぼ中央に聖教会の総本山と門前街。

 それを中心に4分割して、左下が「西の王国」、右下が「東の王国」、上半分が「帝国」、それが大雑把な地図。

 細かいことを付け足すと、それぞれの「国」の間には無数の中立都市や村が点在し、大国の国境が隣接しないようになっている。

 人名はともかく、町名は覚えなくても大丈夫。

 そんな感じで進めて行きます。

 私たちは聖教会を南下して、西の王国と東の王国の間の中立地帯の1つに着いた。

 ここは私とお姉ちゃんが最初に現れた街だ。

 私はレイ。セクシー商人のレイ。

 カナが自分をメンバー2号などと言ってるらしいけど、メンバー2号は私!

 アイくんに仲間申請したのは私が先、その場にいたカナは私に便乗したから3号だ!

 おっと、話を戻そう。

 ここは私とお姉ちゃんが初めて[世界]に来た場所。

 ここで私とお姉ちゃんはプレイヤーとNPCの混在するギャングに襲われ、NPC保安官のブロッソンさんに助けられた。

 お姉ちゃんには恩人以上の存在のブロッソン保安官。得意のナイフ投げでギャングを蹴散らして以来、お姉ちゃんはナイフ投げに目覚めてしまった。

 ナイフ技(短剣斬り)B、投射(アイテム投げ)B、剣技B+が初期値だったお姉ちゃん。

 普通はメジャーな剣技を選んで経験値を上げる所を、初期装備の剣を売り払って投げナイフを購入。ひたすらナイフ投げの経験値を積んだ。

 お陰で何百回、戦闘後にナイフを拾わされたことか……

 まあ戦闘力がゼロに近い商人なので文句も言えず(最も現実、非現実問わず、常々文句は言えないのだけど)、

 [世界]で『最もナイフを拾った女』という称号を……あったら絶対貰っているのが私だ。

 おっと、話を戻そう。

 私とお姉ちゃんは、その恩人ブロッソンさんに会うために別行動。アイさんたちには観光スポットを教えて、合流地点と時刻を決めて別れた。

 アイさんたちは街で1番の繁華街に到着。

「……ここ?」

 私が説明したのとイメージが違ったらしい。

 そして間もなく私自身も変貌にびっくり……いや、そんな間もなかった。

「お姉ちゃんを助けて!!」

 息を切らせて走ってきた私。

 それを見て、

 理由も聞かずに駆け出したアイくん。

 行き先を事前に知らせてあった。だから猛然と走り出せた。私が呼び止めないので、もう行き先を確信している。ハーレム地区に向かっている。

 そのスピードには到底追いつけそうになかったが、私も休まず引き返して走りだ……そうとしたのを、セインさんがたしなめてくれた。

 詳細を説明しつつ、ジョギング程度の速度で現場へと向かう私たち、私とセインさんとカナ。

 戦闘になったら体力も必要だからと言われた。

 この街の規模は中の小、自警団はあるが、実質1人の保安官に守られている街。

 東のハーレム地区はギャンギーノファミリーというギャングの縄張りだが、西地区は穏やかで栄えている。東地区との境に保安官事務所があり、名保安官ブロッソンが睨みを効かせているからだ。

 が……今、西地区も荒んでいる。

 ……

 殺されたのだ……

 ブロッソン保安官がギャングに殺されたのを知り、お姉ちゃんは血相を変えて走り出した。

 殴り込みだ。

 ギャングに1人で殴り込みに行ったのだ。


 東のハーレム地区へ入るなり、すぐにお姉ちゃんはギャングと遭遇していた。

 広場にたむろっていた一味を見つけ、正面から向かって行った。

 本来の広場は、冒険者(プレイヤー)の出会いの場にもなる場所。隣接する児童公園も合わせると、少年野球が余裕でできる広さがある。山型のコンクリの滑り台、ボルダリングの壁、砂場……解るのはそれくらい、あとは元が何だったのかも解らないくらい壊れている。出会いの場お決まりの噴水もここには無い。広場と公園の残骸。遊ぶ人影もなく、ギャング一味と……お姉ちゃんしかいない。

「ギャンギーノファミリーね」

 お姉ちゃんの方から近づいて行く。顔は怒りに満ちている。黒服のチンピラが6人と、2mのプロレスラーの様なマッチョマンが1人。

「ギャンギーノ?」

 マッチョマンが不気味に笑った。顔もデカく、人間離れしていた。失敗した福笑いの様な顔だ。

「……ああ、ギャンギーノ、あいつか。威張りくさってたから、絞めちまったよ。どっかその辺に埋まっている。」

 また不気味に笑った。性格も人間離れしているようだ。

「ゴルゴガルゾファミリーと呼びな。」

 ギャンギーノファミリーのゴルゴガルゾに保安官は殺された。街の人からそう聞いた。

 つまりこの不気味なマッチョマンが、ブロッソンの仇で間違いない!

 お姉ちゃんの怒りのボルテージが上がった。

 ボスをも殺してファミリーを乗っ取っていたのはどうでもいい。さらに怒りが増す要因……全員胸に、金色に光る星型のバッジを付けている。 

 保安官バッジにそっくりな金の星だ。

「ファミリーの印、特注品だ。死んじまった保安官に代わって、この町を仕切るって意味だ。」

 お姉ちゃんがブチ切れた!マッチョマン目掛けて突っ込む!

 手下が次々飛びかかろうと向かって来たが、一瞬で撃退!腕と足にナイフが刺さった状態で倒れている。

「ボ、ボスは硬気功の使い手だ!刃物だって効かねえぞ!」

 仲間が一瞬でやられ、ちょっとビビりながらチンピラ……ええと、すでに3人やられてるから、チンピラDが叫んだ。まさに虎の威を借るって奴だ。このチンピラには見覚えがあった。隣のチンピラEとFにも……初日に襲ってきた奴、しかも全員プレイヤーだ。

 そのチンピラDの背中をボスが押した。

「お前もやられて来い」そういう意味だ。どちらが怖いかは歴然。残り3人も、破れかぶれ故に、何の工夫もなく突っ込んで行き倒された。意識はあるが痛みで動けないチンピラが、6人転がっている。残りはマッチョマン1人。

 そしてコイツも、工夫もなくお姉ちゃんに近づいて来る。

 お姉ちゃんがナイフを放つ!避けもせずに眉間に命中、しかし無傷?!金属音のような音を立ててナイフは弾け飛んだ。

 取っておきの魔法玉を繰り出す!

 魔法石より1ランク上が魔法玉。魔法石より高価だが、こういう時お姉ちゃんは出し惜しみしない。私が見つけてきた電撃の魔法玉を4発全部投げつけた!

 スタンガンのような電撃がマッチョマンを襲う……が、これも効いていない!

「電撃は大好物なんだよ。」

 不気味に笑うマッチョマンの目が、赤く光った。

 電撃にビクともしないどころか、吸収しているようにも見える。そして、マッチョマン、

 『ゴルゴガルゾ』の体が膨張を始めた。

 アメフトのプロテクターの形に似た、更に肉厚で強靭なボディ、腕の長さは余り変わっていないが、掌は2倍の大きさ、野球のグラブよりもデカい。脚も倍以上の太さになり、顔は、首から上は胴体に吸収されて、右目は右肩の側、左目は心臓の下辺り、口は大きく広がってヘソの位置に、1/4切れのスイカがそのまま体の中心にある感じの大口となった。

 最後に肌の色、暗いグレーに変化し、完全に魔物の姿、正体を現した。

『あらら、戻っちまった。でもまあ、この町の結界への免疫が完全についたってことだな。これで存分に暴れられる。』

 更に野太くなった声で不気味に笑った。

「そ、そんな……ボスが……魔物……」

 チンピラ達は青ざめている。

 お姉ちゃんはある程度、予想はしていた。してはいたが、予想以上の大物が出たことに驚いている。

 距離を取ろうと下がるお姉ちゃんに、魔物が突き出した右掌から、ハンドボール大の電撃球が飛び出し、お姉ちゃんを直撃する!

「ぐっ!」

 全身が痺れ、その場にかがみ込む。

 ナイフが手足に刺さったままのチンピラの1人が、隙をみて逃げ出そうとしていたが、胸の金バッジから突如電撃が発して悶絶する。

 悲鳴を上げながらチンピラ共の体が次々と黒ずんでいき、丸くなり、バランスボール大の黒い丸石と化した。6個の黒丸石が、殺風景の公園に増えた。

『特注品だって言ったろう。』

 またもや不気味に笑う。

『俺様は、大魔王[ヴァグディーナ]様が配下、魔王四天王の[ゴルゴガルゾ]様よ』


 遂に、魔王の名を口にする敵に遭遇した。

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