第2話 謎多き[世界]とレア特典
***これは僕が「カッコつける」物語だ
まもなく僕らは強敵と遭遇する。
チームの主力と思っていた僕が
敵の強大さを思い知らされる時が来る。
……ただその前に少しこの異世界について語っておこう。
いや、また仲間の1人に語ってもらおう***
私はシノ。トレジャーハンターのシノ。
ステータスには『盗賊』などと書いてあるが、盗みはやらないので盗賊ではない。
『金の亡者』などと陰で言われているらしいが、こんな異世界に来てお宝を求めない方がどうかしていると私は思う。
この異世界には、妹のレイと2人同時に召喚された。『召喚』という言葉が適切かどうかも分からない。気付いたら[世界]にいたのだ。
[世界]とは、この異世界の呼び名。
誰が付けたのかも、正式名称なのかも分からないが、少し前から現実世界のSNSで噂が広まり始めた。
一言で言うと、この[世界]は『夢』だ。夜眠ると見る夢、しかし、ただの夢じゃない。
例えるならリアルすぎるフルダイブバーチャルゲーム。五感をしっかりと体感でき、NPC(住人のAIキャラ)は実際に生きているかのよう。
そして数百人、いや数千人かあるいはもっと多いのかも知れないプレイヤー(現実世界からの訪問者)が同じ夢を同時に見ている。
そんな謎の現象が[世界]だ。
夜眠ると[世界]に転生され、異世界で眠ると現実世界に戻される。
ある日突然起こる怪現象、それが[世界]。
数ヶ月前、首都圏の若者、それもほとんどが現役高校生の間に起こるようになった怪現象。
……なのだが、
体感していない人にとってはただの噂、嘘でしかない。報道や行政に関わる大人に体感者がいないので、しばらくは都市伝説のようなデマとして扱われ、一部の体感者によるSNSへの書き込みだけが、意図せず巻き込まれたプレイヤーたちの共感できる場所となった。
しかし、
[世界]、ぱねぇ!
マジ[世界]サイコ~!!
体感者は優越感を感じていた。
魔法、戦闘、ファンタジー……非現実的な日常を体感できる場所。
「自分たちは選ばれた!」と豪語する者までいた。
が、証明ができない。
体感していない者たちから誹謗中傷を受けたが、実在すると証明する手段がない。
そして目覚めると、[世界]を体感した記憶ははっきりと残っているのだが、具体的な単語など、とくに地名や人名が思い出せない。
「それって、ただの『夢』じゃん」
非体感者から突っ込まれるも反論できない。
しかし、確かに実在するのだ。
それは『ネタバレ防止機能』……誰かが言い始めて広まった。
[世界]は未来レベルのゲームであり、起きている時にはっきりと何でも覚えていたら他人に話せてネタバレになる。
[世界]を信じない者たちから「見苦しい言い訳」だと批難されるも、プレイヤーたちは意に介さない。
だって[世界]はあるのだから!
自分たちは選ばれた人間なのだ!
……と。
……
優越感は、ある日突然「恐怖」に変わった。
[世界]で死ぬと現実世界でも死ぬんだって!
それこそデマだと思っていた噂が、[世界]を紹介する中でも1番人気のサイトの更新が、ある日突然止まったことで、現実味を帯びてくる。
「ボイジャーさん、死んだらしいよ」
人気サイトの管理者が消えたことによって、
憧れの[世界]は恐怖の[世界]に変わった。
そんな頃、私たち姉妹は[世界]へと来た。
いきなり襲われた。魔物ではなく人間にだ。それもプレイヤーに、NPCではない人間に……
姉妹同時に同じ場所に召喚されて浮かれていた私たち。高校生の間では[世界]はわりと噂になっていたので、私たち姉妹も様々なサイトを閲覧し、多少の知識はあった。
ただ、こんなにもアウトロー化しているとは思ってなかった。
基本的にプレイヤーはプレイヤーを攻撃できない。多分、PK(プレイヤー殺し)を防ぐため。
それでも、
「NPCと一緒になら襲えるらしいよ」
バカが見つけたゲスな裏技を実践するクズ連中がいた。
「いずれ魔王軍が攻めてきて人間は皆殺しにされる」そんな噂に怯え、異世界で犯罪者になろうとも好き勝手に生きると決めた連中だ。
隣の通りに出るためにちょっと裏路地に入った所で、地元のギャング8人(うちプレイヤー3人)に襲われた。
現実では空手初段の私だが、この[世界]にはそれは反映されない。多勢に無勢で危うくなった時……NPCに助けられた。
地元のNPC保安官が、いきなり[世界]を嫌いになりそうだった私たちを救ってくれた。
けれど、私たちはプレイヤー不信となり、以後は姉妹2人のみで行動。だんだんと戦闘やスキルのコツを掴んで行き、
そしてとうとうダンジョンで『黄金の剣』なる超レアアイテムをゲットした。
……のだが、
それをアホな妹が持ち逃げした。
全く信じられない!
そうして奇妙な追いかけっこがスタート。
なぜ奇妙かと言うと、
夜[世界]で妹を必死に追跡するも、
昼は同じ家に住む家族、どうしたって顔を合わせる。
「おい、逃げんな!」
「どこにいるんだぁ?」
2歳違いながら武道をやっていない妹は私の下僕に近い。いや、下僕だ。
それでも長年下僕をやっているので、有段者の私が絶対に手を上げないのを知っている。
「向こうで見つけたらボコボコだからな!」
この脅し文句は効いた。
どういう訳か、異世界の私はプレイヤーを攻撃できた。普通は攻撃しても行動直前で動きが止まるはずなのに、私は妹の頭をバシバシ叩けた。
(『レア特典』だろうか?)
なんて思いながら、現実ではできない反動も込めてしょっちゅう妹を叩いていた。なぜなら[世界]では多少ケガしてもアイテムで回復できる。
すぐに妹と私は妥協しあい、
[世界]では逃亡者と追跡者、
現実世界では「最終の現在地を白状する」代わりに他の追求は無し!……という何とも奇妙な追いかけっことなった。
そして、追いついた……のだが、
妹はちゃっかり仲間を作っていて、襲撃した私は剣士アイに返り討ちに遭った。
しかもレイの奴、『黄金の剣』を既に売っ払っていた。その金で高級アイテムを何個も買い、そのうちのいくつかを取り入るために新メンバーに配ったのだとか……
フザケたことをしてくれた。私の怒りは収まらなかったが、
「彼は『金の成る木』です!!」
苦し紛れだろうが、妹レイが断言するので私もこのパーティーに加えてもらった。
……で、 今に至る。
今、
……私たちはピクニックをしている。
……ようにしか見えない。
……
フィールドだ。町の外だ。
魔物が出現する場所で、
「『魔法のランタン』って言うの。」
充電式でもガス式でもない、言うなれば魔法充電式のランタン。事前に魔力を込めておけば「強い魔物」や「敵意のない魔物」以外は寄って来ない、携帯式の『結界』発生装置だ。
『結界』とは、魔物を防ぐ見えないバリア。
強い魔物は、この結界の強度にもよるが、突破して侵入して来れる(ただし、結界内ではその魔物は結界効果の分だけ弱体化する)。
一方で、敵意のない魔物は簡単に入って来れる(召喚士やテイマーのように魔物を使役する場合、味方となる魔物は弱体化しない)。
……ので、聖職者セインさんの持参したランタンの側で、のんびりランチを食べている。
(やはりセインさん、仲間にする価値がある!)
私のセンサーが反応している。彼女といれば今まで以上にお宝にめぐり逢いそうな予感がする。
そしてもう1人、
剣士アイ……最初は『アイ』なんて適当に付けた名前(ゲームアプリをリセマラする人が付ける仮名のよう)だから、たいして期待してなかったが、高級レストランで偶然すぎる強盗事件が起こり、
(こいつはひょっとして?!)
と、密かに期待を高めている。
彼が背中に背負う大きな剣『ジュピターソード』はSレアの剣らしい。
Sレアとは[世界]に数個しかない貴重品。
SSレア以上は[世界]に1つしかないのでその手前、とにかく珍しい。
(他のプレイヤーの所有物は奪えない……残念)
何でも「最も重いとされる剣」だとか。
それを片手で扱う剣士アイ。パワーもきっと凄いはず。
この[世界]に来たプレイヤーは、大なり小なり『レア特典』を受けている。
彼は多分、『ジュピターソード』、それに『剣技』『パワー』が「B+」か「A」以上、3つもレア特典を得た「当たり」プレイヤーだ。
私は2つ、
『忍び装束』……これが私のレア特典その1。
普段は黒尽くめの忍者装束なのだが、どんな服装にも変えられる(防御力は変わらない)。
装備としては1つだが、麦わら帽子を作ったり、ピンヒールのパンプスを作ったりと、分離して変形もできる。ミキタカが3個のサイコロに分離できるような感じだ。コスプレ願望もある私には嬉しい特典だが、戦闘力としては微妙。
ただし『跳躍』と『忍び足』のおまけスキルも付いているので中々便利。垂直跳びで軽く2メートル。足音も気配も殺して移動可能。
2つ目は『罠解除』S。これが唯一の特レア特典。宝箱やダンジョンの罠を察知して回避できる。(ただし、魔法や呪い系の罠には無効)
『変装』『跳躍』『忍び足』『罠解除』……まるで忍者になれと言ってるような特典。
トレジャーハンターとしては大満足。
けれど戦闘においてはかなり微妙。
格闘B、ナイフ(短刀)Bなど大した初期ステータスではない。大いに不満……まあ妹よりはマシだけど。
妹レイ。職業『商人』。
レア特典は『アイテム鑑定』Sと最初の所持金2000ゴールド(現実世界の2万円ほど)。戦闘力はゼロに近い。
しかし便利だった。
鑑定力があるので偽物を掴まされないし、掘り出し物を見抜けるし、商人の交渉力で値切れるし、吹っ掛けられる。『運』をさらに爆上げするビキニ装備を買ってからは、投射スキルBの私より魔法石の命中度が高かった。
魔法石は使い捨て、どこでも買えるのは火炎石、手頃な値段なので戦力不足のパーティーには必需品とも言える。
「ただし、発動率は5割程度」などとSNSに書かれているが、実はそうではない。
ただの石が混ざっているのだ。
恐らくは道具屋の店主も分かってないが、アイテム鑑定Sの妹は偽物を見抜ける。
100%の発動率の魔法石をいざって時に使う(手頃な値段でも極力使用を控える)、私の投げた「投げナイフ」を戦闘後に全て拾って回収する、これがレイの役目。
戦闘以外では、商人スキルで得たゴールドを全て私に献上するのが役目。
……んとに、コイツ!何で逃げた(怒)!!
お陰で苦労した(怒)
しかもレアダンジョンで見つけた『黄金の剣』を持ち逃げし、換金しやがって(怒)!!
その金で『パラスコープ』と『魔法紙(束)』を買ったと言う。絶対に全額弁償させてやる(怒)!!
パラスコープは他プレイヤーのパラメーター(の一部)を見れる暗視ゴーグルのようなアイテム。(これで剣士アイの能力を見て目を付けたらしい。)
魔法紙は「白い諭吉」などとSNSで言われてる便利アイテム。長さ40センチほどの大きめの無地の白短冊のような紙だが、使いたい魔法を書くと数秒後に発動する超便利な魔法具。
攻撃魔法には使えないが、例えば解毒なら「毒消し」でも「治る」でも魔法の正式名称を書かなくても発動する。指でなぞるだけで筆もいらない。
1枚あたり役1000ゴールド(約1万円)するので「白い諭吉」と呼ばれている、便利だけど高価なアイテムだ。(「白い栄一」とはまだ呼ばれていない。栄一ではあまりピンと来ないらしい。)
その「白い諭吉」を3枚ずつ当時の仲間(アイとカナ)に配ってパーティー内での好感度を上げた妹。(あとで絶対に全額回収するからな!)
その妹の顔が、今、引きつっている。
「あると便利だから、持っていて」
フィールドで呑気なランチタイム中に、
セインさんが皆に「白い諭吉」を配り出した。
10枚束を1人ずつに……
聖職者として聖クライス教会に勤めていてもらったと言う。妹としては3枚でも大奮発だったと思う。
「持っていて」という言い方がセインさんらしい。「パーティーで1つの戦力」「協力して敵を倒す」という感覚なのだろう。高価アイテムを渡された方も断りづらい。
もしかしたら彼女は、かなり慣れているプレイヤーかも知れない。
次に顔を引きつらせる事になるのは召喚士のカナ。
『召喚士』は超レア職業なのだが、彼女ができるのは『ランダム召喚』だけ。
簡単に言うと「何が召喚されるか分からない」。MP(魔法力)も低いのでそこそこ大物を引くとすぐにMP切れとなる。一瞬だけ攻撃参加してすぐ消える召喚獣……自分で「足手まとい」と自虐のあだ名を付けるのも納得。
そのカナの肩に、鳥が止まった。
彼女がサンドイッチをちょうど手に取った時だ。
「あ、可愛い」
私も含め、みんな和んだ。
文鳥などよりずっと大きい。鳩くらい大柄で畳んだ翼がピンと伸びて直線的だ。
現実世界で肩に止まられたら怖そうだが、ここは異世界。ピカ◯ュウの公式体重は6キロだが、架空世界では少年が平然と頭に乗せている。
目がクリクリして可愛い。
「どうぞ」
カナが左肩の上の鳥にサンドイッチを与えた。
嬉しそうについばむ鳥。
「ピィーーッ!」
鳴き声も可愛い。
「ピィって鳴くから名前は『ピィちゃん』かな」
さらにサンドイッチをついばむ姿に見惚れる。
(召喚士は動物に好かれやすいのかな?)
なんて微笑ましく思っていたら
「珍しい!ミサイルハヤブサだわ!」
セインさんの一言に、カナが一瞬で硬直した。
さらにトドメ、
「教会図書館の魔物図鑑で見たわ!」
興奮しているセインさんと顔を引きつらせているカナ。
スイッチが入ったセインさん、大きさの割に攻撃力が高いと補足。
そのセインさんが落ち着いているのは『魔法のランタン』のお陰。携帯式小結界発生装置の中に簡単に入れるのは、小結界を凌駕する強力な魔物か、敵意が全くない魔物。
「ど、どっち??」
ミサイルと聞いた私たちは落ち着けない。
「猛スピードの突進力は鉄の盾を貫通するほどらしいけど、このコは敵意も無いわ。」
やっと安心できた私たち。
ピィちゃんは美味しそうにサンドイッチを完食すると、元気に飛び立ち、私たちの頭上をクルクルと何回転も旋回してから、大空へと去って行った。
……こんな和やかな出来事のすぐ後で、
私たちは「強敵」と遭遇する。
絶対エースと思っていたアイくんを、
パワーで圧倒するほどの強敵に……
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