これは僕が「カッコつける」物語だ。

青木 節虎

第1話 不安ながらのメンバー紹介

***これは僕が「カッコつける」物語だ


 「無双」や「チート」で圧倒するほど僕は強くない。

 「友情」「努力」「勝利」がテーマの熱血漫画の主人公に憧れ、強敵や困難に立ち向かうのが僕の「カッコつけ」だ。

 例えるなら、絶対的有利な敵に対し、

 「だが断る!」と意地を張り通す、それが僕の「カッコつけ」だ。

 これはそんな僕(アイ)と仲間たちの物語。

 僕の物語なので僕以外(僕の仲間)に語ってもらう物語だ***



 私は召喚士のカナ。

 一応チームのナンバー2だけど、私の語りで良いのかな?

 ナンバー2というのはパーティーに加わった順で、実力で言ったら私はビリから2番目……かな?

 メンバーはリーダーの剣士アイくんを含めて◯人……と紹介したいのだけど、その人数が現在未定??解散の危機??

 これで大丈夫かな?……不安になる……

 ……そんな状況から物語は始まる。


 大陸のほぼ中央に、聖クライス教会(聖教会)の大聖堂がある。聖教会はこの大陸でもっとも信徒の多い教団。その大聖堂が見下ろす門前町とも言える大きな街に私達はいる。

 大聖堂に参拝するセレブたちが利用する格式高いレストランがある。今そこでランチを食べている私達。

(早まった……)

 きっとみんな思っている。

 ランチと言えどセレブが利用するような高級店、ディナーのフルコースのような品々が次々と運ばれてくる……その中で、

 

「……2人とも、戻って来ないね」


 不安を口にする私、視線をアイさんとレイに向ける。2人もやはり同じ気持ちに見える。

 テーブルに今いるのはこの3人。

 剣士アイさん。

 召喚士の私、カナ。

 商人のレイ。

 3人とも、現実世界ではただの高校生。

 剣士アイさんは薄汚れたマントと古びたレザーアーマーの放浪剣士風。

 私はあくびをしたら壺から出てきそうな中東の踊り子のような格好。

 レイに至っては羽根飾りのないサンバダンサーのような、露出の多いほぼビキニという非常識な外観。

 そんな、現実なら絶対門前払いされそうな私達が、高級店で食事している。

 なぜかと言うと、

「挨拶代わりに、ご馳走するわ。」

 5人目のメンバー……今となっては、5人目か怪しいメンバーの誘いに乗って、この店に来た。

 そのメンバーの名前はセイン。修道女のセイン。修道服に金髪という美女。

「彼女、仲間にしてもいいかな?」

 つい先程、アイさんがスカウトしてきた女性だ。

 聖職者(シスター)のセインさん。

 多分年上(20歳前後かな?)。話し方や仕草に知性を感じる金髪美女、おまけに白の修道服。

 清楚、華麗、超美人、そしてアイさんの逆指名……こちらから仲間にしてもらった我々に強烈な敗北感を与えた女性だ。

「聖職者割引があるの。」

 セインさんに誘われてやって来た私達。そのセインさん自身も2度しか来てないという高級店。1番安いコースだと言われてテーブルに付き、最初の前菜がメインディッシュかと思えるような衝撃を受けた……ここまでは夢見心地だったが、

「いけない!所持金を置いて来ちゃった!」

 誘った本人がお金を取りに出て行った。

 ……

「おかしくないか?」

 直後に言いだしたのが、4人目のメンバー、

 盗賊のシノ。忍者のような黒尽くめの格好をしている。

 私達のパーティー自体、結成されてまだ数日と日が浅いのだけれど、この盗賊シノもこの街に着く直前に加わった新参者。一応商人レイの実の姉という身元保証はあるが、

「『金の亡者』です!」

 その妹に言わしめるほど金に目が無い。

 盗賊だけあって素早い身のこなしで、アッという間にシスターの後を追って出て行ったが、

 ……

「逃げたな……姉上。」

 真っ先に疑ったのが妹のレイだった。

 残った3人、みな挙動が不自然になる。

 そこへ、会計の伝票が届き、それを見た私達の表情が思い切り引きつった。


     (払えない……)


 思ってる所へ2品目が運ばれて来た。

「あの……」

 と中々次の言葉を言い出せぬまま、

「どうぞ、ごゆっくり。」

 店員さんは下がってしまった。

「私、ちょっと様子を見てくる!」

 まだ戻らない2人を探しに席を立とうとした商人レイの腕を、私はしっかりと捕まえた。

(させるか!!)

 姉を『金の亡者』だと言うこの妹もまた『金の亡者』だ。

 姉妹で一緒に旅をしていたが、金が原因でトラブルになり別行動、だから姉妹でもパーティーに加わった日付に誤差がある。

 戦闘力が低く、1人で不安だった商人レイが剣士アイさんに目を付け、同じくアイさんを頼ろうとしていた私と同時に仲間申請をしてパーティーを組んだ。盗賊レイは妹を追いかけて来て、我々を襲撃し、一悶着あった後に4人目の仲間に。

 ……という彼女なので、私は掴んだ腕を絶対離す気は無かった。

「ちょっと行って来るよ。」

 と、立ち上がった剣士アイさん。

(えっ?!)

 という表情で、私とレイが同時にアイさんを見た。

 信用はしているけど、

 アイさんなら絶対に逃亡しないと信用しているけど、

 この金の亡者2号とここに残されるのは大いに不安だ。不安でしか無い。

「オーダー止められるか聞いて来る。」

 アイさんが続けた言葉にホッとする私とレイ。

「……支払いのことは……その後に考えよう。」

 返したアイさんの笑顔がぎこちない。彼も不安なのだろう。なにしろ今いる3人の持ち合わせ金額を遥かに超える料金だ。

 そしてアイさんはテーブルを立ち、店員のいるレジの方へと向かう。

 放浪剣士のような古びた身なり。現実なら店の入口で止められる格好をしているが、食事している他のいかにもセレブな客(おそらく全員がNPC=AIキャラ)が気にもしない。

 その理由は彼のモラル値にある。

 『モラル王』。

 私達が彼に付けたあだ名の一つ。

 モラル値とは、このバーチャルゲームのような異世界で、行動一つ一つの選択によって変動する数値。良い行いをすれば少し上昇し、悪い行いをすれば一気に下がる。

 つまりは中々上がらないパラメーターで、モラル値が2桁あれば善人とされる。NPCは我々プレイヤーを主にモラル値で区別するので、薄汚れててもアイさんは不審者扱いされない。

 この場から最初に消えた修道女セインと彼が出会ったのも、

「この先は、徳の高い方か聖職者しか入れません。」

 私とレイとシノが門前払いされた教会図書館の中で、アイさんとセインさんは出会い、意気投合した。薄汚れた外観よりもモラル値で「徳の高い方」とアイさんは判断される。

 2桁あれば善人とされるモラル値が3桁ある、それが我らがリーダー剣士アイ。

 100以上のモラル値、おそらくは主人公に成り切るかのような王道の選択のみ、困ってる人(AI含む)を一度も見捨てずに来たんじゃないかな?……言葉数も少ないし、まさにRPGの主人公のようなプレイヤーだ。

 そのアイさんなので、席を立っても不安はない。店員に相談すると彼が言うなら絶対そうする。店の外へ逃げることは無いだろう。

 そのアイさんの歩みが入口ドアの方へ向かっているが、心配はない。

 心配はないが……あ、そうそう、入口正面の会計レジにいる店員さんに話をしに行くだけだ。あのレジの人は服装がちょっと違う。きっと支配人か何かだ。その人を選んだだけ……決してそこから逸れて外へは向かわない……はず。


 と、ここで事件発生?!


 入口ドアの両側に立ち、客を迎える屈強そうな男性店員が同時に吹っ飛ばされた。セレブが集う高級店、武装した兵士の護衛が立っていては無粋だと、接客係に扮した警備役の2人だ。

 同時に吹っ飛ばされて中へ転がって来た。

「金を出せ!!」

 覆面の3人組強盗が押し入って来た。

 剣が2人と杖1人、現実風に例えるなら、刃物2人と銃1人。町の入口や要所には、騎士団の兵が常設されているこの大聖堂のお膝元の街で、まさかの強盗だ。

 倒された2人以外は屈強そうな店員はいない。

「客どもはアクセサリーと現金を揃えておけ!後で回収に行く!それまで動くな!」

「動いた奴は殺す!」

 全体を威嚇した強盗3人。現在武装しているのは店内でこの強盗3人だけだ。

「まずはレジの金だ!金庫の金も全部出せ!」

 剣を持ったリーダーらしき男が、大袋を取り出した手下2人とともに、支配人っぽい人の方へ近づいていく。

「この袋の中へ入れろ!」

 そう叫びながら近づいていく、

 ……そう、正面レジにいる支配人っぽい人の所へ、

 ……

 強盗事件終了。

 3人組は剣士アイさんにあっさり倒された。

 店の人には感謝され、客からは拍手喝采を浴びた。

 我々プレイヤーは、普段は武器や盾は手にしていない。剣士は町中では腰に鞘を差してもいない。

 しかしながら『戦闘モード』と念じるだけで、鞘が現れ、すぐに抜刀できる。

 アイさんは剣士だ。『剣士』というジョブは部隊長以上の腕がなくては名乗れない。そこらの強盗なんぞは一瞬で倒せる。

 そして、

 誰が通報したのか、すぐに駆けつけた聖騎士団の兵士たちに引き取られていった強盗3人。この辺の展開はゲーム仕様なのか実に手際が良くて早い。

 アイさんが席に戻ってきた。

 すかさず、特別なデザートが運ばれて来た。

 『お店からのサービス』だ。

「あの……ですから、まだお代が……」

 アイさんは強盗撃退を感謝された時に事情を話したらしい。

 が、

「お代なんて、とんでもない!」

 店員は笑顔でレシートを回収して去った。

 私達がアイさんを『モラル王』と呼ぶ他に、盗賊シノと商人レイの金の亡者姉妹は別のあだ名を彼に付けている。

「彼は『金の成る木』です!」

 金銭トラブルで仲違いしていた姉を仲間に引き入れる時、妹レイはそう説明した。

 モラル値が高いと幸運に恵まれる。

 この異世界の仕組みを商人レイはこう分析している。『運』こそが最も重要だと。

 だから彼女はサンバダンサーのような露出度高めの格好でいる。露出狂ではなく『運』のパラメーターを上げる装備を選んだ結果が、たまたま露出装備……だと本人は言っている。

 『金の成る木』なんて呼び方どうかしていると思っていたが、見事に高級店のフルコースを無料にして見せたアイさん。

 実感した。

 金の成る木、恐るべし!

 ……少しして、聖職者セインと盗賊シノが一緒に戻ってきた。

 寄り道をして遅くなったらしい。

 実は私達は……いえ、アイさんは、

 この街の入口付近でも『金の成る木』の片鱗を見せていた。

 路肩にあった四角い箱のような石。蔦やコケで覆われたどうってこと無い石を、私達が素通りする中、アイさんが足を止めて観察をしだした。

「??」

 何をしているのかな?

 みんな思った。

 腰を下ろすのに丁度よい大きさの四角い石。

 その石にアイさんが触れた瞬間に、

「えっ?!」

「何?!」

 石が輝きだして、宝箱へと変わった。

「嘘?!」

 驚きつつ、

 そして中身を期待した。

 ……

 開かない。

 読めない文字が上に書かれているが、

 全く開かない。そして読めない。

 アイさんはサーフボードと錯覚するほどの大きな剣の使い手。腰に差すには大きすぎて、背中に背負うほどの剣。

 その大きな剣『ジュピターソード』を片手で扱うほどのパワーがあるのだが、

 その宝箱の蓋はアイさんでもビクともしない。

 ……結局開けられず、糠喜びになって街に入った私達。

 だが、金の亡者は諦めていなかった。

「シスターのセインさん。すっごく知識が豊富なんだ。」

 教会図書館で出会った美女を、そう言って私達に紹介したアイさん。この異世界の様々なことが書かれている本を何十と読んだという彼女。

 それを覚えていた盗賊シノ。謎の宝箱の謎の文字も読めるのではと、お金を取りに行ったセインさんに追いつくなり、強引に街の外の宝箱の所まで連れて行った……ので2人とも戻りが遅くなった。それも無駄足の遠回りで。

 宝箱は四角い石に戻っていた。聖職者セインさんが触れても光らない。アイさんじゃないと反応しないようだ。

 かろうじて謎の文字だけ薄っすら残っていたので、セインさんが解読。

 セインさんは読めたのだが、

『時来たれば、導かれし者の手によって、この宝箱は開くであろう』

 ……つまりは時が来ないと入手不可能な宝箱。

 結局手ぶらで街へ戻り、途中で本来の目的を思い出し、それから彼女の部屋へと金を取りに行ったので遅くなった。

 まったく迷惑な金の亡者だ。

 でもこれで、

 私達のパーティーは、男1人と女4人の5人チームだとやっと紹介できます。


 その後、強盗事件を笑い話として語り、無料のグルメを十分堪能した後、店を出ると、数組の客が待ち構えていて、彼らから再び感謝をされた。

 あの場にいた客全員、怖い思いをさせたという店側の配慮で、食事代無料になったらしい。

 『金の成る木』……想像以上に凄いのかな?

 と、私が思い始めていたら、

 聖職者セインさんが、近場にもう1か所寄りたい所があるというので、案内されるまま再びついて行く。

 その道中で、

「セインって名前、素敵ですよね。」

 食事中の会話で「すっごく知識が豊富なんだ」というアイさんの言葉に納得。教会図書館でこの異世界にまつわる文献をかなり読みあさったというだけでなく、人柄も良さそう。是非とも仲良くしたい。

 中立(アイさん)を除くと2(金の亡者姉妹)対1(私)、ただでさえ戦力外の私は味方が欲しい。親しくなりたい。

 そしてセインさん、なんでも笑顔で応えてくれる。本当に良い人だ。まさに聖職者に相応しい。

 ただ、

「セインさんも高校生ですか?」

 商人レイの素朴な質問。

 現実世界からこの異世界に召喚された人数は未知数だが、そのほとんどは日本の高校生らしい。セインさんは20〜25歳程度に見えるが、金髪でも明らかに口調は日本人、容姿は現実世界のままとは限らない。現に商人レイは胸を盛っている。バストと衣装だけサンバダンサーそのものだ。こんな高校生いる訳ない。

 と……聞こえているはずなのに初めて質問をスルーしたセインさん。

(年齢に関する質問は『禁句』だ!!)

 私達はそれ以降、現実世界の彼女に関する質問は避けた。

 ……のだが、

「本名からとった名前なの。」

 笑顔で教えてくれた。

 嬉しかった。

 アイくんは無口な方。

 盗賊シノと商人レイは実の姉妹、2人での会話が多い。そしてこの姉妹はかなりマニアック。好きな漫画やアニメの話で盛り上がるので、私はちょっとついて行けない。

「漢字だと『聖』って書くの。親がとんでも無い読み方にして、」

 キラキラネームの犠牲者だった。

 しかし、続く言葉に

「小さい頃に反抗して、聖子って呼ばないと返事しない!なんて言った事もある。」

「!」

「!!」

 後ろを歩いていた姉妹が反応した。

(今のはどっち?ただの実話?それとも…?)

 ゴゴゴゴゴゴ……

 その答えは、次の言葉にあった。

「星型のアザは無いけどね。」

 後ろの2人に、髪を上げて首筋を見せたセインさん。

「ビンゴォ!この出会いは、引かれ合ったからかもしれない!」

 なんてまた盛り上がってる。

 何の漫画かな?私も読むべきかな?

 また少し孤立感を感じつつ、目的地に到着。

 ブティックのような品の良い店だった。

 これまで訪れた町の武器防具店はリサイクル店のようなゴチャゴチャしたイメージだったが、ここは聖職者御用達の店、綺麗で高級感がある。

 その店内へ、やはり現実なら門前払いされそうな薄汚れたマントのアイさんとハロウィンの仮装のような私達がすんなりと入っていく。

「御馳走するお金が浮いたお礼に、マントを一着プレゼントするわ。」

 最初から決めていたらしい。

[聖人のマント]。襟付きで、色は白に近いベージュのマント。一着変えただけで、汚れた流浪の冒険者が普通の戦士へと様変わりした。

(おおーーーーっ!!)

 一同感嘆。やはりセインさんはデキる。

「値段も手頃なのよ。」

 アイさんが遠慮するより先に値札を見せて納得させる。今のボロマントより魔法耐久が上がる点もアピール。アイさんもボロが好きな訳ではない。所持防具の中で1番使えるから着用している。見た目無視、実用重視のガチ勢なのだ。

 さらに仕掛けるセインさん。

「髪型とかこだわる方?」

 後ろは背中まで、前も両目を隠すほど長く、放浪剣士感をより強くしていた長髪を、

「いえ……髪型は別に」

 アイさんが答えるや、店員さんに頼んで前後をさっぱりとカットしてもらった。

(おおおおーーーーーっ!!!!)

 前髪もさっぱりとした清廉潔白な青年剣士が完成。これならリーダーとして申し分ない。

 好感度を上げたアイさん。

 そしてアイさん以上に好感度を上げたセインさん。


 改めてパーティーメンバーを紹介します。

 私達が付けたあだ名を一つずつ添えて。


 『モラル王』剣士アイさん


 『足手まとい』召喚士カナ(私)


 『ガヤ』商人レイ


 『金の亡者』盗賊シノ


 そして聖職者セイン

 後に呼ばれるあだ名は『天才軍師』!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る