🐟️ 11 🐟️

  ◇  ◇  ◇



 夕焼けに染まるL.E.――オッシャル・ストリート。〝寿司処めふぃすと〟の店内に、カウンターチェアで簡易的なベッドが出来上がっている。その上で転がっているのは、白い顔をしたエレナ。未だ彼女が羽織っているファウストの白衣は、不憫にも顔色にピッタリだ。



「うう、結局仕入れがおじゃんに……」


「お家で休めばいいでしょう」



 天井からシャンデリアのように吊り下がる肘掛け椅子。そこに深く座るファウストは、紙束に羽ペンを走らせながらぼやいた。


 ふらりと起き上がったエレナは、カウンターに散らばる折り紙に手を伸ばした。



「お店開けられないなら、内装は進めないと……」



 そこへ、コンコンとガラスを叩く音がする。



「……?」



 のそりと外に目をやったエレナは、弾かれたように立ち上がった。



  ◇  ◇  ◇



「鶴!!」



 ガラッと引き戸を開けて外に出るなりエレナは叫んだ。路地からじっとこちらを見ているのは、羽のボロボロ具合からいって、エレナと一緒にデカ鷲に飲み込まれたあの鶴だ。



「どうしたの?」



 尋ねると、鶴はボトッとくちばしから何かを吐き出した。夕陽を反射する1尾のアジ。フィッシュ・マーケットで見たどのアジより大物だ。



「くれるの?」


「クェル」



 鶴は首を前後に動かした。エレナの白い顔に赤みが戻った。



「ありがとう! あなた、いい子ね」



 そうハグしてくるエレナを、鶴は片翼でちょっとだけ撫で、すぐに離れた。踵を返した鶴は、弱った足を引きずりながらも顔色一つ変えなかった。借りを返し終わったギャング鶴は茹で鶏ハードボイルドに去るべきなのだ。



「この辺りで鶴を見かけたってよ!」



 感動のシーンを、バタバタと近づく足音と声が台無しにする。路地に飛び込んできたのは、猟銃を構えた一団だった。蛍光色のベストの文字から察するに、オッシャル・ストリートの商店会員だ。



「いたぞ! ギャング鶴に違いねぇ」


「何か盗られる前にヤキトリにしてやらぁ」



 ガチャ、と銃を構える音。これが俺の最期か、と鶴はゆっくりと振り返った。そのくちばしの先を白衣がかすめる。



「こっ、これはうちの子! ギャング鶴じゃないから!」



 銃口の前に立ちふさがるエレナ。鶴はまばたきした。



「上京した時から一緒だもんね。ねっ! ツr……えーと」



 ぐりっと鶴を振り返った彼女の目が泳ぐ。な、名前。えーと、えーと……何か思い出せ、お店のカウンターの……。



「……オ、リガミ!」



 不自然な間をごまかすように、エレナはガッと鶴を抱き上げた。アジも一緒に。



「さ、お店に戻ろうね、オリガミ」



 疑惑の目が向けられる中、滝汗を流しギクシャクと足を進めるエレナ。そのまま、ガラッピシャッと高速で〝めふぃすと〟の中に消えた。されるがままの鶴。



「チッ、紛らわしいんだよ、ファック!」



 鼻先で戸を閉められた蛍光色の一団は、捨て台詞を吐いた。



  ◇  ◇  ◇



「美味しいアジなんだから、オリガミも食べたかったでしょ?」



 騒動から小一時間後。〝めふぃすと〟のオープンキッチンからエレナの明るい声が響く。


 ぺかー、と寿司下駄に並ぶアジのスシ。



「どうぞ、おあがりー」



 カウンターの鶴、天井のファウストがそれぞれ神妙な顔で、一貫つまむ。あーん、と口の中へ。


 ヴェッ。鶴は秒で吐き出した。ファウストはおしぼりで口を押えながら咀嚼を続ける。



「……最高の素材の味をここまで殺すとは。一種の才能ですねぇ、貴女」


「なんでぇ~~」



 昨夜と同じポーズで、エレナはめそっとシンクに突っ伏すのだった。



(つづく🦄)



※書き溜め期間に入ります

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祓魔寿司 めふぃすと 岡村なぎぼ @nagibochang

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