第16話 戦闘決着

「おっ?」


 急に戦い方が変わった。

 その場からほとんど動く事なく、正確無比な射撃を繰り返すやり方から、さっき見せた高速移動を連発するようになっていた。


(弾幕は無意味と判断し、意識外からの一撃を狙っているのか。良いね、正解だ)


 いくら正面から連射したところでオレに当たる未来は永劫にない。モーションが見えていたら確実に防げる自信がある。

 鎖による防御を突破する唯一の方法は、機動力を活かした死角からの銃撃だ。それなら鎖の操作が遅れてミスをする可能性がある。


 まあ、そう簡単に見失ってやるつもりはないけどな。


 オレの周囲を跳び回るかのように連続で高速移動を続ける酒井。そしてランダムなタイミングで一発だけ撃つ。

 動きの癖はないように見える。ほぼ完全にランダムなルートで移動している。

 見失う事はない。防御も間に合う、が……攻撃する余裕はないな。


 反撃するためには隙を見つけるしかないけど、動きに法則性はない。三発分移動してから一発の攻撃、四発移動のパターンもあるし、五発、六発の事だってある。

 ここまで見続けた事であの移動技の正体もわかった。


 歩法と銃術の複合技だな。

 空中に跳び上がる事のない二次元的な動きしかしていない以上、足が地に触れている事が重要なんだろう。仮にそうでなくても、翼もないのに空中に飛び上がるのはリスクが大きいからな。


 既に何十発と床に撃ち込んでいるはずなのに、床に弾痕は見当たらない。つまり高速移動の時に撃っているのは弾丸ではない? 通常の射撃音とも違うし、火薬だけを込めた特殊弾のようなものか?

 だとすれば、予め二種類の弾薬をマガジンに込めておき、それに合わせて戦っている?

 それはない。なんせ酒井は戦闘が始まってから一度もマグチェンジを行なっていない。となれば天照の弓と似たような性質なんだろう。

 撃つ瞬間に二種類の弾薬を使い分ける事が出来る魔装具。厄介だな。


 最初は急所ばかりを狙っていたけれど、既に狙いは分散していてオレの四肢を狙う事も増えていた。

 四肢を撃ち抜いても一撃で終わらせる事は出来ないが、確実に相手を消耗させる事が出来るからな。それも良い狙いだ。


 だが、そんな考察をしながら防戦一方の戦いを続けていると、ふと気が付く事があった。


(酒井の動きが単調になったな)


 どんな攻め方をしてもオレの防御を突破出来ない事で焦りが出たのか? 三発分移動してから一発放つ。それを繰り返すようになっていた。


 その場から動く事なく防御を続けているオレと違い、酒井は動きっぱなしだ。早くこの戦いを終わらせたくなる気持ちもわかる。


 だからその望み、叶えてやるよ。


 いくら高速移動だとしても、一回の移動距離と速度はわかっている。そして道具の力を利用した移動である以上、一度動き始めてしまえば途中で止まる事は出来ない。

 銃口を向けた反対側が進む方向。それだけわかれば狙える。


(ここっ!)


 高速移動の反動で床を滑りながらも、正確に銃口を向けて来る酒井に向かって鎖を振った。


 その時、奴が小さく笑ったのが見えた。


 目が合うのと同時にオレへと向けていた銃口を下ろし、二丁のそれを自身の背後へと向けていた。

 ——そして、爆音が鳴り響く。


「漸く動いてくれたね。その我慢強さには感心するよ」


 背後から聞こえた声に、オレは目を見開いた。

 ——同時発砲による倍加速か!

 移動距離も速度も今までと違う。一瞬で背後に回った酒井がオレの背中へと銃口を向けていた。


(——ああ、よかった。期待してたぞ)


 あの程度で雑になる奴ではないってさ。


「酒井。理不尽を知れ」

「——っ!?」


 顔を見るまでもない。彼の動揺が伝わった。

 左右同時に撃ったという事は、交互に撃つ時よりも次の射撃が遅れるという事だ。フルオートで連射するなら違うが、単発撃ちならどうしても次弾が遅れてしまう。


 それだけの時間があれば十分だ。


「【鎖塊流星さかいりゅうせい】」


 彼の頭上に突如として出現した鉄の塊。それは鎖の先端に付けられた鉄球を中心に、鎖を何重にも巻き付けて巨大化した鎖の塊だ。


 それを隕石の如く酒井へと堕とした。


 床が砕け散る轟音が鳴り響き、強大な振動が地を伝った。

 人間なんてまず助からない力の塊。それを直撃して生きているなんて普通ではありえないけれど、魔装具は凄いんだろ?


「ああ、良かった。生きてくれていて嬉しいよ」


 鎖塊を解いて回収すると、穴の中心で気絶している酒井の姿があった。

 学ラン姿のまま倒れていた彼の身体が光を放ち、消えたかと思えば元のブレザー姿へと戻っていた。


 はい。オレの勝ち!


「後の事は任せて良いですか? 北炒先生・・・・


 ゆっくりと背後から近付いて来た北炒先生に振り返りながらそう問うと、先生は笑いながら答えてくれた。


「勿論! 良いバトルだったよ! いやー、ボクも油断出来ないねー。強々な新人さんはうぇるかーむ、だよっ!」


 転校初日で有名なほどに強いとされている魔装師見習いを倒した。この事実は色々と波乱を巻き起こすきっかけになるだろう。

 それで良い。

 オレの役割は、目立つ事だ。


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