第15話 戦闘開始
「そうか。ならば遠慮はしない!」
二つの銃口が迷いなく向けられ、即座に二発の発砲音が鳴り響いた。
(良い
額と喉。その両方が致命傷になる狙いだ。
奴の腕にも驚いたけど、最たるは銃の性能だ。拳銃なら通常この距離でも弾道がブレるはずだ。だというのに届いた弾丸は銃口の延長線を逸れる事なく進んでいた。
本人の狙いも正確。弾丸の軌道も正確。それなら射線を見切るのは容易い。
この男もまた躊躇いなく急所を狙って来た事については、もう驚かない。涼樹の情報は当てにならないとわかったからな。
そんな事を考えながらも、オレの身体は反射的に右腕を振るっていた。
「どいつもこいつも急所ばっかり。人の心とかないのかよ、まったく。こちとら乙女だぞ?」
「戦場に男も女もないよ。それに傷が残る事はないから安心すると良い。……それにしても、それが君の武器かい?」
一度銃を下ろし、眼鏡の位置を直す苦労人。キラリと輝くレンズの奥で、鋭い瞳がそれを見つめていた。
先端が広がっている袖から伸び、今は床に落ちている連鎖円。無数の輪が連なって出来た武器、鎖だ。
「銃撃を鎖で受け止められるとは思っていなかったよ。中々の腕があるらしいね。それにしても不思議な話だ。君はごく最近この国に来たと聞いている。だというのに、この武器について知っているようだったね。銃だなんて、それもこのサイズは外にないというのに」
苦労人が言っているように銃を作れるほどの技術力を有する国は少ない。だけど、ないわけじゃない。
少なくともこの付近にはないからな。技術はこの国がトップだと錯覚するのは仕方がないのかもしれないが……蛙だな。
「地元が最強だと思ってて良いのは小学生までだぞ、クソガキ」
「そうか。ならば遠慮は無用のようだね」
「ああ、さっさと来いよ。蛙君?」
左腕を伸ばして挑発をすると、奴は動いた。
正確な照準に高い精度の拳銃。弾道を見切るのはやはり簡単だ。対策はシンプル、射線上に鎖を置いておく、それだけで防ぐ事が出来る。
勿論、オレだから出来るやり方だと思うけどな。
「ほらよ!」
弾丸を鎖で防ぎながらも、同時に伸ばした鎖の先端で攻撃を仕掛ける。
鎖の先端に付けられているのは刃物などではなく、ただの丸い鉄球。大きさもそれほどなく重量も大した事はないが、鎖がしなり先端へと凝縮される遠心力は見た目を遥かに超える攻撃力を秘めている。
床をバウンドするかのように波打った鎖が蛙君へと迫る。着地点は全て床を粉々に打ち砕いていた。
「ほう、大した威力だね。しかし、当たらなければ意味はない!」
銃口をオレにではなく、地面に向けた苦労人。その姿にとある部下の影が重なった。
数週間前まで行動を共にしていた二人の部下の内の一人。使用武器は
次の瞬間、火薬の炸裂音と共に奴の姿が消えた、ように見えた。
(やっぱ、そうだよな!)
銃撃の反動を利用した高速移動技。銃使いは似た様な事を考えるらしい。
初見ならその速度に面喰らい、確実に見失っていただろうけど、オレの目は奴の動きを捉えていた。
「はっ!」
右腕を振るって鎖を放つ。オレが見失っていると思っているであろう奴の顔面に向かって、最速の最短コースだ。
「——っ!」
即座に対応されるだなんて欠片も思っていなかったんだろうな。だが目を見開きながらも片腕を盾にする事で顔面への直撃を防いでいるのが見えた。
「くっ」
「良いな反応!」
思考停止して直撃を受けてもおかしくないどころか、普通ならそうなる。それを防いだ事は心から称賛を贈ろう。
受けた衝撃を上手く利用し、空中で姿勢制御を行い一回転しつつ着地した奴へと向かってオレは走り出した。
射撃能力だけでなく、身体の使い方も上手だ。長く濃密な努力が窺える。
着地後すぐに状況を把握し、接近しているオレに向かって二丁を連射するが、その全てを鎖で打ち落としながら走り続ける。
「くっ、なんて防御力だ」
「この数倍の弾幕をよく相手してたからな。掠る気もしないぞ」
部下の訓練に付き合うのも上官の役目だったからな。いくら
それにこいつの愚直な性格もオレの味方をしている。正確過ぎて、ブレがなさ過ぎて、フェイントすらない真っ直ぐなやり方は攻略し易いんだ。
「そうか。それならこれでどうだい?」
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