第17話 驚愕
タルト、マジかよ。こりゃ……とんでもないな。
放課後に行われた魔装具有りの模擬戦。戦ったのは今日転校して来たタルトと、実力者として有名でまだまだ新顔の俺ですら知っている酒井の二人だった。
「……ねーリヨリヨ。タルタルって何者?」
「俺も知らねえよ。だけど俺たち友達だろ?」
「……ん、そうだよねー」
マッオマオが動揺しているように、正直言って俺も動揺していた。
いや、正直言ってタルトの異常性に関しては、マッオマオよりも俺の方が強く感じていると思った。
マオは長年この国に住んでいて魔装具に対する感覚が鈍っていると思うんだ。
俺はずっと魔装具のない生活をしていた。そして一ヶ月前にとある夫婦を助けた時のお礼として二つの魔装具を貰ったんだ。
その時の俺は魔装具なんて知らなかったけれど、綺麗な宝石が光り輝く指輪は確実に高価な物だと思って、最初は断ったんだ。
だけど夫婦は自分たちにはどうせ必要のない物だと言って譲ってくれたんだ。
そして俺は知ったんだ。
魔装具というものが、どれほど強力な武具なのだという事を。
『展開!』
指輪が光を放ち、全身へと伝った輝きが武具となる。
俺があの夫妻から貰った一対の魔装具は、全身を包み込む漆黒のロングコートと、銀色に輝く刃をしたロングソードだった。
その性能は……俺の常識を破壊した。
一太刀振えば斬撃が刃から撃ち放たれ、ロングコートはどんな攻撃も衝撃すら分散させて受け止める。
あの日、これがあれば妹と両親は——
弱者を強者へと変える奇跡の力。それが魔装具だ。そしてその力は使えば使うほどに成長し、進化する。
この一ヶ月で強くなったと、確信と言えるほどに自信がある。日々成長出来ている。それを強く実感出来るんだ。
だからこそ、その差を目の前にした直後だからこそわかる。
タルトの強さは異常だ。
酒井と戦った事はない。だけどあいつが強いのは見ていればわかった。そんなあいつに対して、タルトは確実に力を制限していた。
だってあいつ、あの戦いの中で一度も左腕を使っていなかった。
両手で振うのが前提な剣と違って、タルトの武器は鎖だった。片手で使えるから左手は必要ない。そう言われたら否定出来ない。だが、違和感。
模擬戦中にタルトから受けた印象は……戦いを楽しんでいた。
苦戦する事に喜びを見出しているのではなく、むしろ正反対。
遥かな高みから、試しているように見えたんだ。
酒井を塊で叩き潰した時、タルトは確かに言っていた。
理不尽を教えると。
そんな言葉が自然と出る。そんな環境で生きていたのか?
理不尽の中で生き、そして理不尽を他に教えるほどまでの力を得たって事なのか?
知りたい。
知りたい。
知りたいっ!
その力を。その理不尽の根源を。
底の見えない力。その一端に触れる事が出来れば……もしかすれば俺は……俺はっ——
「あーあー、謝らないとだー」
「謝る? 何を?」
「えー、だってほらさー。結果を見ればわっちゃたち、余計なお世話だったよー」
「……あー、それは……否定出来ねえー」
結果を見ればタルトの圧勝だ。
見る者によっては色々と御託を並べるだろうけど、俺たちの認識じゃタルトの圧勝だ。
「けど、仕方がなくない? アレは流石に例外過ぎるだろ」
「んー、それはー、まあー……だね」
気まずそうに頬を指先で掻いているマオ。
今回の出来事は正直……俺たちの常識をぶち壊した。
「あいつ、何処から来たんだろうな」
「リヨリヨ」
思わず出てしまった言葉に、マオは強い反応を返していた。
「どうした?」
「……多分、気にしちゃ駄目」
「駄目か?」
「……ん、駄目」
「それなら……しゃーないな!」
俺は良くわからないけど、マオがそう思うなら多分そうだ。
根拠とかはないけど、不思議と俺もそう思ったんだ。
「……ねーリヨリヨ。聞いても良い?」
「なんだ?」
「なんでここに来たのー?」
「そりゃ魔装具を手に入れたからだな!」
魔装具は難しい武具だ。我流は怖いからな。だからここに来たんだ。
だけど、どうやらこの答えはマオが望んだソレではないらしい。
「どうして力が欲しいのー?」
彼女の瞳は濁っていた。
いつの日か。俺が見ない事にした濁りがそこに映っていた。
「……ねー、リヨリヨは——」
ああ、わかる人にはわかるのか。
「——何をしたかったの?」
俺がどうしようもない罪人だって。
未来を捨てて過去を生きる咎人だって。
「わかるだろ?」
あの日から一つ。
俺の生きる理由は定まっている。
「——————」
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