第2話
血しぶきと共に男が倒れ伏せるのを見た…見た…?なんと例えればいいのか分からない妙な感覚が俺の中を渦巻く、視神経を持たずに何かを見ると言う事がどうにも気持ちが悪いうと言うかなんというか。
しかし同時に感じ入ったものがある、快感だった。剣に本能があるとすればそれは裁断することであり、それをなした今俺の中ではやり切ったという感覚が渦巻いている。
現在俺を手に握るマルギットちゃんの脳を読む。このマルギット…面倒くせぇなマルちゃんでええわ、このマルちゃんが済むヴィルヴェントは2つの王国のはざまに位置していた村らしい、ミュスルン王国とグリュン王国、どちらも王国ってのは紛らわしいのだが。そんなことは大したコトじゃない、この両王国では現在小さな戦争がそこかしこで起きているらしい、発端は単なる村娘故分からないがピリついた大人の雰囲気や時折耳に挟む会話からその程度の情報は分かったそうだ。
今回はその小さな闘争の火の粉に巻き込まれたという事になるのだろう、前世の記憶の中に少しだけ残っている、戦争と言うものに置いて略奪はセットで行われるものなのだと、大きいものは家財から小さなものは人命まで、力あるものが奪うと言うのはごく当然の権利として行われたことらしい。らしいと言うのは俺の前世に置いてそれを経験する余地等無かったからである。
しかしこの瞬間実際に感じて見るとまあ凄惨なものだ。マルちゃんの思念とでもいうべきものが俺を強く握る手から流れ込んでくる。強烈なまでの負の感情、憎悪であるとか屈辱であるとか悔恨であるとか、まあそりゃ人間復讐ってものに走りますよねって言いたくもなるどす黒いタールのような心の色、実に甘美だ、俺が剣になったからかそう言う心の色は美味に感じる、なんか特撮で魂の味がとか言ってる悪役みてぇだな俺。
それはそれとしてそう言う精神エネルギーが俺にとって極めて良いものであると感じ取ることは可能だ、正であろうが負であろうが好ましい、益々欲しくなる。肉体的な快楽を失ったのであればこれを求めるのは仕方のないコトだろう?
と、言う事でマルギットちゃん俺の為に頑張ってくれたまえ!大丈夫大丈夫、俺もこの謎パワー貸すからさ、気に入らない奴ら全員ぶっ殺していこうぜ!!
〇
男の首を刎ねた後マルギットは己の手の中にある剣を見て呆然とした、おおよそ覆るはずのなかった形勢はこの剣によって逆転した、恐らくは逃れられぬ凌辱が身に降りかかるはずだったというのに一切そのようなことはない。頭にのぼっていた血が静まると同時に冷静さと混乱の矛盾した思考が両方くる。
まずこの不可思議な力は何か、ヴィルヴェントは開拓村であり歴史が浅くその土地に根付いたおとぎ話などは存在しない、むろん移り住んだ老婆がたわむれに聞かせてくれる古き話はあるがそれはここに移住する前のものでありこの周辺での物語ではない。
そしてこの力をどのような形であれ得た力を持って村を救援に行かなければならない、この胆力をもってすれば即座に駆け付ける事が出来るだろう。
『どうした、動かぬのか』
声が来る、耳ではなく頭に響くそれを正しく声と形容していいかは分からないが、それを発している存在は分かる。
「魔剣……」
『いかにも』
男にも、女にも、人にも、人外にも聞こえる声はそれこそ神父が話す神にも思える。しかしその存在自体が自分の事を魔剣と称している以上その存在は魔剣なのだろう。色々と言いたい事はあるが、まず口を出た言葉がある。
「何故こんな所に……どうして私を?」
『すべては偶然にして必然……蹴り飛ばした石ころがどこに向かうかなど誰もが分からぬが、上に蹴れば下に落ちると言う理屈は生じる、ただそれだけである』
そんなにべもない言葉を聞くと脱力しそうになるが人智を超えた存在と言うものは得てしてそんなものなのだろう。
『それよりも』
意識が思考にはまりそうになる前に声に呼び戻される。
『なすべきことをなさなくていいのか』
は、と、覚醒。今他愛のない思考に囚われている暇など無かったと思いだす。精神と肉体が再接続されるとともに足が動いた、ヴィルヴェントに村に戻らなければならない。まだ村を荒らす手合いがいるのであればその敵たちを鏖殺せねばならない。
魔剣により身体機能が強化されているのか身体に疲れを感じる事は無かった、その足取りのままに目指す。剣を振り回せば面白いように枝葉が切り落とされる。
つく。村は既に惨状になっていた。男は死に、死んだ女が無造作に横たえられている、どの体も抵抗の跡が見えるから村に来た兵へ歯向かったというのが分かる、村の女の数が足らなかった、恐らくは抵抗できなかった女は売り払うか慰み者にするために連れて帰ったのだとそれくらいは理解できる。マルギットは幸運の側にいた、犯されもせず力を手に入れた。
しかし心にひびが入る。膝をつく。土の感触が膝に来た。鼻には焼けた後の焦げ臭さを感じる。尻もしなかった、奪われるという事がこれほどのことだと、耳に入ることは時折あったとはいえ、しかし自らにそんなことが降りかかるなどと誰も思うわけがない。
手に力が入る、硬い感触が残る。剣を握っている。ずっと握り続けた魔剣に握る力がこもる。
「ねえ、魔剣」
マルギットが魔剣に声をかける。
『何か』
「あなたを使えば、村を焼いたやつらを同じような目に合わせられる?」
『無論である』
端的な言葉を聞く。その言葉が欲しかった。同時、心の中で淀んでいた言葉の塊が一気に出た。
「殺して…殺してやる滅茶苦茶にしてやる苦しめてやる!!!同じような目に合わせて命乞いをさせて尻の穴から剣を差し込んでやる!!!」
『(ええ…それはちょっとやだなぁ)』
「喉から引き裂いてやるはらわたを引きちぎってやる!!目の前のやつらの子どもを1人ずつなぶってやる!!!死ね!死ね!死ね!!ドイツもこいつも…絶対に…絶対に呪ってやるぅぅぅぅっ!!!」
負の思念を吐きだし、目の端に水がこぼれた、涙。慟哭、そしてそのままに流しきる。とまらないしゃっくりが止まるまで時間がかかった。一度目をつぶってそして見開く。
そこに村娘の物は無かった。
「ねえ、魔剣、あなたが私に力をくれるというのなら魂だってくれてあげる…だから、復讐を果たすまで私のものであり続けて」
ただ一人の復讐者の女がいる。
魔剣になった俺と俺を使う人々と @navi-gate
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