早打ち

 魔法に関することだけ。

 ここだけは、私もそうやすやすと負けるつもりはない……っ。ゆ、唯一。これだけは唯一、こんな私にもあるものであって、生涯に渡って、私の隣に居続けるものだから。


「う、うぅ……か、勝てないっ」


「ふ、ふふんっ。わ、私の年上としての、威厳、だよっ」


 魔法についての概要を教えた後、ティアもまた、魔法が使えるようになりたいと告げ、魔法についてのお勉強を開始した。

 とはいえ、ティアは魔法方面に関しても抜群のセンスを見せ、私が軽く教え込んだことを呑み込み、パパっと魔法が使えるようになっていた。お勉強とは?みたいな感じだった。

 ここまですぐ魔法を使えるようになった子を私はティア以外に知らなかった。


「……ま、まだ、教えて三日目だしね?」


 私が魔法を教えたのはつい三日前。

 だというのにもう当然のように魔法を使いこなしていた。

 自分が買ってきた子の才能がちょっと怖くなってきていた。


「……うぅ、勝てない」


 そんな今、私とティアは魔法の早打ちで競っていた。

 やっていることはシンプルで、二人が共に並んで立って詠唱を唱え始め、どちらの方が先に的を撃ち抜けるかというものだった。

 これは軍隊などでも良く行われている早打ちの訓練であり、ちょっとしたお遊びのようなものでもあった。


「私はハンデまでもらっているのに」


「ふ、ふへへ……ハンデでもないと、戦いにさえならないよぉ?」


 今、私とティアがやっていた早打ちはハンデありのもの。

 ティアが狙う的は一つなのに対し、私の狙う的は全部で十個。

 その上で、私はティアにちゃんと勝てていた……ふふっ、流石に、


「私が悔しがっているのに、勝てたうれしさでニヤニヤしている……私を慰めるのか、自慢したいのか、どっちかにしたい」


「ご、ごめん……っ」

 

 年上としての威厳を見せられたことでちょっとばかり調子に乗ってしまっていた私は自分の前で膨れているティアへと謝罪の言葉を口にする。


「……んっ。じゃあ、代わりにさっきからエタナの使っている詠唱の方法を教えて?」


「あー、え、えっとぉ……説明するのも、難しい、かなぁ?」


 私の詠唱を教えて。

 そう問われた私は困ったような表情を浮かべながら、言葉を濁す。


「わ、私の詠唱は特別でぇ……えっとぉ、自分で色々なルールをごちゃまざにした独自言語を使っていてぇ、それをなおかつ、単語と単語を重ね合わせて普通じゃもう読み上げることもちょっと難しいような形で、え、詠唱しちゃっているからぁ……ちょっと、教えるのは、難しいぃ?」


「んっ。その独自言語を教えて」


「え、えっとぉ……あまり、おススメ、出来ない、かもぉ?私のは、ほんと、上級者も上級者というか……色々なことを知っている前提でぇ、ちょっと、始めたばかりの人がやる奴ではない、かもぉ?」 


 私の独自言語は多分、私にしか理解できない。

 そういう風に作っているし、他人に教えることになるとも過去の私は思ってもみかった。自分の、声帯に合わせて作っているし、これを丸々知って真似してもそんなうまく行かない……はずだ。


「むぅ……」


 なんてことを並べる私の話を聞き終えたティナは更に頬を膨らませていた。


「うぁぁぁ、ご、ごめんねぇ?」


 そんなティナの姿を見る私は更に謝罪を重ねる。


「……んっ。仕方ない」


 そんな私の姿を見て、ティナは少し理解してくれたみたいだった。


「じゃあ、代わり。一緒に、お風呂入ろ?……外いて、汗かいた」


「う、うんっ!そ、それくらいならいつでもっ!」


 そして、代わりの要求としてお願いしてきたティナのささやかなお願いに首を縦にふるのだった。

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