第24話 セックス

 え。え。え。え……? 華乃さん、今、なんて……いや、間違いない。言ったよな? 言ってくれたよな!?


 華乃さんは、おずおずと顔を上げ、しかし濡れた瞳で真っ直ぐと僕を見つめ、


「セックス、していいよ、一太。そうすれば、別れないでいてくれるんだよね?」

「当たり前だろ! 僕は華乃さんと、彼氏彼女の関係で、愛のあるセックスをしたかったんだから!!」


 やった……やったぜ! やっと僕の思いを華乃さんがわかってくれた!!


「うん、ちゃんと愛のあるやつじゃなきゃ、ダメだかんね?」

「ああ! 君もちゃんと約束してくれよ!? これからは僕とセックスするんだから他の奴とはしないって!」

「当たり前じゃん!? なに言ってんの、一太!? 一太も絶対、他の人となんてダメなんだかんね!? わたしが……ちゃんと満足させたげるんだから!!」

「華乃さん……っ!」


 体が熱を帯びてくる。華乃さんが、僕をからかってくれる……僕だけを、からかってくれるのだ!

 くそぉ、華乃さんめぇ……! 絶対からかわれてなんてやらないからなぁ! 今日こそは僕が勝って、からかいギャルの華乃さんの鼻を明かしてやるんだ!!


「じゃ、じゃあ、一太……あれ? どうすればいいんだろ……? あ、とりあえず、シャワーを……」

「シャワー!? そんな清めの儀式いらないよ!! 確かにとても神聖で重大なことではあるけど、そうは見せぬよう、あくまでカジュアルに軽い気持ちでやっちゃうから良いんじゃないか! それが僕と君との営みだろう!?」

「そ、そーゆーものなのかな……? ま、まぁ、でも確かにシャワーなんて使ったらお義母さんたちにも勘付かれたりしちゃうかもか……」


 真っ赤な顔で何やらゴニョゴニョ呟き、モジモジとする華乃さん。この初体験前の乙女のような態度……これはまさか、前振りなのか……! 特大のからかいを僕に喰らわすためのお膳立て……いわば前戯! こいつはぁ、ヤベェからかいの匂いがするぜ……!


「わ、わかった一太、じゃあ……部屋、暗くしよ?」

「――――!! ああ、そうだね!」


 わざわざ視界を暗くしてまでだなんて……いったい、どんなからかいをするっていうんだい、華乃さん!!


「えっ、華乃さん、いったい何をして……!」


 カーテンの隙間から入り込む日差しだけが頼りの空間で、衣擦れの音がする。なんと華乃さんが、コソコソゴソゴソと衣服を脱ぎ始めたのだ!

 こんなの、童貞の僕は動揺しまくらざるを得ない……! 初っ端から、何て大胆で直接的なからかいなんだ! ちくしょう、華乃さんめ、童貞の僕をコケにしやがってぇ……!


「ちょ、一太、ズルい!」

 下着姿になった上半身、脱ぎかけのショートパンツ、そんな姿で自分の身を抱くようにして、華乃さんが訴えてくる。

「見てばっかないで、ほら、一太も脱ぎ脱ぎしてっ」

「えっ」

「わたしだって、死ぬほど恥ずかしいんだからっ! 実はけっこーお肉とかついちゃってるし……一太は筋トレしててズルいんだから、さっさと脱いでよ、まったくもうっ」

「ぐぐぅ……! わ、わかったよ、華乃さん……勝負だね! 肉体勝負なら負けないよ!」

「むぅ……そーやって一太は、こんなときまでイジワルなんだからっ」


 あえて自分を下げ、僕を持ち上げることで勝負に持ち込み、結局は自分が圧勝する――華乃さんのからかい常套手段だ。冷静に考えれば、華乃さんのえちえちボディ&スベスベもち肌に僕なんかが太刀打ちできるわけもないのだが、華乃さんの挑発に対して僕が冷静でいられるわけがないからな! 見てろよぉ、華乃さん! 調子こいて僕をからかえるのも今のうちだ! 今日こそは絶対勝ってやるからなぁ!!


「一太……っ……じゃあ、優しく、してね……? がっかりとか、しちゃヤダよ……? わたしも、頑張るから……!」


 そう震える声で言って、なぜか目を細め、キス顔を向けてくる華乃さん。付き合い始めてからの二週間で身についてしまった習性で、当然のようにキスをしてしまう半裸の僕。


 こ、これはまさか……そういう、ことだったのか……? 言ってみれば僕は華乃さんに体を操られてしまったようなもので。二週間の甘々デレデレ彼女っぷりも、全ては今この時のための伏線だったのだと、したら……!? 実際僕はいま、ほぼ裸同士でえちえち華乃さんと抱き合い、えちえちディープキスをすることで、まんまとぬるぬるフル勃起させられちゃってるわけだし。


 うぐぐぅ……! こんなの、からかいの隙を与えまくりじゃないか!! キスだけで我慢汁ダラダラなんて童貞丸出しっぷり、からかい華乃さんの格好の餌食だよ!!


「ん……っ、んん……っ」


 ちくしょう、華乃さんめ、いつにもまして艶めかしいえちえち吐息漏らしやがってぇ……見える、見えるぞ、この先の展開が……!


 華乃さんのからかいレパートリーの中でも屈指のえちえち度を誇る今回のこのシチュエーション……あまりにも童貞すぎる慌てふためきっぷりをからかうだけに留まらず、ついにお披露目されてしまった僕の皮余りっぷりを、あの小悪魔お目々でジーッと凝視し、あのニタニタ口角を意地悪げに上擦らせて、そして、あまりにも残酷な一言で、僕をからかってくるのだ……!!

 うぐぐぅ……! 酷いよ華乃さん、大量皮余りカリひくお粗末童貞一生シコシコ専用ちんぽだなんて!! 僕の男としてのプライドはズッタズタだよ!!


 くそぉ、華乃さんめぇ……! 僕をからかうのもいい加減にしろよ!!





「あれれ?」

「一太……どう、だった……?」


 何で僕の隣に全裸の汗だく華乃さんが? 何で僕も全裸で汗だくなんだ? 何で僕のベッドで? 何で僕はこんな心地の良い疲労感に包まれている? 華乃さんのトロンとした赤い顔と、モゾモゾと内ももを擦り合わせる仕草はなに? ていうか何であんなに気持ち良かったんだっけ? ゴミ箱のこんもりティッシュの山と、しぼんだ水風船は? あ、山は元からか。彼女来る前に処理しとけよ、僕。いつも京子が勝手に部屋の掃除とかしてくれてたからなぁ。


「わたしは……まぁ、やっぱ痛かったけど、えへへ……幸せ、だったよ……? 勇気出してよかったっ」

「ん? ん? んんん?」


 言葉通り幸せそうな顔でギュッと抱きついてくる華乃さん。自然と抱き返してしまう僕。何だこの雰囲気。まるで初体験を済ませてしばらく余韻を味わった後の高校生カップルみたいじゃないか。あ、そうだった。初体験を済ませてしばらく余韻を味わった後の高校生カップルだったんだ、今の僕と華乃さん。


 は?

 ん?

 あれ?

 え。


 何やってんだ、僕。

 華乃さんにまんまとからかわれるため、流れに身を任せているうちに、いつの間にか性欲に身を任せてしまって、気づいたら最後まで致してしまっていたぞ? 気持ち良かったぞ? えちえちHカップ堪能しちゃったぞ?


 は? 何で?


「一太……男らしくリードしてくれて、かっこよかった……っ」


 男らしくリードしちゃってたよ、僕。なにしてんだよ。

 いや、考えてみれば、別にそれ自体はよかったんだ。むしろ、華乃さんに乗せられるがままにカッコつけて、慣れた男を演じてリードしようとして――そんな童貞の見栄を見透かした華乃さんにからかわれてしまうというのは、初体験を利用した最高のからかいではないか。


 しかし、華乃さんはそうはしてくれなかった。最後まで照れ照れ生娘のまま、見栄張り童貞にリードされ尽くしてしまった。

 いやいや、そこまでだったら、まだセーフだ。華乃さんであれば、まだまだ盛り返せる。反撃できる。そのチャンスを、つまりは隙を、僕は残していた。いや、まだ、残されている!

 実際問題として華乃さんも処女だったのだから、行為の最中にからかい本番をする余裕がなかったというのも仕方ない。だが、あの華乃さんであれば、それすらも前振りにしてしまえるはずだ。それくらいの計画は立てているはずだ。


 つまりは、そう。華乃さんはセックスを前戯として使って――僕にからかい、すなわち本番セックスを喰らわせることができるのだ! 紛らわしすぎてもはや自分でも何言ってるのかわからん。


 だが、華乃さん! 今がチャンスだぞ!


 君はまず、曇った表情で大きくため息をつき、「でも、残念だなー……ほんっと、残念」と呟き、僕の心臓を跳ねさせるんだ。そこで僕は「え……え? ご、ごめん、やっぱり僕、下手、だったよね……? 痛かったよね!? 全然気持ち良くなかったよね!? ごめん、これからちゃんとできるよう頑張るから捨てないでくれ……!」と必死に縋り付きますので、さらに一言続けていただきたい。はい、華乃さん。なるほど。自分も初体験でドギマギ照れ照れしてしまったという恥ずかしさを誤魔化すような強がり小悪魔スマイルを浮かべて僕のほっぺをちょんちょんし、「あはっ……♪ ほんっと残念……だってもう、童貞イジりできなくなっちゃったもんね……♪」……ですか。くそぉ、華乃さんめぇ……! 初体験後にまでこんな可愛さ満点・破壊力抜群のからかいを披露しやがってからにぃ……! 僕が座布団になる!!


「わたしの初めて、ぜーんぶ一太に奪われちゃったね……えへへ、嬉しいなっ。……これからもよろしくね、一太っ」


 そうして華乃さんは、またもや天使のようなキス顔を浮かべるのであった。


 生まれたままの姿のその首元に、唯一の装飾品――僕がプレゼントしたネックレスの人工石が――ああ、もういいや、これ。なんかダイヤモンドを模した偽物を大事にしてくれてる華乃さんの姿が何かを暗示しているような気がしたが全然そんなことなかったぜ。そんなの全然関係なく、とにかくショックなんだぜ。体は繋がっちゃって気持ち良くて今でもフル勃起しちゃってるけど、僕と彼女は全然通じ合ってなかったんだぜ。人工石が静かに輝いてるんだぜ。


 僕の彼女――めっちゃからかう(はずの)華乃さんには――結局僕をからかうつもりなど、一向にないのであった。


 ええー……。

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