第25話 その二文字だけ漢字で書けた

「あはっ♪ ねぇ、ねぇねぇねぇ♪ ザコザコぼっち番長くーん? 無視してるつもりでちゅかー? 顔真っ赤なんですけどー? 血管ビッキビキなんですけどー? うぷぷ♪ ざぁこ♪ ざぁこ♪ なにこの首のけっかーん! 浮き出しすぎてミミズみたいなんですけどー? キモーい♪ えいっ♪ プニプニ♪ プニプニ♪ 童貞番長のおっきっき血管プニプニ♪ あはーっ♪」


 教室にて。机に突っ伏してプルプル震えるデカい図体の男と、彼をウッキウキでからかいまくるビッチギャル――僕の恋人、華乃さん。


 そんなNTR現場を、僕はすぐ近くの席から歯を食いしばって眺めることしかできないのであった。だって、豪樹へのからかいを許可したのは僕なのだから。華乃さんにガチ恋必至な他の男子をからかわれるくらいなら、決して本気にはならず無視を貫いてくれる豪樹相手の浮気の方がまだマシだからだ。言ってみれば、避妊もしなそうな他のクズ男と浮気されるくらいなら、単なる肉ディルドに成り下がってくれる鈍感男で欲求だけ解消してもらう――そんな情けない夫のようなものだ。

 まぁ、ざこざこ肉ディルドの野郎が全然無視を貫けてねーんだけど。我慢できずにまた机ガンガン叩いてるんですけど。やめろ、それ以上やるとまた壊れる。せっかく真面目に登校してんのに停学になるぞ。


 うぐぅ……! 華乃さんに童貞呼ばわりされるのは僕だけの特権だったのに……! あ、もう童貞じゃねーんだった。結局あの日以来ヤリまくりなんだった。今まで以上に華乃さんはデレデレ献身系彼女になってしまったんだった。僕にガチ惚れなんだった。くそぉ。


      *


「それで結局華乃さんと最後までセックスしちゃったわけなんだよ。とても気持ち良かった」

「バリボリ」


 恒例の通学報告会。学校までの道のりを京子と隣り合って歩く。やっぱり昔から僕のお悩み相談に乗ってくれる人といえば京子だからな!


「いまや華乃さんの方から求めてくるようになっちゃってさ。昨日、京子からの電話スルーしちゃったじゃん? 家まで来てピンポン押してもらったのもガン無視しちゃったし」

「ええ。期末の数学で分からないところがあったと言っていたじゃない? 教えてあげようかと思って。こういうのはテスト終了直後に復習することで効率良く身につけられるものなのよ? 昔から言っているでしょう」

「ごめん、あのときも華乃さんと裸で繋がってる真っ最中でさ、京子の相手をしている場合じゃなかったんだ。ものすごく気持ち良かった」

「バキッ、ザクザクッ」


 京子は今日もバリボリしていた。僕のお小遣いがブラックサンダーとコンドームに消えていく。

 ちなみに精神科の先生によると、やはり京子のバリボリは、満たされない依存心を誤魔化すための代償行動ということだった。華乃さんの説通りだった。ちなみに精神科の先生にも僕は怒られた。納得いかない。

 まぁ、でも先生が言うには、症状は今がピークで、あとは時間が解決してくれるだろうから過剰に心配しないでいいとのことだった。美人な先生だったので納得した。


「でもさ、京子。そうやって華乃さんとイチャラブエッチする度に僕は虚しくなるんだ。まぁ、めちゃくちゃ気持ち良いのだけは確かなんだけど」

「…………」

「でも、華乃さんは僕のことを一向にからかってくれなくて……僕らにとって、お互いの愛を確かめ合う行為とは『からかい』だけであったはずなのに……。セックスなんてさ、便宜上セックスと呼んではいるけど、本質的には僕らにとってセックスではないんだ。僕らにとっての本当のセックスとは、すなわち『からかい』のことだからさ。そんな『からかい』を失って、肉体だけのイチャラブセックス漬けの生活――こんなの、あまりにも空虚だとは思わないかい? 不幸なことに、僕と華乃さんの体の相性は抜群なようでセックスはとにかく気持ち良いんだけど」

「…………」


 あれ? バリボリ音が聞こえないぞ? もしかしてブラサン切れちゃったかな。補充してあげないと。


「京子は知らないだろうけど好きな人とのセックスってあまりにも気持ち良くてさ、それでも僕らの場合、心までは満たされなくて、胸にポッカリと穴が空いたようで、あ、って言っても華乃さんの胸は京子と違ってとても大きいから僕も華乃さんとのセックスが――ん? 京子?」

「ねー、一太ー、せっくすってなにー?」

「…………。……京子……?」


 スカートのポケットにブラックサンダーを詰め込んでいた、その時だった。

 まるで柑菜ちゃんか柚樹くんのような、舌っ足らずな幼女の声が聞こえてくる。僕がいま手を突っ込んでいるスカートの上方から。スカートの持ち主である女の口が位置するだろう辺りから。


「せっくす、そんなにきもちーことなの? なら、きょうこもするー。一太とせっくすするの。きょうこは一太より、9にちもおねえさんだから、きょうこが一太のこと、せっくすできもちくしてあげるね? せっくすでも、一太はきょうこに、たよってればいいんだからね?」

「きょ、京子……!」


 僕の大和撫子幼なじみは、クシャッとした笑顔を浮かべ、僕の腕にギューッと抱きついていた。まるで子どもの頃の京子の笑い方と、子どもの頃の京子の抱きつき方だった。そもそも九歳くらいから京子は僕に抱きつかなくなったし、十二歳くらいから無邪気な笑みなど滅多に浮かべなくなった。その頃にはクール美少女、橘京子が完成していたのだ。


 だが、今の京子は、まるで――


「きょ、京子。君、いま何歳だっけ……?」


 なぜか僕は、そんなことを尋ねてしまった。なぜか、おそるおそる。ある可能性が、頭の中に浮かんでしまっていたからだ。

 ま、でも。そんなことあるわけないよな!


「んー? きょうこは5さいだよー? だって、一太より9にちもおねえさんなんだもんっ」

「あのヤブ医者ぁ!! 別の代償行動出てるぞ、どうしてくれるんだ!!」

「ヤブいしゃって、なにー? もちかして、そいつが一太をイジメるの? だいじょぶ! 一太はきょうこがまもってあげるから!」

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