第4話 幼なじみさん、本領発揮

 ――余裕なさすぎてちゃんと言えなかったけど一太ほんとかっこよかった わたしから告白なんて絶対無理だもん 男らしくて頼もしくて、もっと好きになっちゃった


 自室のベッドにて。華乃さんからのメッセージを仰向けで眺め、身悶えしてしまう。さすがに恋人初日なだけあって、からかい要素も皆無なやり取り。たぶん僕今めっちゃニヤニヤしてる。


 現実なのだ、これは。華乃さんはマジで僕に恋をしていて、僕は、華乃さんの、恋人になってしまったのだ。


「…………」


 ……しかし僕の中にはどこか釈然としない気持ちもあった。


 なぜか少しだけ、物足りなさのようなものが渦巻いているのだ。この意味不明な感情は何なのか……自分の気持ちを「何となく」で済ますことなく、言語化することの重要性を僕は今日思い知ったはずだ。考えてみよう。


「……………………そうか、なるほど」


 なんていうか……いや、ホントこんなの期待すること自体意味わからんし、僕の気持ちに真っ直ぐ応えてくれた彼女に失礼ですらあるんだけど……正直、告白を受け入れてくれる時でさえ、華乃さんは僕をからかってくるものだと思っていたのだ。

 そして実際僕は、頭の片隅でそれを警戒していたし、期待していたのである。告白にオーケーを返す際、華乃さんは僕の何枚も上手を行っていて、半分は照れ隠しのため、「からかい」を織り交ぜた返事を繰り出してくると予想していた。


 僕たちがこれまで築いてきた関係はそういうものだった。「恋人同士になる」というのは僕と彼女の関係における、一つの大きなマイルストーンだ。だからこそ、僕と彼女の関係を象徴するようなシーンになると思っていたのだ。有り体に言ってしまえば、「からかい」が絡む告白シーンになる気がしていた。


「でも、まぁ……」


 言語化したおかげで判明したが、そんなこと期待していたとか頭おかしすぎる。やっぱすげーわ、言語化さん。僕がどれだけ独りよがりで自分勝手なのかがよくわかった。そんな感情は、キモくて意味不明な理想像を、華乃さんに押し付けているだけに過ぎない。


 僕と彼女が生きるこの世界は、人生は、漫画でもラノベでもないのだ。そんな「よくできた」告白シーンなんてそうそう生まれないし、生まれる必要がないし、別に生まれてほしくもない。素直にストレートに「わたしも好きです。よろしくお願いします」と答えてもらえる以上の結末なんてないのだ。

 どう客観的に見ても、僕の告白は最高の結果に終わっている。


 つまり……素直に浮かれまくっていいのだ!


「や……やったぜ! え、え、え……マジかよ……マジだよ! 僕、華乃さんと付き合えちゃったよ! きゃっほい!」


      *


「一太、それ、騙されているわよ」

「え」


 僕の幼なじみは、何のためらいもなくそう言った。


 翌朝。いつも通り、うちの玄関で待ち合わせ、学校までの道のりを並んで歩く僕と京子。

 僕はあえて自分から話を切り出さず、京子から「どうしたの、そんなにウキウキとして。どうせ昨日は結局、白石さんに何も言えなかったのでしょう? それなのに、何で家族旅行の日の朝みたいな顔しているの?」と聞かれるのを待った。ここで修学旅行や遠足といった学校行事ワードを引き出せないのが僕である。だってあんま楽しくないからな、学校行事。うちと京子んちで行く那須旅行の方が好きだからな。

 だが、きっとこれからの学校行事は、それ以上の楽しみになってしまうのだろう。

 その理由を、僕は嬉々として幼なじみに説明したのだ。「え、聞いちゃう、それ? いやぁ、あまり自慢する気はなかったんだけどね、京子が気になるっていうなら、うん。聞いてくれよ。実は昨日、」と、ハイテンションで報告させてもらったのだ。


 僕と華乃さんが、付き合い始めたということを!


 だというのに。


「罰ゲームというやつよ。ついにやったわね、あの女。今までの『からかい』だとかいう加害行為も全てこのための前振りだったのよ。下準備だったの。私は初めから、この展開を警戒していたわけ」

「え。え」


 だというのに、この清楚な黒髪ロング幼なじみさんは――


「本当は好きでもないのに付き合っているフリをして、浮かれるあなたを馬鹿にして楽しんでいるの。バックに同類の男共でもいるんじゃないかしら。一緒になって、あなたのことをせせら笑っているのよ。まぁ、あなたの方から告白したというパターンは珍しいけれど、それもこれまでの『からかい』とやらの積み重ねで誘導したのでしょう。そっちの方があなたに信じ込ませやすいものね。本当、抜け目のない女だわ」

「え。え。え」


 ――淡々とした口調で、僕の脳を破壊しようとしてくるのであった。ええー……。


「ちょ、ちょっと待ってよ、京子! 何言ってるんだよ、さっきから!」

「待たないわよ。放っておけないもの。一秒でも早く気付いてくれないと、どんどん傷が深くなってしまうもの。でも、こうやっていち早く報告してくれたのは良かったわ。これからも、生活の中で何か変わったことがあったら、まずは私に報告することね」

「いや、いやいやいや! 勝手に話を進めないでくれよ! そもそも前提として……はぁ!? 華乃さんが、僕を騙してるだって!? いやいやいや! ないから、そんなわけ!」


 身振り手振りを交え、とにかく必死で否定する。いや、だって。マジでありえねーし。京子の奴、あまりにもおかしなことをほざいていやがる!


 あの華乃さんが……ギャルギャルしくて、とても可愛くて、陰キャの僕なんかをからかって楽しんでくれてる華乃さんが、恋人のフリで僕を馬鹿にしているなんて……いや何かそう言っちゃうとめちゃくちゃありそうっていうか、実際に似たようなシチュエーションが世の中にはたくさん巻き起こっていそうだけども! 確かに客観的に見たらそう思われてしまうのかもしれないけども!


 華乃さんに限っては、そんなことするわけないんだ!


「……はぁ……」


 そんな風に取り乱す僕を横目で一瞥し、京子は呆れたようにため息をつく。


「いや、マジなんだって、京子! 何度も言ってきたけど、言い足りなかった! 僕が思っていた以上に、君は華乃さんのことを誤解している! とにかく悪い方向に!」

「はぁ……」

「だから!」

「いえ、違うの、安心して。このため息は、呆れは、あなたに対してのものじゃないから。こんなに純粋で優しい一太を、幼稚な真似で傷つけようとする、あの女に対してよ」

「だから!」

「分かってる。ショックよね。でも、あなたが恥ずかしがる必要も、落ち込む意味もないの。あなたは何も悪くないのだから」

「だからぁ……!」


 出てしまった。僕の完ぺき幼なじみの、唯一の欠点。いや、たいていの場合は長所として働いてくれるんだけど、僕のことになった途端、暴走しがちな性質。人の話を聞かない、自分の意見を変えない。要するに、頑固。それが橘京子という女の子であった。


「ただ、一つの社会勉強にはなったわよね。純粋なあなたを騙そうとする人間が、残念ながら世間にはたくさんいるの」


 京子は悪びれるどころか、どこか得意げに続ける。


「心配しないで。昔から言っている通り、あなたは変わらなくていいから。誰かの悪意のせいで、あなたの良いところを消してしまうなんて、あってはならない。許さない。一太はただただ、私を頼ってくれていればいいのよ。これまでと同じようにね。これからもずっと、ね」

「心配すぎる」

「大丈夫よ。私に任せて。スマホ借りるわね」

「は?」


 京子は視線を前に向けたまま、僕のポケットからスマホをスッと引き抜き、自身の眼前に持ってくるまでの二秒間で四桁のパスワードを打ち終え、六秒ほど何らかの操作をしたかと思えばそのままスマホを耳に当て、三秒ほど待った後に、


「一太の幼なじみの橘京子です」

「は? え、京子、何をして、」

「ええ、あなたのクラスメイトでもあるわね。言わなければいけないことがあるから、十五分後に体育館裏に来なさい。仲間がいるなら連れてきていいわよ。いえ、連れてきなさい、全員」


 問題発見から行動までが異常に早い。それも僕の幼なじみさんの性質の一つであった。頼もしい。怖い。


「そういうことだから。はい、スマホありがとう。安心して、スタンガンなら合法ギリギリのものに買い換えておいたから」


 安心できない。


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