第9話『弟の君へ』
七不思議に遭うため図書室に音楽室、体育館。果ては女子トイレにも入った零八だが、その部屋に入ることは彼にとって特別な意味を持つ。
「奈々、入るよー」
かつて迷子になった時に初恋の人と一緒にいた教室。そこが奈々のテリトリーであることを考えると、好きな人の部屋に入るのとほぼ同じ感覚である。
「いいよ。いらっしゃい」
奈々はいつものように椅子に座り、零八を見つめている。零八もまた彼女の前に座り、奈々が話し始めるのを待った。流れる沈黙、机上のゼラニウム。
「みんなと仲良くやれてるみたいだね」
「まぁ、ね」
「私以上に好きな子はできた?」
「ううん」
「そっか。いつかきっとみんなのことを好きになるよ」
「みんな好きになったら七股になる」
「たしかに」
零八の冗談に奈々はおかしそうに笑う。
「六股までなら許してあげる」
「魅力的な許しだけど、僕は一人を選びたいな」
「じゃあ、今のところは誰にしたい?」
「奈々」
「即答は照れるな……」
「分かってたクセに」
「そうだね〜。でも、それだけはダメなんだ」
「何度も聞いてるよ」
「零八が分からず屋だから何度も言ってるんだよ」
「僕は曲げる気ないよ」
「はぁ……まあ今はいいよ。今日の本題はそれじゃない」
そう言って奈々は『本題』を話し始めた。
「零八がかもめに、こてんぱんに負けたのは知ってる。零八が賭けに勝つのは嫌だけど、かもめが零八と友達になれないのはもっと嫌なんだ」
だからね、と奈々は続ける。
「私の
かもめは問答無用で攻撃してきたし、バスケが上手いからといってボールの弾幕を捌けるとは思えないが、零八は好きな人の提案を一蹴するようなタイプではなかった。
「分かった。会いに行ってみるよ。その人はどこに?」
「今は自分の教室で待つように言ってあるの。一年六組に行けば会えるよ」
「ありがとう、行ってくる!」
「うん、いってらっしゃい。でも零八、応援してるわけじゃないから」
「分かってるよツンデレめ」
「分かってないじゃん!」
奈々の文句を無視して、零八は件の教室に直行する。
一分で辿り着いたそこは放課後なのにまだ電気がついていた。
「お邪魔しまーす」
奈々の言った通り、男子生徒がスマホをいじって待っていた。
「あ、お前が七海の言ってた友達か」
鍛えられ、いかにもスポーツをやってそうな少年はその背の高さを見せつけるように立ち上がった。
「君が奈々の言ってたバスケが好きな友達だね。よろしく」
「よろしく……で、何の用だ?」
そこまで説明していないのか、と思いつつ放任主義であったことを思い出した。仕方がないのでなんとか説得を試みた。
「単刀直入に言う。僕と一緒に【跳ねるバスケットボール】と友達になってくれないかな?」
「つまりそれは、『ボールは友達怖くない』理論で俺に練習に付き合え、ってことか?」
「いや、そうじゃない……けど結局そうなりそうっていうか……とにかく、今から体育館に行こう!」
焦っている零八には強引な誘いをしてしまった自覚がなかった。
「体育館……今はバレーとバドが使ってるはずだ。バスケをするスペースはない。真面目にスポーツをするやつを冷やかしに行くならゴメンだな」
「いや、そうじゃなくて……」
「見てられませんね……」
背後から聞こえた『厠渡り』の声に少し遅れて少量の水が後頭部にかかった。
「頭冷やしてください。そして選手交代です。ヒートアップした頭でベンチでも温めててくださいよ」
黒髪のボブカットに白シャツ赤スカート。右手に水鉄砲を持った少女がそこにいた。
「花子さん!」
「はい、花子です。この学校の七不思議その1【トイレの花子さん】をしています。よろしくお願いしますね」
「七不思議──【トイレの花子さん】こんなにステレオタイプな見た目なんだな」
「
花子は頬を膨らませ、隼と呼ばれた少年をジト目で睨んだ。隼と呼ばれた少年は謝りつつ頷いた。
「さて、私は奈々さんから聞いてお二人のことを知っていますが、あなたたちはお互いの名前すら知りませんよね? そんな状態では話も先に進みません。まずは自己紹介をどうぞ」
花子という第三者の介入のお陰でさっきまでよりもスムーズに話が進む。
彼は
「それからわたしからは、七不思議について話しますね。零八さんは知っていることですが、隼さんも知っておくべきですから」
そうして花子は七不思議について、そして隼が何に巻き込まれたのかを話した。
「それで零八さんの話に戻りますけど、七不思議その4に【跳ねるバスケットボール】という方がいて、彼は彼女と友達なりたいと思っているのですが、相手にされないのです」
「タイプじゃないんだとさ。ボールを投げつけられて追い払われるんだ」
「それで、なんで俺なんだ? ボールを捌くだけなら未経験でもいいだろ」
「わかりません」
花子はきっぱりと言った。
「奈々さんが
花子の平常運転にふたりは声も出なかった。
二時間ほどかけて何戦もやった麻雀は花子の勝ち逃げで終わった。その後体育館部活が完全撤退したのを見計らってその重い扉を開けたが、そこの主人はため息で迎えてくれた。
「もう呆れて声も出ない。三度目の正直なんてものバカ真面目に信じてるの? もう一度言おうか? あんたと結婚する気はない」
かもめはボールをいつでも飛ばせるよう構えながら言った。
「三顧の礼って言うでしょ? こうしたら話聞いてもらえるかなって思って」
零八はさも当然のように答える。彼女と仲良くするのに百回の訪問が必要ならそうするつもりさえあった。
「メンバーも前と違うしさ。花子まで巻き込んでるし。あとひとりは──隼?」
隼を認識した途端かもめの目つきが変わった。
「隼のこと知ってるんだ?」
零八は驚いて声が漏れてしまう。
「その質問は二度とするな。花子、正直に答えてくれ。その男子生徒は誰だ?」
零八の質問を一蹴し、かもめは質問を返した。一方の花子はそれに真面目に答える。
「えっとですねぇ。天羽隼さん、一年六組所属の新入生で、最近奈々さんに呪われた方です。今回は零八さんの協力者として来ていただきました」
「くっだらない、くだらない。奈々のヤツやりやがった。あのバカついに頭おかしくなったのかよ。あーだる」
宙に浮いていたボールが一斉に着地する。何度か跳ねたあと転がって、しばらくして止まった。
「零八、だったっけ? アンタずっと『自分が本当にバスケが下手なのか証明するチャンスが欲しい』って言ってたよね? 今からアタシが隼に質問する。その回答次第では応じてあげてもいい」
隼以外の三人は揃って彼を見た。
「なんだよ……」
「アンタはなんでこの高校に来たの?」
「叶えたい夢があったから」
「その夢って?」
「男女バスケ部で全国大会二冠」
「くだらない」
「……」
「ちょっとかもめさん! 『くだらない』は酷いですよ」
夢を否定する発言に隼は黙ってしまう。それを見かねた花子が反論すると、一番反応したのは隼だった。
「かもめ……?」
そういえばかもめの名前を隼に伝えてなかったな、と零八は反省した。それと同時に、そんなに気になる名前ではないだろうとも思った。
「苗字は?」
しかし隼は更に踏み込んで訊いてきた。花子はそのままの流れと親切心で答える。
「
その回答に落ち着きを取り戻した隼だったが、かもめが鋭い言葉でそれを許さなかった。
「死んで、七不思議になってからはそうだけど、あたしの旧姓──生前の苗字は、天羽だよ」
「あもう……姉貴、なのか?」
「久しぶり。会わないうちに大きくなったね。二人の夢を一人になってからも追いかけてるとは思わなかったけど、それ以外はずいぶん変わって見える」
「死んだはずなのに……なんで」
「奈々とか花子に聞いてないの? あたしは死んで、奈々に見つけてもらったの。七不思議は死者の魂を合法的に現世に止める方法で、死んでもなく生きてもないような状況のままここにいる」
「……」
「消化できないか……」
黙って下を向く隼に呟くようにかもめは言う。
「あぁそれと零八。さっきの話だけど、勝負してあげる。普通なら1on1にするところだけど、隼の分も一緒にやっちゃおう。形式は3×3。十分間一本勝負。メンバーはあんたと隼を入れてくれれば、あと一人は自由。どう?」
「いいね、ただ……」
「わかってる。今日の隼はスポーツ無理でしょ。日付は追って連絡する。そんなことより、あんた家まで付き合ってあげて。引っ越してないなら家分かるから」
零八はかもめに頷いて、詳しい住所を聞いた。二人の七不思議に別れを告げてから、自分より体格の大きい隼の手を引いてゆっくりと帰路に着いた。
次の更新予定
【カクコン11】初恋のひとを生き返らせるために七不思議全員と友達になる 加藤那由多 @Tanakayuuto
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