第5話『全智の望みを知っている』

 翌日の放課後、零八は図書室に来ていた。前回花子に薦めてもらった二人のうち、一度話している尊乃なら話しやすいと思ったのと、花子とのあれこれについて共有しておきたいと思ったからだ。

「無事に花子と話せたみたいだね」

 『closed』と掛かっている扉を開けて図書室に入ったら、普通に椅子に座って本を読んでいた。花子の複雑な儀式を経験した後だと、どうも不用心に見える。

「不用心に思えるかもしれないが、ボクは七不思議はゼラニウムを食べた人にしか見えないからね。問題ないさ。それにボクが動き出すのは図書室が閉まってから、つまり多くの生徒が帰った後だ。その時間まで残ったうえcloseを無視して入ってくる人なんて七不思議関係者しかいないだろ?」

「え、なんで思ったことわかるの⁉︎」

 零八の純粋な疑問に、尊乃は自慢げに言う。

「ボクの全智の能力だよ。誰かが知っていることを知ることができる。キミが思ったことをキミ自身が知っているから、読心のようなこともできる。まぁそんなことはどうでもいいさ。花子の話をしよう」

「うん」

 全智の力を持っているのだから、あえて昨日何があったか語る必要はないだろう。

「確かにそうだ。まずは一人おめでとう。彼女はお人好しだから、ちゃんと約束通り遊んでいれば呪いを解く約束も守ってくれるだろうさ」

「そっか。それはよかった。それで、尊乃も何か約束とか条件とかある? 呪いを解くのに」

 零八のその質問に、尊乃は少し悩む素振りを見せる。

「別にない、ボクは奈々も奈々を生き返らせたいからね──というつもりだったが、事情が変わった」

 事情? という零八の相槌を聞いてから、尊乃は続けた。

「ボクは【徘徊する二宮金次郎像】だから本体は二宮金次郎像──というか日中は像として校庭に立っていて、生徒が帰った後に像の中から現れて日が昇ると同時に像に帰るという生活をしてるのだけどね。その像を撤去しようという話が生徒会の中で出ているんだ。このままではボクは学園から追放される。そうなった七不思議がどういう結末を迎えるかボクも知らないんだ。何事もなく超パワーで戻ってこれるかもしれないし、校外に出た時点で永久消滅するかもしれない。少なくとも撤去されるのはリスクだ。ということで、生徒会の二宮金次郎像撤去の計画を白紙にしてきてくれないかい? キミが生徒会と仲がいいのは知っている。できるだろ?」

「まぁ、確かに」

 零八は友月のことを考えながら気軽に頷いた。

「それと、一応忠告だ。間違ってもボクを生き返らせようとは思うなよ」

 もちろんそのつもりだが、尊乃があえてそう言うのが気になった。零八のその思考を読み取って、尊乃は解説を始める。

「ボクは生前から本の虫でね。図書室の七不思議という状況は天職ともいえる。だから間違ってもボクが生き返るなんてことがあってほしくない。七不思議としている間は寿命が止まる。そうしたら本を読み放題、知識を蓄え放題だからね」

 つまり尊乃は七不思議でいる自分が気に入っているのだろう。

「今まではボクが選ばれないように、一切会わないこともあったけど、キミは最初から奈々好きをアピールしてくれたからね、安心して話せたよ」

 尊乃の意思はよく伝わった。でも、以前の奈々との会話を思い出して、矛盾しているところを見つけた。

「でも奈々にはもう十分生きたって……」

 友佳が割って入る前にふたりが口論していた時である。本を読み続けるために生き返りたくないなら、自我を失うのも嫌なはずだ。

「よく覚えているね。あれは嘘だよ。奈々はあれくらい言わないと説得できないと思ってね。まぁ結局失敗したわけだけど。あ、でも奈々にもう役目を降りてほしいっていうのは本当さ。だから本心としては、奈々が【名無しのクラスメート】になった時と同じことをしたいのさ」

「奈々が……何があったの?」

 奈々のことをもっとよく知れるかもしれないと期待して零八は訊いた。

「まぁ全部ボクが悪くて話すのは気が進まないから、ざっと話すよ。ボクと奈々、友佳が同い年の友達だったことは知ってるかい?」

 直接聞いたことはなかったけど、友佳の発言でなんとなく察してはいた。

「まず友佳が当時の【名無しのクラスメート】に呪われた。今ほど七不思議は噂にならなかったから、ボクと奈々は手探りでその情報を探ったんだ。その結果、ボクは図書室で【禁書】に手を出して死んだ。そして七不思議となり、全智の力をもって友佳と奈々に真実を教えた。その後の状況としては今のキミと同じさ。友佳もキミみたいに【名無しのクラスメート】を蘇生対象として選んだ。で、今回の奈々と同じ問題が起こったから、友佳越しにボクから事情を聞いていた奈々が、七不思議になった友達ボクの自我を失わせないために【名無しのクラスメート】となった」

 きっと行間にたくさんの苦悩があっただろうに、尊乃はそれを『ざっと』で省略して語った。

「つまり【名無しのクラスメート】が欠番になると他の七不思議はバケモノになるけど、代替わり──つまり辞めると同時に別の誰かがその役目を引き継げば問題ないということさ」

 奈々が辞めた後に【名無しのクラスメート】になってくれる人を探す。それが尊乃の言う『奈々が【名無しのクラスメート】になった時と同じことを』なんだろう。

「奈々は自己犠牲を好むところがあるからね。それは今回も同じで、新しい【名無しのクラスメートひがいしゃ】ができるくらいなら続投するとか言いそうだよ。ま、そこを説得するのもキミに任せた」

「任せたって……」

「奈々が自分の重荷を任せてもいいと思える相手を見つけてほしい。七不思議に協力的で、七不思議のために死ぬことさえいとわない、そんな人。そんな人がいれば奈々を動かす交渉材料になるはずさ。できるかい?」

「……やってみる」

「いい意気込みだ。よし、ボクが話したかったことは全部話せた。像の撤去阻止、次の【クラスメート】探し。どちらも頼んだよ」

「わかった」

 後者に関してはすぐに適任が思いつかないが、前者は昨日の花子の件の報告も兼ねて、このあと彼女に連絡してみようと思う。

 そうして尊乃と別れ、すぐに自宅に帰った。友月に電話していいかメッセージを送り、返事を待つ前に向こうからかかってきた。零八は昨日と今日で得た情報を詳細に伝える。

「────ということで【トイレの花子さん】は遊びやゲームが好きなだけの女の子で、ネットにあるような暴力的な『遊び』を強要してくる感じではありませんでした」

『ありがとう、生徒会便りには安全な七不思議であることを載せておくわね』

「それと【徘徊する二宮金次郎像】は本を読むのが好きな七不思議で、なんでも知ってるうえに必要なら教えてくれるいい人でしたよ」

『たしかに無害そうだけど「なんでも教えてくれる」なんて触れ込んだら生徒が図書室に押し寄せてしまうでしょうから、そこは伏せて公表するわ』

「それと【徘徊する二宮金次郎像】関係でもうひとつ」

 零八は二宮金次郎像撤去に関する話を生徒会長に話した。

『それも全智の七不思議が教えてくれたのかしら?』

「はい」

『たしかに、撤去の案があるのは事実よ。でもそれを進めているのは私ではなくて副会長個人なの。槌見つちみ鈴李すずりって知ってる?』

「いえ……」

『私からも提言しておくけれど、彼女がそれで止まるとは思えない。零八君から話してくれる? 一般生徒の声ってことなら彼女も無下にはしないはず』

「わかりました。説得してみます」

『あ、それと来週は誰を調査するかは決まってる?』

「いえ……そこまで考えが回ってませんでした」

『そう言うと思って、噂になってる七不思議の資料をまとめて送っておいたわ。参考にしてね』

「ありがとうございます」

『いいのよ。お互い様だから。それじゃあ、いい知らせを期待しているわね』

 そうして通話を終え、友月の言っていたPDFファイルに目を通した。

【音楽室の七不思議:歌うベートーヴェン】

 そういえば、花子が尊乃と一緒に『美琴』の名前を挙げていたっけ。

 音楽室にいるという四人目の七不思議と月曜日に話してみようと思い、零八は床に着いた。

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