第2話『初恋の叶え方を知っている』

 尊乃との約束通り、翌日の放課後の零八は件の教室の前にいた。

 尊乃はもう来てくれているだろうか。話をする前に追い出されたりしないだろうか。

 そんな不安があるものの、躊躇いは何も生まないと思い切って扉を開ける。

「こんにちは零八。尊乃から聞いたよ〜。ずいぶん仲良くなってくれたんだって? じゃあ尊乃と友達になってくれるってことでオーケーかな?」

 明るく話しながらも不機嫌そうな目で奈々は言った。その横では尊乃が居心地が悪そうに下を向いている。

「いや、僕はやっぱり奈々が……」

 零八は結論を急ぐ奈々を再び説得しようとする。しかし奈々はそんなことなどお構いなしに追撃を加えた。

「ねぇ尊乃。 

 尊乃は顔を上げ、昨日とは別人のようなことを言う。しかしその顔は助けを求めるようだった。

「ボ、ボクはキミには協力できない。むしろどうだい? ボクを選ぶというのは。歳は奈々と同じだし、見た目だって悪くないと思うんだ」

 催眠術で望まぬことを言っているのは明らかだった。

「悪いけど、僕は尊乃さんじゃなくて奈々が好きなんだ。何をされても、何を言われても変わらないよ」

「面倒な恋心だね。古い恋を引きずるのもいいけどさ、新しい恋も悪くないと思うよ。だからこそ二重の意味で、

 催眠術の詠唱が始まったことで、零八は命令だけでも聞かないようにしようと思い耳を塞ぐ。しかし奈々の口は命令を紡ぐことはなかった。聞こえないからではなく何も言っていない。

 その理由が気になった零八は振り返り、扉が開いていることに気がついた。

「奈々。『友達百人』ってとっても素敵な夢だと思ってたのよ、わたし。でも奈々の本当の夢はそんな強制的な友情だったのね。友達が欲しいのも他の子の友達を増やしたいのもわかるけど、今は自重しなさい。理事長としてじゃなく昔の友達としてお願いよ」

 そこにいたのは友佳だった。どうやらこうなることを見越して助けに来てくれたらしい。

「でも、友佳だってわかってるはず。私が生き返ったら他の七不思議がどうなるのか」

 奈々は昨日と同じ理論で友佳を説得しようとすとる。

「なっちゃんが管理して安定させている叉神の七不思議が暴走する。知ってるよ」

 それは順当に他者ともだちのための理由。奈々の意志こそ反映されていない、寂しい言い訳。友達を大切に思う奈々だからこそ、こうやって縛られているのだと感じた。

「ボクは構わないけどね。自我や意志がなくなってバケモノになっても、奈々がその分幸せになれるなら。それに、ボクはもう十分生きたよ」

「私は、友達を見捨てて自分だけ生き返ることを幸せだなんて思えない」

「ふたりの言い分はわかった。でもふたりのことだからどっちがどれだけ言ってもどっちも折れないでしょ? だから賭けをしようよ」

 一歩も譲らないふたりに友佳が提案する。流れがスムーズなところを見るに、元々計画していたようだ。

「なっちゃんがれーくんに課題を出す。れーくんがそれをこなせたられーくんはなっちゃんに一つお願いをする。課題とお願いが釣り合ってるかはわたしがジャッジするね」

「課題……別にそれでいいよ」

「うん。僕も、奈々が応じてくれるなら」

 教師が生徒に賭けを持ちかけるのはどうかとも思うが、零八も尊乃もそして奈々もそれに賛同した。

「そしたらなっちゃん、れーくんに何をしてもらう?」

「零八には七不思議全員と友達になってもらう。あと五輪のゼラニウムを食べて、六つの呪いを受けてもらう。それで全員と仲良くして六つの呪いを解くこと、それが課題」

「なっちゃん、そんなことできるの?」

 どうやら理事長でも知らなかったらしい。それくらい普通じゃないことを奈々は零八にさせようとしている。

「昔間違えて二つ食べちゃった子がいてね。その時にできることは確認済み。ただ、生き返らせることができるのは一人だけだった」

「わかった、一旦その課題で受け付けるね。ただ結構難しいかられーくんもかなり難しいお願いしていいよ」

「僕とデートしてほしい。それとその場で、また奈々を生き返らせていいか聞かせて」

 零八のお願いに納得した友佳は嬉しそうに口の端を吊り上げながらそれを受け付けた。

「よし、そのお願いで吊り合ってるかな。じゃあれーくん、これ食べて」

 友佳はゼラニウムの花弁をいくつかむしると、それを手のひらに乗せて零八に差し出した。

 零八はそれに疑問を抱き友佳の顔を見たが、彼女はイタズラっぽく笑っていたからそれを信頼して全て飲み込む。こうして新たに六つの呪いを受け入れた。

「れーくんは頑張って課題をクリアしてね、そしたらなっちゃんはお願いをちゃんと叶えること。よし、今日は解散! れーくんは暗くなる前に帰りなよ」

「なーんだ、結局友佳は零八の味方なんじゃない」

「うん、そうだよ。でもそれはなっちゃんのためだと思ってるから」

 そう言い残して友佳は教室を出ていった。

「零八。 

 次の瞬間、油断していた零八に奈々から命令が下される。

 しかし何も起きなかった。確かに催眠にかかった感覚はあるが、なぜか行動や言葉が強制されてはいない。

「実行不可能なことは強制できない。キミの能力の欠陥部分、自覚してるだろ?」

 疑問を抱きながら手を握り開きしていると、尊乃が解説してくれた。

「友佳のイタズラのお陰で奈々の計画は残念ながら失敗したよ。自分を除く六人分の呪いを彼に与えて、その全部を解いた後で約束のデートをしても、呪いがもうないから自分は生き返れないってするつもりだったんだろ?」

「……ふん」

「七つの呪いを抱えた彼は、キミ以外の六人が解いても残った呪いで死んでしまう。これでキミには彼と仲良くなる理由ができたわけだ。友達を大切にするキミにはその命を蔑ろにはできないだろ? まぁ生き返らせられるのが一人だけなら、呪いを解くだけ解いて終わりでも構わないはずだけど──なんでそんなに焦ってるんだい? まさか、ちゃんと関わることになったら好きになってしまいそうで怖い、とかかい?」

 尊乃の煽りに奈々は顔を真っ赤にして黙る。

「図星だね。なんやかんやいいコンビじゃないか。ボクは応援してるさ。そのためにもボクと仲良くしてくれよ」

 そう言って零八にウィンクすると、尊乃は部屋から出る。しかし扉を閉める前に立ち止まり、零八にアドバイスをした。

「あぁそうだ。七不思議六人の誰から話そうか迷ったら【トイレの花子さん】を勧めるよ。ボクは思い出した時に来てくれれば構わないからさ」

 そう言い残して尊乃は本当にいなくなった。

「奈々。【トイレの花子さん】って?」

「教えない。零八には失敗してほしいと思ってるんだから、協力なんてするもんか!」

「でも教えてくれなきゃ、花子さんと友達になれないよ?」

「ぐぬぬ、尊乃と友佳のせいで私の扱いが上手くなりやがって。はぁ……【トイレの花子さん】は旧校舎三階の女子トイレに棲んでる遊び好きの女の子だよ。今日はもう遅いし、明日遭いにいきな。それで友達になってあげてね。それだけ!」

 そう叫んだ奈々は人見知りの子供のように逃げ出した。残ったのは零八と机の上のゼラニウムだけ。今日やるべきことは終えた零八は時計を見て最終下校時刻が近づいているのを確認すると、急いで教室から出た。そこでしばらく関わることになる少女に遭遇した。

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