【カクコン11】初恋のひとを生き返らせるために七不思議全員と友達になる
加藤那由多
第1話『七不思議の君へ』
人混みに揉まれてあたふたしていた零八を空き教室で保護してくれたお姉さんがいた。
彼女はその高校の生徒で、零八のキッズケータイを使って母を呼び、来るまでの間話し相手になってくれた。
名前を聞くことはなく顔も
その想いは四年経った今も色褪せることなく、零八が
といってもそれだけではない。彼女との会話の中で一際印象に残っている入学の誘いがあったことも理由の一つだ。
「いつか、大きくなったらこの学校に入って、私や私の友達と、友達になってね」
もちろん零八は彼女に会えるという淡い期待を抱いていたわけではない。四年も経っているのだから彼女や彼女の友達は既に学園を去っているだろう。とはいえ、初恋の人が過ごした場所で同じように生活してみたいと、弁明の余地もなくストーカー紛いな思いがあった。
しかしそんな不純な理由でも高倍率の進学校に入学を果たしたのは紛れもない事実。そんな零八に誤算があったとすれば、初恋のその人が未だ学校にいたことだ。
入学式で先生や生徒会長の話を聞き、教科書配布とガイダンス、レクリエーションを経て待ちに待った放課後がやってきた。
初日は午前で学校は終わりだ。昼食は家で食べる予定だったのでお腹が空いているが零八にはまだやるべきことがあった。
「たしか、この辺りだった気がする……いやでも四年も前だからな」
記憶を辿りながら廊下を徘徊し、かつて連れ込まれた空き教室を探した。と言っても学校の扉なんてどれも同じだから校舎の位置でなんとなく──つまり勘だ。
しかし何故か無性に気になる扉が一つあった。勘というより第六感のようなものがここだと告げている。間違っていてもペナルティがあるわけではない。やらない後悔よりやって後悔と、零八はそっとその扉を開けた。
中には机が一つとそれを挟んで向かい合う椅子が二つあって、片方の椅子には少女が座っていた。零八が来るのを予知していたようにこちらを向いている。
「どうしたの? 入りなよ。ちょうど話し相手が欲しかったんだ」
そうして少女はもうひとつの椅子に座るよう促す。しかし零八は動けない。なぜなら──
「なんでまだこの学校に……」
その少女はかつて零八を助けたお姉さんその人だったのだから。
「へぇ、覚えててくれたんだ。久しぶりだね、零八。零八の疑問にはちゃんと答えるから、とりあえず座って?」
そう言われては逆らえず、零八は彼女の向かいに座る。間には机と、その上の鉢植え。
「さて、何から話そうかな。こんな風にお話しするのはあの日以来で、なんか緊張するね。あの時は君をなだめるために私がたくさん喋ったんだっけ」
「……」
「ごめんごめん。ちゃんと答えるよ。なんでまだこの学校に、だったよね。私は
「……」
「嘘じゃないよ。だからそんな目で見ないで。あの日から零八とは友達になれると思ってたから、零八に疑われるのはちょっと傷つく」
「ごめんなさい。でも──」
信じられなかった。まだ「妹でした」とか言われたほうが信じられる。初恋の人は既に死んでいて、七不思議としてあの日のままの姿で目の前に座っているなんて、普通ではありえない。
「まぁそうだよね。しょうがない。零八には私の七不思議らしさを見せたほうがいいか」
そう言って奈々は机の上の鉢植えを指差した。
「この花はゼラニウムって言ってね、私の一番好きな花なの。これを一輪食べてほしい」
「え?」
零八は戸惑い固まってしまう。初恋のひとに対するイメージが崩れていく。それを当然の反応と見た奈々は続いて言葉を紡ぐ。
「私たち、友達だよね? 食べて?」
その言葉には脳に息を吹きかけるような中毒性があった。
零八の手が勝手にゼラニウムに伸びる。友達の頼みは断るわけにはいかない。当然食べるに決まっている。
そうして綺麗に咲くゼラニウムの花弁をむしって飲み込んだ。
「はい、これで零八は呪われたよ。ようこそ、私たち七不思議の世界へ」
花を食べたことが合図なのか、彼女の背後に今まで見えなかった六つの人影が見え始めた。
「卒業までに呪いを解けなければ零八は死ぬ。呪いを解く方法はひとつ。この中からひとり選んで友達になってほしい」
そう言って奈々は人影を順に指差した。
左からショートボブに白いシャツ、赤いスカートの女の子。
「この子は【トイレの花子さん】
本を読むのをやめない少女。
「彼女は【徘徊する二宮金次郎像】
上品な所作の少女。
「この子は【放課後のピアニスト】
ユニフォーム姿のポニーテールガール。
「この子は【跳ねるバスケットボール】
鏡。
「【大鏡越しのドッペルゲンガー】
スクール水着に身を包み、背中から腕を六本生やした女性。
「この子は【プールから這い出る手】
奈々は後ろの少女たちを順に紹介すると、話を振り返るように言った。
「零八はこの六人の中からひとり選んで友達になって。その子は零八の呪いを解いてくれる。そうしたらそのボーナスとして私がその子を再び人間として生き返らせる。これはそういう
「呪いって……」
「今までの経験で信じてもらえると思ったんだけどなぁ」
昔の姿のままの奈々に、意思を捻じ曲げる催眠術。それから突然現れた人影。確かに非現実的なことが多くて疑い続けるのも難しい。
「信じるとしても、色々あって整理ができてなくて」
「シンプルに考えてくれればいいよ。死にたくなければこの中のひとりと仲良くなること。ついでにその相手を生き返らせられる。さ、誰にする?」
零八は今一度七不思議たちを見渡した。
そして、奈々に視線を戻した。
「七海さん──」
「友達なんだから、ファーストネーム呼び捨てにして?」
「七──」
「なに?」
「奈々は選んじゃ駄目なの?」
「ダメ」
奈々ははっきりそう言った。拒絶するように、当然のことのように。
「なんで?」
「私が七不思議の管理者だから。七不思議その7【名無しのクラスメート】はこの学校の七不思議を管理しているんだ。他所の七不思議と違って叉神の七不思議が自我を保ててるのは私の力。つまり、私が役目を放り出して生き返ったら、残ったみんなは無意識に人を襲うバケモノになる。だから私は七不思議を辞めない。私を選ばないでね」
奈々は零八を納得させようとはっきりと説明をした。しかしそこにはふたつ誤算があった。
ひとつは真実を話しすぎたこと。あくまで拒否するのは奈々の感情論であり、奈々を生き返らせること自体は可能であると語ってしまった。
もうひとつは零八の初恋がこの程度の説得ではなくならないほど大きなものだったこと。
「奈々の気持ちはわかったけど、僕はやっぱり君を選びたい」
「……」
「あのー?」
「それで、誰にする? 花子ちゃんとか、水仙とか、決められないならまず一人おすすめするよ? 絶対にその子を選ばなきゃいけないってわけじゃないし──あ、尊乃とかどう?」
零八の発言を無かったことにして早口で話す奈々。でも彼は止まらない。
「奈々がいい」
「ダメ。尊乃はね──」
「奈々がいい。初恋だから、好きだから、生き返らせるなら奈々がいい」
「私は七不思議を辞めるわけにはいかないの。わかってほしい」
零八のわがままに奈々は圧をかけてくる。絶対に認めないという意思を瞳から感じる。
「でも……」
「私たち、友達だよね?」
埒があかないと思った奈々はゼラニウムを食べさせるのにも使った催眠術を使うことにした。
「奈々、やめなよ」
しかし命令が下されることはなく、奈々は別の少女の制止によって黙ることになった。
「尊乃。なんで止めるの?」
尊乃と呼ばれた少女は【徘徊する二宮金次郎像】という七不思議だったはずだ。よく見ると他の七不思議は消えていたが左から二番目にいた彼女だけがそこに残っていた。
「その能力使って他人を操ってる奈々が楽しそうじゃないからさ」
「私がいなくなったらみんな大変なことになるんだよ! それを自覚してよ……」
「わかってる」
「わかってないよ! あぁ──もういい!」
そう言い残して、奈々は教室を飛び出した。それをため息で見送った尊乃は零八に近づいて言う。
「キミは悪くないさ。奈々はちょっと頑固でね、七不思議の管理者としての責任を果たそうとしている。ボクはもう辞めてもいいと思うんだけどね。まぁ、細かい事情はサッパリだろうから、今度しっかり……いや、今から話そうか。家族に遅くなるって連絡しておくといいよ。今から会ってほしい人がいる」
それとも、と尊乃は言う。
「全部忘れて帰るかい? キミにまだ初恋のひとと向き合う気があるなら、おすすめはしないけど」
零八はスマホを操作し、母に遅くなるというメッセージを送った。
「僕は知りたい。奈々を生き返らせるにはどうしたらいい?」
待ってましたと言いたげに、尊乃は扉を開ける。
「さ、行こうか」
「どこに?」
「まだ秘密さ。ここは奈々のテリトリーだから、ここで話したら盗み聞きされてしまうよ」
テリトリー?
「七不思議の棲家と思ってくれればいい。七不思議の特殊な力をより強く発揮できる場所でもある」
そんな話をしながらしばらく歩く。先生のまだ残る職員室前をヒヤヒヤしながら通り、その先にある圧を感じさせる扉の前で止まった。
「
友佳。本名は
理事長室の扉を自宅の玄関のように気軽に開くと、尊乃はさっさと入る。零八もそれに続いた。
二人を向いて椅子に座るのは綺麗な女性だった。彼女を直接見るのは入学式から二回目だが、話すのは初めてだ。
「初めましてだね。なっちゃんの友達候補くん。わたしは七森友佳。知っての通りこの学園の理事長で、なっちゃんとたかのんの友達だよ」
「神呪零八です」
「かんのれいや──れーくん」
そんな自己紹介の結果自信満々にれーくんと呼ばれることになった。先生にあだ名で呼ばれるなど思ってもみなかったので、なんだか面白い人だと印象付ける。
「さて、たかのんが連れてきたってことはただ呪われただけじゃなくて協力的な子ってことだよね。ならこちらも協力を惜しまない。どうかなっちゃんを幸せにしてほしい。そのためなら、わたしの知ってることは全部話す。なにか知りたいことはある?」
話がやけに早い。予め通していたか、もしくは──
「以前からの計画だよ。ボクたちは奈々を七不思議の役目から解放するために色々やっていた。今はキミに協力することが最善手だと思っている。さ、遠慮しちゃダメだよ。なんでも訊きな」
「えっと……友達ってなんですか? 何をしたら、彼女と友達になれますか?」
最初に訊くことではないと思ったが、奈々の友達だという友佳にどうしても訊いておきたかった。
「普通なら難しい質問だけど、相手がなっちゃんだから簡単。れーくんとなっちゃんはもう友達だよ」
「奈々の良いところで悪いところだ。彼女は全人類を友達だと認識してるんだよ。だから彼女を生き返らせたいなら、友達という表現はやめよう……」
「幸せにする!」
「いいね、うん。奈々の幸せについて考えるといい。キミと一緒に今後の人生を歩んでもいいと思わせるくらい幸せにするのさ」
尊乃と友佳の掛け合いを聞きながら、零八はぽつりと呟いた。
「幸せ?」
幸せなんて人による。大金を手に入れて幸せな人はいるだろうけど、奈々にお金を渡して解決とはいかないに決まっている。
「いい疑問だね。でも奈々に関してはやっぱり──」
「『友達百人』ね。なっちゃんが生前から言ってることよ」
「キミと奈々が初めて会った時も、彼女は嬉しそうにしていてね。話をちゃんと聞いてくれるいい子で、友達になる約束もしてくれた。他の七不思議とも仲良くはれるはずってな具合だった。だからこそ二重で嫌だったんだろうさ、キミに友愛ではなく恋愛を向けられるのが」
それほど奈々は友達にこだわるのさ、と尊乃が締めた。
「でも、なっちゃんは友達以外の付き合い方を知らないだけだと思うの。確かに表面的になっちゃんを幸せにするなら友達になるべきよ。でもなっちゃんを本気で幸せにしたいなら、れーくんの本音をぶつけるべきだと思う」
彼女の嫌がることをしてでも、嫌われてでも、それを正しいと信じてほしい、と友佳は締めた。
「つまり、僕の気持ちをちゃんと伝えろってこと?」
催眠術を使ってまで拒絶されたのに?
「そうだね。奈々はまだ好意を受け入れる準備ができていないのさ。明日あの空き教室においで。そこで奈々にまた話してみよう。その時はボクも最初からサポートする」
零八は数々の疑問を抱えたまま家に帰った。明日は面倒なことになりそうだと思ったが、そんな面倒は、彼が初恋を諦める理由にはならなかった。
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