あざといドライブ

茶村 鈴香

あざといドライブ

恋人じゃない人の

助手席に乗るのは初めて

いつもはよく喋るのに

静かに前を見て「行くよ」だけ


「言ってたとこでいい?」

私たちはもうじき廃館となる

水族館を見に行くのだ

私がペンギンマニアだから


三か月前まで

このひとは私の親友の彼氏で

一か月前に

私はニ年越しの恋人を振った


あざといんだろうか

私はペンギンを見たいと

このひとに頼んだ

「車でないと面倒な場所だから」


「なんで振ったの?」

「そっちはなんで振られたの?」

「親友同士だけに君も気が強いね」

しばしの沈黙


ねぇ

誰にでもあざとい訳じゃないんだよ


元恋人とは運転の仕方が違う

ゆっくり切るハンドル

あんまり車線は変更しない

急ブレーキなんて決して踏まない


流れる窓の外 横目に

ステレオから流れるのは

親友が好きだった

クリープハイプ


「パーキング寄る?」

「大丈夫、早く着きたい」

親友だったらきっと

ソフトクリーム食べただろうな


さびれかけの水族館

何はなくともペンギン舎

なんてこと そこには

イワトビペンギンが三匹だけ


なんてこと 張り紙に

『ペンギンの順応性を考慮し

適正な他園に数匹づつ

お引越し中です』


他の水槽もすかすか

クマノミとチンアナゴと

鯵の小さい群れを見る

一匹だけ大きなエイも見る


「ペンギンどこに行ったんだろ」

「ペンギンの惑星かね」

「ペンギンと写真撮りたかった」

そういうサービスがあったのだ


「再来週また、車出してくれる?」

そう言ってる私は確かにあざとい

帰りはパーキングに寄って

揚げたてカレーパンとコーヒー


再来週までに私の好きな

洋画のサントラのCD探しとこう

あるいはドライバーの彼の好きな

ハイロウズからのクロマニヨンズ


あざといのとぶりっ子と

どう違うのかわからないけど

あのひとにはそうなっちゃう自分

なんとでも呼んで









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あざといドライブ 茶村 鈴香 @perumi

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