18の恋(前編)②

その夏は本当に楽しかった。


新しくできた仲間たちと、夜から朝まで花火を片手に地元・島根県しまねけんにある宍道湖しんじこのほとりで語りあったり、駆け回ったりした。

高校生時代、根暗だった僕はこれが青春ってやつか、と思ったほどだった。


そんな夏のある夜、この日も花火をしながら仲間たちと宍道湖のほとりで語り合っていた。


ひとしきり騒ぎ終えた後、そこで恋愛の話になった。

一緒にいた友人たちの恋愛話の流れが一巡りし、

「そういえば、好きな人いないの?」

友達の輪にいた女の子の一人が僕に聞いてきて、それに対し僕は「いるよ」と答えた。


そうすると、その子が詳しく知りたいと聞いてきたものだから、周りの男友達たちも僕の話に興味を示し集まってきた。

僕は友人たちに、高校生当時の経緯からAさんに関する話をみんなに聞かせた。

ひと通り僕が話し終えると、先ほどの女の子はふと思いついたようにこう僕に訊いた。


「え、その好きな子とは会わないの?」


それには僕は言葉をにごした。

Aさんを遊びに誘う勇気がなかった僕は、ひそかにAさんを想っていられればそれでいいと、当時は思っていた。

実際、たまにするAさんとのメールのやりとりが僕にとっては楽しみであり、メールが返ってくるだけで胸の中に灯りがともるような暖かい気持ちになれた。


でも、その子にそう質問され、改めて考えてみた。そして次第に僕は、Aさんに会ってみたいと思い始めた。


満天の夏の星空の下で、僕は夜空にあのポニーテール、あのメガネをかけたAさんの笑顔を想い浮かべ、僕は思った。


Aさんに、逢いたいな…。


「うん、会ってみるよ」

そうして、僕はその子にそう答えていた。


うん、Aさんに会ってみよう。


宍道湖のさざ波が、夏の夜に静かな波音を響かせて、水面に星がちかちかと反射していた。

その景色は、僕に新たな希望を予感させていた。


それから数日後、僕はアルバイト先の居酒屋が行っている屋台を任されることになり、夏の炎天下の中でビールを注ぎ、焼き鳥やサザエを焼いては、訪れる客たちに提供をしていた。


僕はそんな中、客足が途切れた際にこっそりと携帯電話を取り出し、Aさんにメールを送っていた。

(この事は後々に上司にバレ、こっぴどく叱責を食らったのだが)

このメールのやり取りで、僕はAさんとある約束を取りつけるに至った。

その約束の内容は、あのAさんがいたクラスの皆と、僕を含めた数人の仲良かった友達を集め、小さな同窓会を開こうというものだった。


それから、Aさんと二人で手分けをして同級生たちに声をかけ、同窓会には10人弱のメンバーが参加することが決定した。また、同窓会の日取りと、場所はカラオケボックスで開催することも決まった。


そして、その日がやってきた。


この日が僕にとって、こんなにも人生で忘れられない一日になるとは、その時点ではまだ思ってはいなかった。

今までの人生の中で、一日という短い時間を、ここまで記憶の中に鮮明に刻みつけた日は、他にはないのではと、心底思えるような一日だった。

僕にとってその日は、この恋の新たな始まりを迎える日となったのだった。

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