18の恋(前編)

18の恋(前編)①

初恋はつこい…、それは人生で初めて誰かを好きになった恋のこと。


でも、僕は思う。


恋はいつも違う。

胸の高鳴りや、気持ちの大きさや、好きになった人の大切さ。

それは恋をする度に違う感情をくれた。


18歳の頃、僕は一人の女の子に恋をした。


初めて誰かを好きになったのは、それよりも前だけれど、あんなに強い想いに駆られて恋をしたのは、間違いなく人生で初めてだっただろう。


それも初恋と呼ぶのではないのだろうか。

そう、僕は思う。


そんな18の恋について、ここにつづってみようと思う。

僕の大切な大切な、大きな片想いについて。


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本編に入る前に、ここで僕が高校を卒業してからの一年間について、特筆とくひつさせていただくことにする。


18歳当時、僕は高校を卒業すると間もなく、実家の最寄り駅から二駅先(二駅とはいっても、田舎なので電車でも10分近くかかるほど距離がある)のこの地方ではわりと有名な温泉街おんせんがいにある居酒屋でアルバイトを始めた。


当時、高校在学中より音楽の専門学校に進学することを考えていたが、家庭事情により一旦、一年間をフリーターとして過ごした後、翌年に専門学校へ改めて進むことになった。

その一年間を、その居酒屋でのアルバイトを中心として生活した。


そして、このアルバイト先での新しい友人たちとの出会いが、高校当時は根暗ねくらでオタクだった僕を変えることになった。

新しい仲間と、新しい刺激に影響されて、僕は夜ごと夜遊びを繰り返すようになった。

ちなみに高校当時は夜遊びなど、これっぽっちもしたことがなかったし、同じクラスの女子たちともほとんどまともに話せず、友人と呼べるような付き合いもなかった。

そんな僕が男女関係なく友人を作り、夜遊びの楽しさを覚えるようになったのは、間違いなくあのアルバイト先の仲間たちとの出会いに恵まれたからであろう。


あの頃に出会った皆には、本当に感謝している。

あの仲間たちに出会わずに東京へ上京していたら、きっと僕の人生はもっと違ったものになっていたのだろうと思う。もちろん良くない意味で。


そんな仲間たちに囲まれて、その夏は始まった。


---


その子との出会いは僕の高校生時代。


女の子の友達がほとんどいなかった僕を、友達の輪に誘ってくれた女の子がいた。

それまであまり話をしたことがなく、馴染みの友達に付き添い、一緒に顔を見せる友人くらいにしか思われていなかった僕を、その子は気軽に話しかけてくれて、友人たちの会話に入るよう誘ってくれたのだった。


それがポニーテールを結んだ腰まである長い黒髪、いつもメガネをかけた、性格も行動も活発な女の子・Aさんだ。


Aさんと僕とはクラスが別々だった。高校三年生当時、六限までの授業が終わり、放課後はAさんがいる教室を訪ねることをしていた。


放課後には、田舎の少ない本数の電車の待ち時間を、そのクラスで友人たちと喋ったり、ゲームをしたりして時間潰しをしていた。

また、自分のクラスに共通の話題を話せる友達が少なかった僕は、放課後にはそのクラスの友達と一緒に自身の趣味であるマンガやアニメについて話すことが多かった。

補足すると、当時はまだオタクという言葉も、世間ではマイナスなイメージが強く、いまほどメジャーな呼び方ではなかった。


ちなみにこの頃、僕は全然別のクラスの同級生の女の子に想いをよせていた。

その子とはほとんど接点もなく、ずっと話をしたこともない子で、僕はただたまにすれ違う際などにその子を眺めることしかしなかった。

結局、卒業まで一切その子とは直接話したり接する機会は訪れなかった。

そのため、高校卒業と同時に僕はその恋を諦めたのだった。


高校を卒業し、フリーターとなった僕は自動車の運転免許証を取得した後、隣町の温泉街にあるくだんの居酒屋でアルバイトを始めた。


アルバイトをし始めてしばらくした頃、高校生当時に仲良くなった友達と会う機会ができた。

久しぶりに会ったその友達が、会話の中で僕にこう尋ねた。

「お前、好きな子とかいないのか?」

僕は少し考えて、いる、と答えた。

その時思い浮かべたのが、Aさんだった。

その答えに、その頃とくに深い感情はまだなかった。

高校生時代に好きだった子がいなくなった僕には、Aさんが周りにいる女の子の中で一番いいなと、そのくらいにしか思っていなかった。


もちろんその時は、だが。


いま思えば、あの時の友人への答えが一種の自己暗示になったのだろうと思う。

僕はそれ以来、次第にAさんを想うようになっていった。


だが、僕とAさんは高校卒業以来メールで時々やりとりはするものの、直接会ったりすることはなかった。

高校時代でさえも学校外で遊んだことさえなかったのだから、学校というAさんに会う共通のきっかけすら今はなくなっていた。

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