体験記③
【体験記③】
結果から言えば、火の元は私の実家の隣家が原因だった。
私の家は完全な巻き添えを食ったのだ。
当時まだ小学校にも上がっていなかった弟は、そのとき一人居宅にいた。お昼の時間だったため、もちろん両親とも食堂で働いている時間帯であった。
弟は、あろうことか火の手を目の前で見ていたのだという。
あのとき、よく巻き込まれずに生き残ったと思う。
私は当時、ペットとして亀を飼育していた。
山だの川だのと、とにかく元気に遊びまわっていた当時の私は、どこかへ出かける度にカブトムシや蝉などの昆虫、亀や川魚や蛙などといろいろな生物を捕まえては自宅に持ち帰っていた。
そんな中でも、近所の川で捕まえたこの亀には特に愛着があった。
餌として魚の切り身を頭上にぶらぶらさせると、ゆっくりと首を持ち上げ、ぱくりと平らげる姿など愛嬌があった。
小学校から帰り着き、ぐちゃぐちゃになった実家を前にして、私はすぐさまその亀のことを思い出した。
亀は食堂から見渡せる、ガラス越しの中庭部分に水槽を設置し飼育していた。その亀の水槽の隣の水槽には小さな魚(金魚だったか、川魚だったかは覚えていない)が同じく飼われていた。
私は中庭部分からその水槽まで急いで行き、亀の安否を確認した。
煤けた水槽の中、その亀はしっかりと存命していた。だが、隣の水槽の魚たちは皆、水面に仰向きで死滅していた。水温が極度に火事で上がったせいだろう。私は亀を水槽から救いあげると、涙が出そうなくらい嬉しかった。
その後、その亀は捕獲した川へと放しにいった。水槽は駄目になってしまったし、なによりこれからどんな生活が待ち受けているかもわからず、とても飼育を続けられそうになかった。ゆっくりと川の流れの中へと消えていく亀のその姿を見ながら、たまらなく寂しさが込み上げたことを覚えている。
住む家を失った私たち家族は、隣地区にある住宅の一階部分を間借りし、一時の生活を送ることとなった。
見慣れない家具や、少しカビ臭さを感じる匂いなど、そこかしこからここが他人の家だという違和感が絶えずあった。
私はやはり小学生であり、保険だの、隣家との折り合いだの、今後の生活についてなど、そういったことにあの頃両親がどれだけの苦労をし疲弊していたのか、当時の私には知る由もなかった。
私はしばらくその借家のようなところから小学校へ通うこととなった。
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