体験記

体験記①

【体験記①】

あれは、私が小学校の三年生になった頃のことだった。

当時の記憶は、幼さゆえにあまり鮮明には覚えていない。

実家でのいち場面や、友人の家での場面や、学校での場面など、まるで長いビデオテープを細かく切り貼りしたみたいに、少しずつしか当時のことは思い出すことができなくなってしまった。

そんな中でも、あの当時の記憶については、人間一度の人生において出会う確率の低い出来事に遭遇した、特別な頃だったと言えるだろう。

今でこそ、昔話として語れはする。だが、両親からすれば、できることなら経験しないに越したことはないと、そう言われるくらいに特別な出来事だった。

予兆、というにはあまりに弱いかもしれない。しかしあの当時、小学一年生、二年生と二年の同じような時期に不幸な出来事が連続し、三年生でももしやという予感めいたものがあったことはやはり拭えない。


小学一年生の初夏、祖母が亡くなった。

おじいちゃん子だった私は、当時の年齢も手伝って、祖母の記憶というものをほとんどと言っていいほどに思い出すことができない。

その日、朝から祖父と山へ虫を捕まえにいく約束をしていた。

その出掛けようとしていた直前、祖父に祖母が亡くなったとの知らせが伝えられた。

ガンだったのだ。

愕然とする祖父の表情になにごとかを悟った私は、無神経にも

「ねえ、虫とりは?いけないの?」

そう尋ねていた。

いま思えば、怒鳴りつけられても仕方のない物言いだったが、そのとき祖父に怒鳴られた記憶はない。

祖父はあまりのショックに怒る気力すらなかったのか、それとも幼い私を哀れに思ったのか、今ではその答えを知る術はない。

人の命が失われるその意味さえ、当時の私は分からないほど、幼かったのだ。


その翌年、やはり初夏の頃だと記憶している。

亡くなった祖母を追いかけるように、今度は祖父が亡くなった。

死因は、祖母と同じくガンであった。

これには幼い私も、さすがにショックを受けた。

祖父にはよく、山や空港などに連れて行ってもらった記憶がある。近所の主婦などに「おじいちゃんそっくりね」などと言われれば、それなりに嬉しかった。それほど小学生時分の私は、祖父に懐いていた。

そんな祖父がこの世を去り、改めて私は人の死というものを知った。

そんな出来事が小学一年生、二年生と続けて起こった。

そして、三年生の初夏。あの出来事は私たち家族に襲いかかったのだ。

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