第3話 苺姫ちゃんの鞄は良い匂い

「苺姫ちゃーんっ! 好きだーっ!」

「しつこいんだよてめえはっ!」


 フラれてしまったあの日から、俺は毎日のように苺姫ちゃんを学校で追いかけ回して告白を繰り返す。しかし良い返事はもらえず、こうしてなんども声をかけているのだ。


「姉御、やっぱこいつシメちまいましょうっス」

「そーそ。一度シメれば諦めるってー。ねー姉御」

「いーや諦めないね。俺は苺姫ちゃんに心を奪われたんだ。死んだって幽霊になって苺姫ちゃんを追い続けるっ!」

「はあ……」


 俺の熱意を聞いた苺姫ちゃんがため息を漏らす。

 そんな姿もかわいかった。


「お前さぁ、あたしのどこが好きなの?」

「身体が小さくておっぱいが大きいところっ!」


 ロリ巨乳最高っ!


「小さいって言うなっ! てかそんなこと言ってくる男と付き合う女がいるわけねーだろっ!」

「けど本心だし。嘘吐くよりはいいでしょ?」

「うん? うん。まあ、嘘吐くよりはいいな」

「姉御、嘘吐いてないだけで、言ってることは最低っスよ」

「わ、わかってるよ。とにかくよぉ、あたしはお前なんかと付き合う気は無いの。あたしがキレてぶっ飛ばされないうちにとっとと失せな」

「嫌だ。俺は苺姫ちゃんと付き合えるまで離れない」

「ぶっとばされてーか?」

「どうぞぶっ飛ばしてください。苺姫ちゃんに触ってもらえるなんて嬉しいし」

「こ、この野郎……」


 ゾッとしたような表情をしたのち、苺姫ちゃんはふたたびため息を吐いた。


「じゃあ舎弟にしてやる」

「舎弟?」

「おう。舎弟にしてやるからあたしに付き纏うのはやめろ。いいな?」

「わかった」


 舎弟になればいずれにしろ苺姫ちゃんの側にいれる。

 かわいい苺姫ちゃんの側にいれるだけで嬉しい。


「いいんスか姉御? こんなの舎弟にしちまって?」

「どうなっても知らないかんねあーし」

「いいんだよ。勝手に付き纏われるより、最初から側に置いといたほうがマシだ」

「つまり俺に気があるってことだね?」

「ちげーよっ! なんでそうなるんだっ!」


 恥ずかしがっている。俺にはわかるぞ。むふふ。


「はあ……ったく、で、てめえの名前は?」

「俺? 俺は芝園獅子。獅子君って呼んでね」

「なにが獅子君だ。てめえなんか猫で十分だ。おい猫、明日の朝は駅であたしが来るのを待ってろよ」

「はい喜んでっ!」


 ということで俺は苺姫ちゃんの舎弟になった。


 そして次の日から苺姫ちゃんを学校の最寄り駅で待つことになり、


「苺姫ちゃんっ! 俺が荷物持つよっ!」

「ちゃん付けで呼ぶなっ! 姉御って呼べっ!」

「わかったよ苺姫ちゃんっ!」

「こ、このー……」


 ぶつぶつと文句を言いながらも苺姫ちゃんは俺に鞄を渡してくる。


「うおおおっ! 苺姫ちゃんの鞄だっ! スンスン……。苺姫ちゃんの匂いがするっ!」

「やめろやてめえっ!」

「ダメっ! 鞄は俺が持つからっ! もう離さないからっ!」

「んがあああっ! 返せーっ! この猫野郎っ!」


 取り返そうとしてくる苺姫ちゃんに抵抗して俺は鞄を抱きかかえる。


 大好きな苺姫ちゃんとイチャイチャできて最高であった。


「だからやめろって言ったんスよ」

「こんな変態、舎弟にしてどうすんの姉御?」

「うるせえっ! てめえらも取り返すの手伝いやがれっ!」

「はいはい」


 呆れたように言いながら、理子と好美も俺から鞄を奪おうとしてきた。


「おいおいかわいい子がいるぜー」

「へっへっへっ」


 と、そこへガラの悪そうな男たちが近づいて来る。


「なあなあ俺たちと遊ぼうぜ。いいとこに連れてってやるよ」

「ああん?」


 声をかけられた苺姫ちゃんが男たちを睨む。


 ここで苺姫ちゃんを助けたら、俺のことを見直すかも。


『きゃーっ! 獅子君、素敵―っ! あたしと結婚してーっ!』


 なんてことに。

 よし、ここは格好良く平和的に話し合いで場を収めてやろうじゃないの。


 と、俺は苺姫ちゃんの前に立つ。


「あん? なんだてめえは?」

「俺は彼女を守るナイトさ。ふふん」


 これは決まったな。

 俺の格好良さに苺姫ちゃんも胸をときめかせているはずだ。


「彼女には手を出させないぞ。そこでどうだろう? こっちの2人はくれてやる。だから苺姫ちゃんには手を出さないということに」

「「勝手にくれてやるなっ!」」


 理子と好美が文句を言うが、これはしかたがないこと。

 大切な人を守るには犠牲が必要なのさ。


「ゴリラ女とブタ女なんてお断りだっ! 俺たちはそっちの女に用があんだよっ!」

「ゴリラとかブタとか言ったらゴリ子とブタ美がかわいそうだろ。人の心は無いんか?」

「「「てめえが言うな」」」


 周囲から一斉のツッコミを受けた。


「ったく、ふざけた野郎だ。とにかくお前は俺たちと一緒に……うがっ!?」

「あっ!?」


 苺姫ちゃんのかわいい足が不良を蹴り飛ばす。


「鬱陶しいんだよてめえら。てめえらみてーなザコにあたしがついて行くわけねーだろ」

「んだとこの女ぁっ!」


 いきり立った男たちが襲い掛かって来るが……。


「あがが……」

「な、なんだこの女……」


 苺姫ちゃんひとりに全員ボコボコにやられてしまう。


「けっ、この程度であたしを誘おうなんて……」

「さすが苺姫ちゃんっ! かわいいっ!」


 喧嘩に勝って誇らしげな苺姫ちゃんがかわいい。

 なにをやっても本当にかわいい女の子だ。


「か、かわいいだと? 喧嘩してかわいいとか意味わかんねーぞてめえっ!」

「苺姫ちゃんはなにをやってもかわいいんだよ。それよりも早く学校へ行こう。急がないと遅刻しちゃうからね」

「あ、てめえっ! 鞄返しやがれーっ!」


 走り出した俺を、苺姫ちゃんは慌てて追いかけて来た。

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