第4話 苺姫ちゃんの汗が染み込んだタオル

 そのまま学校へと到着し、俺は走るのをやめて苺姫ちゃんたちを待つ


「はあ……はあ……。お、お前、走るの速いな……」

「そう? 普通だと思うけど?」

「それじゃあたしが走るのおせーみたいじゃねーかっ!」

「遅いのもかわいいよっ」

「てめえ……いや、いい。はあ……」


 走って疲れたらしい苺姫ちゃんは荒く息をついていた。


「あ、姉御ーっ」

「あーしたち置いてかないでよー」


 そしてあとから理子と好美が走って来た。


「遅いぞゴリ美、ブタ子」

「「ゴリ子とブタ美だっ!」」

「あ、ごめん。間違えた。それよりも1限目は体育だから急いだほうがいいよ」


 と、俺は苺姫ちゃんに鞄を渡す。


「授業なんかいいよ。面倒くせぇ」

「ダメだよせっかく来たんだし。留年はしたくないでしょ?」

「ちっ、うるせえな」


 ぶつぶつ言いながらも、苺姫ちゃんは下駄箱へと向かい、それを理子と好美も追って行った。


「さて……」


 3人を見送った俺は校門のほうへ目をやる。

 そこには先ほど苺姫ちゃんがぶちのめした不良たちがいた。


「クソ、あの女、舐めやがって」

「ふん。こいつをちらつかせれば言うことを聞くだろ」


 男が手に持っているのはナイフ。

 あれで苺姫ちゃんを脅すつもりだろう。


「しかたないな」


 苺姫ちゃんに危害を与えさせるわけにはいかない。

 これは緊急事態だと諦め、俺は男たちへと近づいた。


 ……事を終えて俺も体育へ向かう。

 授業はすでに始まっており、女子たちがバレーボールをやっている姿が見えた。


「ああ、苺姫ちゃんかわいいなぁ」


 体育でバレーボールをする苺姫ちゃんを眺めながら俺は吐息を吐く。


 この学校に舞い降りた天使。いや、この世に舞い降りた大天使だろう。あんなにかわいい女の子はこの世界のどこを探してもここにしかいない。


 やがて体育が終わって、俺は苺姫ちゃんへタオルを持って行く。


「苺姫ちゃんおつかれっ。はいタオル」

「ん」


 苺姫ちゃんはそれを受け取って顔を拭く。

 それを返してもらって俺も顔を拭いた。


「って、なにやってんだよてめえっ!」

「んふぉおおっ! 苺姫ちゃんの汗が染み込んだタオル最高ぉぉぉっ!」

「やめろこの猫野郎ぉっ!」

「えっ? でもやめたら苺姫ちゃんの汗の匂いが嗅げなくて俺は死ぬ」

「死ねっ!」


 そう声を上げた苺姫ちゃんにタオルを取られてしまう。


 お宝にしようと思ったのに。


「あれ? 苺姫ちゃん、髪を輪ゴムで止めてるの?」


 よく見ると苺姫ちゃんは短いツインテールは輪ゴムで止められていた。


「あん? ああ」

「ダメだよ。外すとき痛いだろうし、髪にもよくないよ」

「いいんだよこれで。ヘアゴムなんてチャラついたもんはあたしにはいらねぇ」

「けど……」

「いいんだっての」


 そう言いながら苺姫ちゃんは歩いて行く。

 それから更衣室へと入って行き、俺も一緒に入った。


「なに当たり前のように入って来てやがんだてめえっ!」

「いや別に、やましい気持ちはないんだ。苺姫ちゃんはどんな下着を身に着けてどんな美しい裸体をしているか気になっただけで……」

「それがやましくなかったらなにがやましいんだよっ!」

「そうっスよ猫っ! あたしらの裸も覗く気だったんスねっ!」

「そーだそーだーっ! あーしらの裸も見る気だったんだろーっ!」

「いや、君らのは動物園でも見れるし」

「「どういう意味だっ!」」


 怒った理子と好美に追い出され、俺はしかたなくひとりで教室へ帰った。


 しかしやっぱり髪留めに輪ゴムはいかんな。

 よし。帰りにどこかで苺姫ちゃんに似合うヘアゴムを買って、明日プレゼントしよう。かわいいのをあげればきっと喜ぶぞ。


 喜ぶ苺姫ちゃんのかわいい顔を想像しながら、俺はその日の学校を過ごした。



 ―――三池苺姫視点―――



 まったくあいつはいやらしい奴だ。


 今日の授業を終えたあたしは理子と好美を連れて帰り道を歩きながら思う。


 あたしがかわいいって? 中学時代は修羅と恐れられたあたしだ。それをかわいいだなんてふざけた奴……。


 しかしかわいいと言われて嫌な気がしない。

 嫌な気がしないことに、あたしはイライラしていた。


「なんでかわいいなんて言われて……」

「うん? 姉御なんか言ったっスか?」

「……なんでもねーよ」


 あいつがあたしの憧れる炎王様のような男だったら、好かれることは嬉しかっただろう。しかしあいつは炎王様とはまったく違うただのスケベ男。


 炎王様は喧嘩最強の男だ。

 会ったことは無いが、きっとスケベなことなど微塵も考えない、喧嘩一筋の男らしい男なのだと思う。


 いつか会ってみたい。

 その日をあたしは夢見ていた。


「そういやあいつ、猫の野郎はついて来てねーのか?」


 帰りはいつも駅までついて来る。

 舎弟にしてもついて来ると思っていたのだが、今日はいなかった。


「はい。姉御のこと諦めたんじゃないっスかね?」

「だといいけどな」


 しかしいなきゃいないで少し物足りない。

 そんな気もした。


「ふん。おい、理子好美、バッセンでも行くか」

「うっス」

「あーい」


 なんとなくイライラが増したような気がしたあたしは、バッティングセンターでも行ってこの苛立ちを晴らすことにした。


 ……しかしバットを振らずとも苛立ちを解消できる方法が向こうから来た。


「よお」


 制服を着た数十人の男たちがあたしらの行く手を塞ぐ。背後にも同じ制服の男たちが集まって来て退路を塞いでいた。

 制服からして、今朝に絡んできた男たちと同じ高校の奴らだ。その証拠に今朝ボコった奴らも集団に混じっていた。

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