第2話。森林の中で、初めての出会い。

「ここ何もないじゃない!!」


私の雄叫びが広い森の中にこだまする。

くっそー女神めぇ、こんな変なところにおろしやがってぇ!

ぶちぶち文句を言いながらほのちゃんと周りを探索しながら回る。


「まあまあ寧々。落ち着いてよ。」

「だってぇ…こんなところに転生させるなんてあんまりだよお」

「気持ちはわかるけど、」

「ほのちゃんはなんでそんなに冷静でいられるの!?」

「え、それはまあ、ね?」(私より取り乱してる人がいるからなんだけど)


ううー、どうしよう。魔法とかも与えてくれるって言ってたけどこんなところで魔法を放ったらどうなるかわからないし、そもそも魔法って何がどうやって使えるのかもわからないし、特殊スキルもなんなのかわかんないよぉ。

わからないことだらけで目が回りそうだ。私はほのちゃんと違って体力もたいしてないし、もう疲れ始めた。


「うーんもう少しウロウロしてみる?」

「えぇーほのちゃんよくそんなに動けるね、私もう疲れちゃったよ。」

「あ、じゃあもう少し休む?」

「うん。いっそのことこの森を拠点にしちゃう?」


あははーと軽く笑って洒落にもならない冗談を言ってみる。

もう落ち着けないし変な冗談を言うしか精神を落ち着かせる手段がないんだもん。変な冗談言っても落ち着きはしないし。


「あ!それいいねぇ」


え?今なんて?それいいね???

????????????????????

り、理解できなかった。

今なんて?


「いやいやいやよくないでしょ!?魔法の使い方も何にもわからないんだよ!?」

「わかるよ?」

「へ?」


ほのちゃんが自信満々に言ってのける。

いや意味がわからない。何度頭で整理しようと思っても理解ができなかった。

ほのちゃんも私とおんなじ説明を聞いてたはずだよね?なのに私だけ理解できてないってこと?いやそもそもあの女神使い方なんて一言も言ってなかった気がするんですけど。


「なんてね。うそ。いい加減落ち着きなさいな!」

「うっ…はぁい…ごめんなさいっ…」


ああぁ焦った…私だけ聞こえない会話があったのかと思った…

にしてもどうしようかなあ。周りを見渡せど森、森、森。なあんにもない。どうにかして生きる術を探さなければ。また死の世界に行ってあの女神に会う羽目になる。それは絶対に嫌だ。せっかくほのちゃんと一緒に2人きりで転生できたのに。絶対に生き残って見せなきゃ。

周りを見ろ。よく見ろ。

森の他には?見たことある植物は?聞こえる音は?もっとよく見て、聞いて。


「あ!あの花って!」

「どれ?」


私が指したのは菜の花だった。


「菜の花って確か食べれるよね?」

「え?そうなの?知らない」


う、そう言われると不安になっちゃう。確か私の記憶が正しければ菜の花は食べられたはず栄養価はあまりなかった気がするし調理もしたいけど…


「ふうん。この花食べられるのか。」

「うん。でも、料理した方が美味しいと思うからもう少し放っておいてもいいかも。ここに菜の花があったことだけ覚えておこう」

「わかった」


えっと、あとは果実とかがあってくれたら助かるんだけど…そう都合よく見つからないか…。

うーん。何か食べられそうなもの、ないかなあ。

キョロキョロと見渡しているとブルーベリーのような青い果実が目に入った。

じっと近づいて見てみるけどブルーベリーではないみたい。

ブルーベリーはもっと色合いがはっきりしてるし花のいろもこっちの方が薄いみたい。ブルーベリーに似すぎている気がする。もしかしたらこっちの世界でのブルーベリー?育つ環境で色が薄くなった可能性とかもあるかな?

プチッと詰んで口に放ってみる。


「ちょちょちょ寧々!?何食べたの!?」

「え?ブルーベリー……みたいなやつ…」

「みたいなやつ!?それ食べて大丈夫!?」

「わ、わかんないけどでも食べてみるしかないもん。味も普通だし、多分大丈夫。」


そう伝えてもほのちゃんは不安そうな表情を浮かべている。

何か食べないと生きていけないわけで、口に入れてみたけど普通に食べられる。ブルーベリーとは若干味が違うけど多分毒とかはない。

まあこんな小さい果実じゃお腹も膨れないけど。


「もう。心配しちゃうから変なもの食べるの禁止。」

「う、はーい…」

「そして寧々。疲れてるかもしれないけど私たち人間が生きるために必需品な水を見つけるまではあんまり休んでられないよ。」

「あ、そっか。水がないとまた私達死んじゃうのか。」

「そ。てことで水が見つかるまで頑張って歩くよ!」


えいえいおー!

っと気合を入れたのはいいのだが。全っ然水が見つかりません。

もう何時間歩いたのかわからないくらいは歩いた。

結構な距離は移動してきたけど全然見つからない上にけしきもたいしてかわらない始末だ。


「もう無理、終わった。」

「そんなことないって、寧々。もう少し頑張ろ?」


そう微笑んでくれるほのちゃんが優しすぎて好きだ。

でも水なんて見つからないよお。あるかもないかもわからないものを探す時は本当に心が折れそうになる。

そしてさらにしばらく歩いた時だった。


[どかーん!!]


大きな音と共に大きな振動が伝わってきた。

日本で言う地震のようなものだ。いや、爆発に近いのか。


「ほのちゃん!大丈夫!?」

「私は平気。寧々は?」

「私も平気だよ。」

「音のした方に行ってみましょう。何かあるかもしれない。」


そう言うほのちゃんに頷きを返すと私達は音がした方に走った。

何があるかもわからない。危険かもしれない。でもこれ以上ここで何もしないよりは全然ましだ。これ以上よくわからない森を彷徨うのはごめんだからね。


「はあ。はあ。っここって…」


音がした方に走っていくと木製の大きな家らしきものが建っていた。

家の裏の方から黙々と黒い煙のようなものが上がっている。

火災の後のような焦げ臭い嫌な匂いがあたりに充満している。


「ほのちゃん!待って!」


ほのちゃんは煙を見ると同時の煙の方へ走り出した。

早い。と言うか家が広い。裏にいくまでに意外と時間がかかりそうだ。私も急いでほのちゃんの後を追う。


「誰かいますか!!」


ほのちゃんは家の裏に到着すると同時に叫んだ。

そこには元々白い白衣だったのだろう。今は黒焦げになってしまった白衣らしき構造の服に身を包んだ20代後半くらいの男性が横たわっていた。


「大丈夫ですか!?意識はありますか!?」


ほのちゃんの問いかけに男性は目を開けた。


「あれ?君たち誰?僕ここに結界かけてなかったっけ?」


きょとんとしている男性を見て驚きの表情を上げるほのちゃん。

私も驚いている。

さっきまで横たわっていたのにケロリとしている。

それに音の方角と黒く焦げていたことからさっきの音の原因はこの人だと言うことがわかった。


「ま、いいや。で君たちそんなに慌ててどうしたの?僕に何かよう?」


黒髪にまる縁メガネという男は日本人っぽさ溢れる人だと思う。

…失礼なことを言うと少し不衛生感があって不思議な人だなと思う。


「い、いえ。変な音がしたのできてみました。」

「ふーん。そうなんだ。ところで。」


男の人はすらっと立ち上がり私達に剣を突きつけた。


「君たち何者?どこの国から来た?」


さっきまでののんびりした様子とは打って変わった性格だ。声の一言一言に重みがある。怖い。怖すぎる。


「え、えっとわ、私達は多分異世界から転生してきた者でっ」


あぁー馬鹿正直に答えちゃったよー!これ以上いい返答も思いつかないけどわかんないよー!!怖い。ほのちゃんは落ち着いてるし、何?私が変なの!?


「そうか。異世界からの転生者か。」


そういうと男の人は剣をしまい、さっきと同じ様子に戻った。


「いやー勘違いしちゃってさーごめんごめん。ご飯作ってあげるから、家よって行ってよ。」

「い、いいんですか?」


知らない人の家に入るのは危ないかとも思ったが背に腹は変えられない。この際に魔法にかかわること全部教えてもらおう。


ー2時間後。


「よし。お待たせして悪かったね。できたよ。」


そう言って男性が持ってきてくれたのはハンバーグだった。

私の大好物だ。まさか異世界にきてもハンバーグを味わえるなんて!幸せだあ。


「君たち転生者だったか。失礼なことをしたね。僕はイディオ・ミカサ。イディオって呼ばれてるよ。」

「私は稲葉寧々。こっちは林田穂述。よろしく。」

「よろしく。ご飯までいただいちゃって、ありがとうございます。」

「いやいや。気にしなくていいよ。ところで転生者ってことはまだここの常識知らなかったりするの?」


早速質問したいところを的確についてくる。

この人すごいなあ。えっと、イディオさんだっけ。


「はい。本当に数時間前にきたので、右も左も。」

「なので、私達にその、いろいろと教えてくれませんか!?」

「いろいろ?」


私の質問に呆然とした表情を返すイディオさん。そりゃそうなるよね。


「ふーん。まあいいけど一個だけ条件をつけてもいい?」

「なんですか?」


条件というくらいだから相当大変なものかもしれない。でも私達には今頼る人がイディオさんしかいいない!緊張した表情がほのちゃんにも伝染する。

イディオさんは一息おき、決心したように言った。


「君たちのお世話をさせて欲しいんだ!!」

「はい?」

「いやーこのラボ…あ、僕の家のことだね。僕以外に人が住んでないしさー。長年1人でここで生活していると流石に寂しくてさー。てことで2人でここに住んでくれるならなんでも教えちゃう」


そんなことを言い出した。私は別に問題ないと思うけど…。という意思を込めてチラリとほのちゃんに視線を送る。

そんな視線を察したのかほのちゃんは私に少しだけ微笑みかけてから、イディオさんの方を向く。


「…絶対に寧々に手を出さないならその条件飲みましょう。」

「出さない出さない。だいたいもう28のおっさんが可愛いこの相手になれるわけないでしょ?第一君たち付き合ってるみたいだしね。」


…え?私付き合ってるなんて言ったけ?


「言葉の節々でわかるよー?僕、研究科なだけあって観察眼は鋭いからね。ってことでよろしく、寧々ちゃん。ほのちゃん。」


なんだか不思議な人。

それに、全部見透かされてるみたいで怖い…。

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