優しい恋人とダメな私の異世界スローライフ。〜どこに行ってもあなたが一番好き〜

琥珀結玲

第1話。転生

私、稲葉寧々(いなばねね)。突然ですが私と恋人の林田穂述(はやしだほの)は交通事故に巻き込まれてしまったらしいのです。


時は3時間前。


「ねねー!」

「ほのちゃん!お疲れ様!」


この人懐っこく私に抱きついてきた女の子こそ、私の可愛い可愛い恋人であるほのちゃんなのだ。髪の毛はまっしゅとかベリショに近い黒髪で、くりくりした瞳からは宝石のような青色が浮かんでいる。

好きなことのために努力ができて、優しくて面白くて、成績優秀、容姿端麗、運動神経抜群。っと、めちゃくちゃ完璧人間なのだが、一つだけ欠点がある。

それは、こんな私を好きになってしまったことだ。

私たちはまあ、いろいろあって2年くらい前からお付き合いをしている。

さっき言ったように完璧人間の彼女に比べて私はというと、勉強は人並み、容姿も人並み、運動神経は人より劣っている始末。

こんな私のどこが好きなのかわからないくらいなのだ。


『私のどこが好きなの?』


と聞いても返ってくる答えはいつも同じだ、


『さぁ。どこだろうね?』


何度も何度もはぐらかされる、でも行動から本当に私のことが好きなのは伝わってくるから不思議と不安はない。


「あ、そういえばほのちゃん、今日買い物行きたいんだけど付き合ってくれる?」

「うん、やりたいことあるからそれ終わってからならいいよ」

「りょーかい。図書室で時間潰してるから終わったら戻ってきてー」

「はーい」


そんな会話をして1時間。一向に戻ってくる気配がない。

さてさて、ほのちゃんは何をしているのでしょう。

答えは簡単。きっとクラスメイトたちに捕まっているのだ。

先ほど話したようにほのちゃんは容姿端麗だし成績も優秀。そしてこの時期。テスト一週間前!やりたいことも基本的にクラスメイトたちに頼まれたことなんだろう。

どこまでお人よしなんだか。

ま、そういうところも好きなんですけどね!

私が嫉妬しちゃうでしょ!

ふぅ。と短いため息をつき読んでいた本を閉じる。


「あれ、もう帰り?」

「はい!またきますね!」


バイバイとかるく司書の先生が手を振ってくれる。えっと、ゆずは先生だったっけ?

まあ、名前を呼ぶ機会もあんまりないからいいんだけど。


階段を登りほのちゃんの教室の前までくる、案の定勉強会が行われていた。

ちらっと中を覗いてほのちゃんの顔色を伺う。

うーん。そろそろ引き上げどきかな。

ほのちゃんは優しいから、もう帰りたいなどの自分の要望より人の要望を優先してしまう癖がある。よくない癖だからそろそろ直して欲しいところだ。

スゥっと息を吸い教室の中に向かって声を上げる。


「ほのちゃーん!そろそろ帰ろう!」

「寧々!!」


パッと勢いよくこちらを振り向くほのちゃん。かわいいっ!!

ほのちゃんは見た目がボーイッシュってこともあり、他の女子からも人気が高い。(ここ女子校だし。)だからこんなことをすると当然周りの女子からの視線が痛い。


「ごめんね、今日は寧々と約束あったし、もう帰るね!」

「えー、明日は?」

「明日、は…」


ほのちゃんが言葉を詰まらせる。きっと嫌なんだろう。あー、ていうかあの子前にほのちゃんが苦手って言ってた子か。そりゃ嫌だろうな。


「明日も私と約束あるの!」

「ってことだから、ごめんね。」


ほのちゃんはそういうと両手を合わせてごめんなさいのポーズを取る。

そんなあざといことは私の前だけでやってたらいいのにっ!

そして雑談をしながら外に出てしばらく歩いていた。


本当に突然だった。

不意に後ろから衝撃を受けた。

大きな鉄の塊がトラックだと認識する前に私の視界にはほのちゃんが映った。

ほのちゃんも私と同様跳ね飛ばされ遠くへ飛んだ。


「キャーー!!!」

「誰か!救急車を!!」

「運転手の人も意識がないわ!!」


周りからガヤの声がする。そんなのどうでもよかった。

ほのちゃん。ほのちゃん、大丈夫だよね?息してるよね?何があったの?ほのちゃん。目を開けてよ。ほのちゃん。私の命はどうなってもいいから、ほのちゃんだけでも。生かして。お願い。ほのちゃん。


「ほ…のちゃ……ん。」

「………」


ほのちゃんは私が呼びかけた時にはもう意識がないようだった。

そうしてすぐに私の意識も途絶えた。


次に目が覚めたのは病院だった。

ー、いや、正確にいうと病院の空中だった。

病院のベッドの上で寝ている私とほのちゃんを私は病室の天井くらいの高さから眺めていた。母親が泣いている。ほのちゃんのベッドの横にいるのはきっとほのちゃんの親族だろう。そっちも涙を流していた。


〈何?私、死んだの?〉


不意に声が聞こえた。

ほのちゃんの声だった。


〈ほのちゃん?いるの?〉


姿は見えない。キョロキョロと辺りを見渡せどどこにも愛しい人の姿は見つからない。ほのちゃんもそのようだった。


〈いるよ。寧々も?寧々もそこにいるの?寧々は生きてるの?〉

〈私はここにいるよ。ほのちゃん。多分ね、私死んでる。〉

〈え?うそ…〉


嘘なんかじゃない。わたしみえるんだ、自分のベッドの横にある心拍計が、心音が、0を指してるんだ。

私は死んじゃってる。もう、ほのちゃんの体温を感じることも、一緒に過ごすこともできない。

本当に悲しい時って涙も出ないんだ。


〈あ。ねぇ、寧々。私も死んだみたい。今。〉

〈え、今!?〉

〈うん。今。たった今。生きようって抗ってた力が抜けたみたいで、死んだみたい、私だけ生きても、寧々がいない時点で生きる意味がないんだよ。〉

〈ほのちゃん…ねえどこにいる?今すぐ会いたいんだけど、〉

〈寧々のベッドの真横。〉

〈そこいくね。〉


そういってスウっとほのちゃんの近くに移動する。見えないのに少しだけ気配を感じる。


〈ここにいるよ。ほのちゃん。〉

〈手、繋いでもいい?〉

〈見えてないけど。いいよ。〉


すっと差し出した手にほのちゃんが触れる感触がする。

ああ、なんだか、温かい、


そう思った瞬間だった。私の手、いや、ほのちゃんと手が触れ合っている部分がパアッと光だした。


〈何これぇ!?〉


私の悲鳴が冴える。

あまりの眩しさに目を閉じる、きっとほのちゃんもそうしただろう。


『いらっしゃい。関門クリア、おめでとう。』


聞いたことがない声がしたと思えば目の前にはよくわからない神秘的な女性が立っていた。そんなことより私の視界に映るほのちゃんが、やっと見ることができたほのちゃんに目が映ってしまう。


「ほのちゃん!!」

「寧々!」


ぎゅうっと抱きしめ合う。


「痛いところはない?気分も悪くない?」

「大丈夫、げんきだよ。ほのちゃんは?」

「あぁ。私も平気よ。」

「よかった。」


2人で無事を確認し合い、お互いに安堵をして、また抱きしめ合う。

いつもの優しくて、温かい腕だ。


『ちょっと。女神であるこの私を放っておいて何をなさっているのかしら?第一この空間に現れたのちに私のことを気にも留めなかったのはあなた方が初めてよ。』


苛立っているようすの女神を2人して横目で見る。


『ああもう。せっかく蘇らせて差し上げようと思ったのに気が変わりそうですわ。』

「蘇らせる!?」

『そう。元々あの事故は我々神の手違い。ですので一人一人別の世界で蘇らせるのが妥当。しかし、あなた方2人は我々の関門を突破して見せました。』

「関門突破?」

『ですので、得別にお2人とも同じ世界へと転生を許可します。』


「「転生!?」」


転生…転生ってあの転生だよね、アニメとか漫画でよく見るみたいなやつ、私が?ほのちゃんと?

1人じゃないからよかったものの、何もできない私だから早々に死んじゃいそう。


『さて、転生に関するお話なのですが、あなた方には元々お持ちのスペックプラス、インベントリという能力、そして魔力を差し上げます。魔力は最強クラスのものを差し上げます。なんの属性かは行かないとわかりません。あとは特殊スキルですかね。特殊スキルは生前得意だったことになります。いうべきことはこんなものですかね。私も仕事が立て込んでいるので、さっさと移動してもらいましょう。』


女神がパチンっと指をならすと私とほのちゃんの足元がパアッと光に包まれた。


『では、いってらっしゃいませ。もう二度とここにくることのないように。』

「え!?ちょ、まってまだ聞きたいことが!!」

「そもそも関門ってなんだったんだよ…!」


しゅんっという音がして2人が消えた。

この空間にはもう女神しかいない。


『関門?あなた方がお互いの見えない状況で手を取り合うことよ。実際あの空間にはあなた方を轢いた車の運転手もいたのに全く気づかなかったですわよね。全く、お互いを愛しすぎなのよあのリア充。私はもう恋愛すらできないっていうのに。この関門も突破されたのは三回目ね。』


女神に放り出された場所は何もないただ暗い森が広がる場所だった。


「こ、ここここ怖いよおおおお!!!」

「なんてとこに下ろしてくれたんだあの女神。」


ここでぐずぐずしてても始まらないし、周りを探索しようってことになったんだけど。ここ…


「ここ何もないじゃない!?」

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