第7話「成功の余韻、届かない距離。」
「これで、ほぼ最終形だな。」
会議室で九条が確認書類を閉じながら満足げに頷いた。
高橋も腕を組んでにやりと笑う。
「いやー、大変だったけど、これだけの案件を無事にまとめ上げたのはすごいことだよな。」
一は隣で静かに頷いた。
プロジェクトは確かに大成功を収めていた。
クライアントからも高評価を受け、会社にとっても重要な仕事になった。
しかし、一にとってもっと大きな変化は、リノとともに仕事をした時間だった。
(毎日一緒に働いて、彼女のすごさを実感した……そしてやっぱり、俺はリノさんのことを好きだけど、これからどうしたいんだろう……)
もやもやとした気持ちを抱えながら、資料を片付ける。
そのとき、九条が嬉しそうに口を開いた。
「さて、クライアントからのご褒美があるぞ。オーシャン・グラン・リゾートのオープン記念パーティーに招待された。」
「マジで?」高橋が目を輝かせる。
「あの超高級リゾートホテルでのパーティーとか、最高じゃん!」
「もちろん、リノさんも招待されてる。」
その言葉を聞いた瞬間、一の心臓が跳ねた。
「そういえばさ、工藤さんってどんなドレス着るんだろうな?」
オフィスに戻ると、他の男性社員たちがそんな話をしていた。
「絶対似合うよな、あの人。」
「間違いない。あんな美人がドレス着たら、男どもが放っておかないだろ。」
その言葉に、一の胸がざわついた。
(俺だって、見たいと思ってる……けど、それを口にするのはなんか違う気がする……)
知らないうちに拳を握りしめていた。彼女が他の男たちから羨望のまなざしを向けられるのを想像すると、胸が痛くなる。
(これが……嫉妬、なのか?)
パーティー当日、一は普段とは違うスーツを身にまとい、会場に向かった。
そして、会場に足を踏み入れた瞬間、彼の視線はただ一人の人物に吸い寄せられた。
リノだった。
濃い紫色のロングドレスを身にまとい、すらりとしたシルエットが一層際立っていた。
普段のクールな印象はそのままに、どこか儚げで、息をのむほど美しかった。
「……リノさん。」
思わず声をかけると、彼女は少し驚いたように微笑んだ。
「佐伯くん、スーツ似合ってるね。」
「……ありがとうございます。」
言葉が詰まる。
伝えたいことは山ほどあるのに、何も言えない。
そんな彼の戸惑いを察したのか、リノは静かに微笑んだ。
「せっかく招待してもらったんだから、今夜は楽しんでね。」
(楽しむ……? こんな気持ちで?)
リノとの距離は相変わらず遠いままだった。
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