第17話 第五試合 前哨戦

〈イク視点〉


「き、キミ! 大丈夫なのかい!? 無理はせずに、医務室に――」


「……いえ……大丈夫です。……ボクはここで……試合を、見届けます」


 心配する大会スタッフの勧めを固辞して、おぼつかないの足取りの金髪少年が、試合会場に居残ろうとするものの……


「……くっ、……はっ」


「盾永くんっ!?」

 

 色白の顔は火照ったように紅潮して、全身にはびっしょりと玉汗が浮かんでいた。


 当然だ。治癒魔法を受けたとはいえ『感度三千倍紋』による完頂は、すぐに回復するようなものではない。


 息を吸うだけで全身に、ビリビリとした甘い刺激が走っているはずだ。


 それでも。


「……だい……じょうぶ、です!」


「馬鹿なことを言うな! そんなに辛そうじゃないか!」


 見かねた大会スタッフが近寄ろうとるるものの、その肩を掴む少年がいた。


「いいや、ナルミくんが大丈夫って言うんなら、ほんとに大丈夫なんだぜ」


 チームメイトである黒髪の少年に、息を荒げる金髪の少年を案じる様子はない。


 黒曜石の瞳が物語っていた。


 信頼しているのだ、と。


「それにナルミくんは、とっても頑固なんだ。一度言い始めたら、もう諦めるしかないんだぜ?」


「……そ、それ……イッちゃんには……言われたく、ないかなあ……?」


「おう、その調子なんだぜ!」


 友の苦笑を背にして、少年は尻闘けっとうの舞台へと向かう。


 王者は腕を組んだ仁王立ちで、

 挑戦者を待ち受けていた。


「童よ。別れの挨拶は済んだか?」


「おう、待たせたんだぜ!」


「ふん、威勢はいいな。それがつまらぬ虚勢でなければいいのだが」


「おう、期待してほしいんだぜ!」


「ならば言葉は不要。指先で語れ!」


 ニヤリと、不敵な笑みを浮かべて。


 禿頭の巨漢が振り返り、両手を頭の後ろに組んで腰を突き出してくる。


 鍛え抜かれた背筋が隆起して、

 まるで鬼の形相のようだ。


 黒布に覆われた巌の如き臀部の上には、絶対の自信を誇示するかのように、完頂魔法印が力強く発光していた。


「おう、勿論なんだぜ!」


 要塞じみた黒の決闘下着ケツパンを前にして、黒髪の少年もまた腰を落として脇を引き締め、両手の人差し指を束ねた『フォーマルフォームを胸元に構える。


「それでは第五試合、大将戦を執り行います! 試合……初めえええええっ!」


 審判員の掛け声と共に、ビビーッと、最後の電子音が鳴り響いた。




【作者の呟き】


 曰く、修羅の如き尻闘けっとうの日々を生き抜いた者だけが獲得できる、伝説の背筋があるとかないとか……

 

 

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