第14話 第四試合 前哨戦

〈ナルミ視点〉


「おいおい……あの薔薇獅子クリムゾンが負けるなんて……」

「大判狂わせだ!」

「いやあのルーキー、すげえよ。マジやばいって!」

「いったいどういう締め付けしてるんですかねえ……」

「ねえねえ、あの子スゴくない!? 超凄くない!?」

「私ファンになっちゃった!」


『いやまさか……あの海門学園が、先鋒に続いて中堅まで陥落するとは、試合前にいったい誰が予想できたというのでしょうか! しかもそれを成したのが、ノーマークだった公立結野高校! しかもそのうち二名が一年生という布陣でこの戦績は、まさしく下剋上といったところでしょうか!』


『ええ、この結果には私も大変驚いています。彼らの動向には、今後も目が離せませんね!』


 全国屈指の強豪校が先に二つ黒星をあげるという波乱の展開に、俄かに沸き立つ観客らであるが、尻闘場けっとうじょうでその賞賛を一身に浴びる少年の表情は、常よりも陰を帯びていた。


(……気に入らないな)


 幼少期の経験により、周囲の視線に聡いナルミは、そこに込められた賞賛以外の感情も鋭敏に感じ取っている。


(……どいつもこいつも……まるで、ここがボクたちの、『終わり』みたいな物言いをして)


 それは惜別。


 ここまで健闘した挑戦者の、

 これからを嘆く憐憫であった。


 そしてその根拠が、退場した海門学園の中堅と入れ替わりに舞台へと上がり、小柄な少年の前で腕を組んで仁王立つ。


「うぬよ、名はなんと言う」


 それは、遥か高みより降り注ぐ声であった。


 問いかける巨漢は百九十を超える背丈であり、全身をみっちりと、隆々と黒光りする筋肉が覆っている。


 さらには鋭い眼光。

 磨き抜かれた禿頭。

 傲慢なほどの覇気。


 身長百六十に届かないナルミと巨漢とでは、物理的に差があるが、それだけではない。


 戦い続けてきた、そして勝ち続けてきた者だけが宿す強者の威圧が、彼には備わっていた。


「……そんなの、ゼッケンを見れば、わかるでしょう? ……その目は、節穴ですか?」


「こらあナルミくん! 年上の人は敬わないとダメなんだぞ! じっちゃんが言ってたんだぜ!」


「……ごめんねイッくん、いまシリアスな雰囲気だから、ちょっと黙っててくれるかな?」


「おう! わかったぜ!」


「……ん」


 天然だが良い子である親友に、

 ほっこりしつつ。


 ナルミが顔を正面に戻すと、

 射抜くような眼光に貫かれる。


「強者の名は、その口が語ることに意味がある。うぬよ、名乗れ」


 こちらの言い分など聞いていない。

 

 言葉は通じても、心には届かない。


 強者特有の驕り。自負。価値観。


 それらを巨漢から汲み取ったナルミは、小さく嘆息して、渋々と要求に応えた。


「……ナルミです。……盾永・A・ナルミ。……これで満足ですか?」


「うむ、盾永よ。しかとその名は、覚えたぞ」


 噛み締めるように。

 噛み砕くように。


 敵の名を、呟いて。


「うぬの名は、この月牙泉出しりがでカイが、全国へ連れて行ってやろう。だから安心して、逝くがよい」


「……上ッ、等!」


 海門高校の大将、百名近い部員らの頂点に君臨する『絶門童帝アイアンロード』が、ナルミの前に立ち塞がった。




【作者の呟き】


 海門学園の主将は、だいたい『ワン⚪︎ンマン』のクロ⚪︎カリさんです。






 

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