第12話 第三試合 其の弐
〈ローズ視点〉
「うっわ!」
「マジか!?」
「身体やわらけえ〜」
「へえ……
観客たちがざわつくほどに。
ローズの視界から消失したようにも見える金髪少年の上半身は、それほどまでに深く、前傾して、沈んでいた。
そのぶん自然と腰は高く上がり、そうして開いた股の間から、上下逆転した翡翠の瞳が、
(……成程。それが貴様の勝算か!)
ひとつは海門学園の先鋒、ローズの後輩である
もうひとつは逆に、眼前の金髪少年が行っているように、相手の動きを観察しながら、それに対応した動きを行う
ただし一般的な
それゆえに使い手を選ぶ希少な
「……リー、……リー、……リー、……リー」
こちらの迂闊を誘うように。
滑らかな、独特のリズムで細長い呼気を繰り返しながら、ゆらゆらと腰を揺らす金髪の少年。
一見して無防備に急所を晒しているように見えるが、股下で輝く碧眼は油断なく、こちらの動向を窺っている。
もし不用意に
とはいえあちらと同じく手を出さないままターンを終えてしまえば、消極的行動による
つまり先攻をとられた時点で、後攻であるローズに手を出さなないという選択肢はない。
こうした手番による駆け引きもまた、
(だがそれはあくまで、凡夫どもの場合だ!)
全国屈指の強豪高校で過ごしてきたローズは、数こそ少ないものの、そうした希少な
よって対処法も、身につけている。
「フン! フン! フン! フン!」
炎のように赤髪を乱舞させて、
紅獅子が牙を剥く。
『おお〜っと、ここで私利阿奈選手、
『そうですね。一般的に
『なるほど! さすが海門学園の部長、迷いのない的確な判断です!』
『とはいえあのような動きは、本来は
『ほうほう、ということは、長期戦になると私利阿奈選手が不利であると?』
『もちろんそれは彼も織り込み済みでしょうから、おそらくこの
プロの
彼はここで仕留める。
鋭い呼気とともに上半身を躍動させながら、しかし熱く燃える肉体とは裏腹に、冷静な視野を以って対戦相手の隙を窺う。
「……リー、……リー、……リー、……リー」
「フンッ! フンッ! フンッ! フンッ!」
「「「 ……っ! 」」」
緩と急。
対照的な動きを見せる少年たちの睨み合いを、観客たちも、固唾を飲んで見守っていた。
そして、両者の膠着が二分の半ばを超えた頃に――
「――パワーあああああっ!」
動いたのは、ローズであった。
力強い
呼吸の切れ目、可動域の限界、
(突破あああああッ!)
だが
魔力強化した指先で硬く閉ざされた
(ここで決める!)
そこに至るまでの姿勢、推進力、腕の力、背中の筋力、足腰の踏ん張りなど、そうした全身の力を一点に収束することで、対戦相手の防御を上回ることができるのだ。
そして数多の実績により裏付けされた、海門学園の副部長が放つ一撃が、狙いを違えるはずなどない。
独特の感触を有する
次の瞬間。
(――っ!? 何いっ!)
伸縮性の高い白布の上から。
第二関節までが
止められてしまった。
ギチギチと、肉食獣の咬合力が如く。
異常な締め付けを人差し指に感じて、
ローズの背筋に悪寒が走る。
(まさか……こやつ、
はたと乱舞をやめた紅獅子を、
嘲笑うかのように。
獣の牙を文字通り『喰い止めた』少年は、小さく呟いた。
「……『
【作者の呟き】
いったいいつから、ギアが一段だけだと錯覚していた……?
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