第10話 第三試合 前哨戦
〈ナルミ視点〉
審判から手当が必要と判断されたスイが担架に乗せられて、試合会場から運び出されていく。
「大丈夫、大丈夫だからね、すーくん! 私が付いてるから! ……イツマデモ、ズットお……ッ」
それに付き添うアスカの、
歪んだ微笑みを見なかったことにして。
イギリス人とのクオーターである金髪碧眼の少年は、傍の少年に問いかけた。
「……大丈夫、イッくん?」
普段から瞳に翳を宿している少年の声音には、心からの気遣いが乗せられていた。
その一言には、様々な意味が込められている。
翡翠の瞳に映る黒髪の少年は、このような大規模な大会に参加するのは初めてのはずだ。
それなのに初戦で全国屈指の強豪校と当たり、
そのうえ唯一の先輩である部長が緊急搬送。
先ほどの一戦で
さらに付け加えるならばスイのああした姿は、
周囲からの重圧。
未来への不安。
王者の威圧。
そうしたものへの配慮が込められたナルミの言葉に、イクは、
「ん、何がなんだぜ?」
コテンと、首を傾げた。
「それよりもナルミくん、絶対に勝ってこいよ! 先輩の仇討ちだぜ! 燃えるぜえええ!」
「……そっか。……うん、そうだね」
それどころか、このような状況下でも、イクは、ナルミの勝利を全く疑っていない。
それが嬉しい。
たまらなく嬉しい。
自然と緩みそうになる頬を、
なんとか自制して表情を保つ。
(……まったく……イッくんには、敵わないな)
かつては重荷に感じていたはずの、
他人からの信頼。
それがこうも己の心を掻き立てていることに、身内からですら「冷めている」と評される少年は、内心で苦笑を禁じ得ない。
(……でもまあ……イッくんの期待は、裏切れない、よね)
黒髪の少年から視線を剥がし、
「来るか、雑兵ども」
見上げる先から放たれる声音には、
威圧と侮蔑が乗せられていた。
「先達のあのような醜態を目の当たりにして退かぬとは、彼我の実力差もわからぬ、愚鈍の極み。やはり愚将のもとに群がる兵もまた、雑兵ばかりということか」
「うっす! ありがとうだぜ!」
「……イッちゃん。あれ、褒めてないからね……?」
とりあえず長ったらしい台詞は全て褒め言葉に脳内で変換されるのだという、ポジティブが過ぎる親友である。
「……悪いことは言わぬ。衆目の前で無様を晒す前に、疾く往ね」
「うっす! ありがとうなんだぜ!」
「……チッ」
ほとんど脊髄反射であるイクの習性を、挑発だと判断したのか、赤髪の少年が忌々しげに眉根を寄せた。
「……所詮は貫地谷に背負われて、ここまでやってきただけの愚物ということか。彼我の実力差すらわからぬとは、哀れなものよ」
「うっす! ありがとうございますだぜ!」
「……あ゛?」
吐き出されたローズの言葉に顕著に反応したのは、無駄に威勢だけはいい黒髪の少年ではなく、金髪の少年であった。
「……ねえ……おい、アンタ、今なんて言った? ……ボクの
「事実、その通りだろうが。どうせ貴様らなど、大会に出場するための数合わせ。地区予選を勝ち抜けたのは、貫地谷の力があってこそだ」
「うっす、その通りだぜ! 先輩は凄いんだぜ! 超強いぜ! 尊敬するんだぜ!」
「……ふん。愚物なりに、少しは見る目があるようだな」
何故かほんの少し、イクを見る目が和らいだ赤髪の少年であるが、そうした反応すらもナルミにとっては逆鱗であった。
「……イッくんに、色目を使うな! この糸目野郎!」
「こらキミたち、いい加減にしなさい! それ以上の暴言は、
「……その通りだ、雑兵。己の我を貫きたくば、
「……上等、です!」
「おおう! よくわからないけど、ナルミくんも燃えてるな! その意気だぜ!」
親友の声援を背に受けて。
新たな挑戦者が、
【作者の呟き】
アスカさんはメンヘラ。
ナルミくんはヤンデレ。
わかる人にはわかんだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます