第7話 第二試合 前哨戦

〈スイ視点〉


「おいコラ! しっかりしろ、草猪!」

「栄えある海門学園のレギュラーが、一勝もできずになんてザマだ!」

「お前にはまだ、その場所は早過ぎたのか!? ええっ!?」

「徹底的に鍛え直してやる!」

「ナマイキなその鋼門ゲートがガバガバになる寸前までシゴいてやるから、覚悟しろよ!」


「ちょっ!? セ、センパイっ!? カンベンしてくださ――ぎゃあああああっ!」


 大会スタッフによる回復魔法によって、

 完頂状態から復帰した矢先に。


 屈強な体格の海門学園生徒らに両脇を固められた桃髪少年が、絶叫を残して、試合会場の外へと連行されていった。


「……」

 

 そうした後輩の後ろ姿を冷ややかに一瞥するのは、彼岸花のような赤髪を垂らした糸目の少年である。


「……フン。いい気になるなよ、貫地谷。所詮あいつは、レギュラーの中では一番の小物だ」


「いいや彼は、強敵だったよ。僕の場合は、たまたま相性が良かっただけだ」


「……その、甘ったれた性根は相変わらずだな。勝者の憐憫など、むしろ敗者の傷口に塩を塗る行為を知れ」


「ろー……私利阿奈くんこそ、相変わらずのスパルタだね」


 海門学園の先鋒が敗退したため、入れ替わりに尻闘場けっとうじょうに上がってきたのは、スイのかつてのチームメイトである私利阿奈しりあなローズ。


 此度の試合における中堅であり、海門学園の尻闘けっとう部においては副部長を務める秀才は、厳しい顔つきのまま腕を組んでスイを非難する。


「そのような腑抜けだから、貴様はそのような場所にいるのだ。部長でありながら先鋒とは、哀れなものだ。惨めな奇策に縋りつかざるを得ない現状こそが、貴様の失敗を物語っている」


「キミの言う失敗が、どれを指しているのかはわからないけど……僕は、今の自分とチームに、心から満足しているよ。僕は得難い仲間を得た。……あの頃の、僕たちのように」


「……減らず口を」


 二人を見守っていたのかのように。


 ビビーと会場に電子音が鳴り響いて、

 スイはローズに背を向けた。


 手番ターンが終わったため、公式ルールに則って、攻守が逆転したためだ。


 今度はスイが受けディフェンス側に、

 ローズが攻めオフェンス側となる配置につく。


 天性の長くしなやかな足を伸ばして、腰を突き出すように高く掲げながら、スイはかつてのチームメイトに宣言した。


「今でも僕は、キミに負けているとは思っていない。あの頃の、続きをしよう」


 対峙するローズは眉間に皺を刻みながら、数えきれないほど繰り返してた流麗な動作で両手を組み、人差し指を束ねる。


 精度、強度、凸度のバランスが良い、手型の基礎とされる『フォーマルフォームだ。


「……戯言を。今のそれがしは、かつての某ではない。積み上げてきた時間の重みを、思い知れい!」


 垂らされた赤髪の向こう側。


 細められた糸目の奥には、

 メラメラと闘志が燃え盛っている。


「それでは、第二試合を執り行います! 両名とも、悔いのない尻闘けっとうを!」


 そして――かつては。


 同じチームで尻を並べた少年たちによる、

 

「試合――始めえええええっ!」


 じつに二年越しとなる尻闘けっとうの火蓋が、

 切って落とされた。




【作者の呟き】


 ツンデレさんにはテンプレな台詞が映えますねえ。


 


 


 

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